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第10回(2024年)サステナブルファイナンス大賞インタビュー③優秀賞。三菱UFJ信託銀行。サステナブル奨学金とJ-REIT向けグリーンファイナンスを投資対象とするファンドの組成(RIEF)

2025-02-05 11:58:58

スクリーンショット 2025-02-05 011758

写真は、授賞式で表彰を受けた三菱UFJ信託銀行のフロンティア事業開発部部長の石崎雅文氏(左の写真の㊧)と、同オルタナティブ商品開発部部長の阿出川純氏(右の写真の㊧)。両方の写真で表彰状を支えるのは環境金融研究機構代表理事の藤井良広)

 

 三菱UFJ信託銀行は、信託機能を活用して「サステナブル奨学金ファンド」と「J-REIT向けグリーンファンド」を市場化したことから、第10回サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。前者については、同行フロンティア事業開発部の中尾元彦(なかお・もとひこ)氏と平野允哉(ひらの・まさや)氏に、後者については、同行オルタナティブ商品開発部の木村慎(きむら・まこと)氏と渡邉舜作(わたなべ・しゅんさく)氏に、それぞれ背景等の話を聞きました。

 

 

<サステナブル奨学金ファンド>

 フロンティア事業開発部

 

――まず、「サステナブル奨学金」を作ろうとしたきっかけを教えてください。

 

平野氏: 5年前に私が提案しました。社内に新商品提案制度があり、自分がやりたいと思ったビジネスを社長にプレゼンをして、良いと評価されると、企画部門に異動し、実現に向けて検討させてもらえる制度です。そこで提案して最優秀賞をもらい、フロンティア事業開発部に異動し作りました。

 

 提案当時、学生の時に借りた奨学金を返せなくて破産する会社員が増えているという話がニュースになっていました。日本の奨学金はほとんどが貸与型、いわゆる借金です。学生の二人に一人が平均324万円を借りていました。社会人になってから返すのですが、多くの人が、返せなくて自己破産するのです。

 

 企業が奨学金を返せなくなった社員の肩代わりをする「奨学金の代理返還制度」の利用者は急増し、年2000件を超えています。ただ、企業が後から出すお金があるのなら、前もってそれを寄付してもらって運用して増やし、それを学生に給付することはできないか、と考えたのです。異動後、まずスタートアップ企業に出向し、新規事業のイロハを学びました。2022年の9月に部に戻り、奨学金作りに着手しました。

 

平野氏
平野允哉氏

 

――奨学金ファンドの仕組みづくりは、順調に進みましたか。

 

 平野氏  : そううまくはいきませんでした。信託銀行が学生の募集とか給付の事務とか、そんなこと本当にできるのかという、「内部のカベ」に、まずぶち当たりました。

 

 中尾氏 :信託銀行の個人客は一般的に、比較的高齢の富裕層が中心で、奨学金を必要とする学生層にはそもそもリーチしていません。どうやって学生と関係を築くのか。送金しようにも、普通の銀行なら、学生の預金口座もあるでしょうが、信託銀行に口座を持っている学生はほとんどいません。じゃあ、どうやって奨学金を渡すのか。また、それ以前に、どうやってお金を借りる奨学生を募集するのかなど、学生との接点という入口のところで、ことごとくつまずきました。

 

――それらの「カベ」を、どうやって突破したのですか。

 

 平野氏 :株式会社ガクシーという会社と協業することにしたのです。われわれだけでは、学生の募集とか、接点作りといった点が、どうしてもできなかったのです。ガクシーは奨学金の情報を発信しているプラットフォーム企業です。

 

 運良く、両社の顧問同士につながりがあり、2023年10月にガクシーの社長とディスカッションを始めました。やりたいことはほぼ一緒でした。役割分担は、運用はわれわれで、学生の募集はガクシーがということになりました。すでに、ガクシーには30万人ぐらいの学生が登録されていました。

 

 中尾氏  :当初、ガクシーがそんなに多くの学生を抱えているとは知りませんでした。信託銀行ではできなかった部分のパーツが一気に埋まったのです。資金の出し手が「こういう分野に使ってほしい」という指定がやりやすくなったのも、ガクシーのプラットフォームのおかげです。

 

 2010年代まで、奨学金に関する情報を知るには、大学の学生支援課のポスターを見るぐらいしか方法がなかったと思います。SNSも発達してないし、学生が個別に探すしか方法はなかった。ガクシーは、プラットフォーマーとして30万人の学生の情報を一元的にデータベース化し、学生の属性、学科、地域、年齢を把握・管理しています。これらの機能を活用することで、資金を出していただく方々が「こういう学生のために使ってほしい」と、オーダーメイドの奨学金を出すことも容易になりました。

 

中尾氏
中尾元彦氏

 

――サステナブル奨学金の一番の特徴は。

 

 中尾氏  : 給付する奨学金には運用益だけを使うところです。元本を崩さないので一人当たりの給付額は少額になりますが、元金は維持されるので、半永久的に奨学金を社会に出し続けることができます。2029年までの5年間で1000億円を集め、年4~5%の利回りで運用し、全体で4000人の学生に年120万円を給付するのが目標です。

 

――反響はいかがですか。

 

 平野氏  :すごくあります。これまでにも100件ぐらい問い合わせをもらいました。そのうち、8対2ぐらいが企業からの問い合わせです。また全体の9割ほどは「これは何ですか」といった一般的な質問でしたが、残りの1割ほどの方々からは、「資金提供を考えたい」との反応がありました。

 

 中尾氏  :資産運用商品のプレスリリースや広告等がいくらでも世の中に出ている中で、これだけの良い反応があったのは、やはり奨学金問題が社会課題として広く認識されているためだと思います。そこはわれわれにとっても「気づき」でした。奨学金は今、生きている人にとって身近で、共感を得やすい領域だと思います。

 

 今年の4月から運用を開始するために、まず10億円集めようと考えていましたが、金額はまだ申し上げられませんが、計画通り4月から第1号の運用ができそうです。運用がうまくいけば奨学金の給付を2026年の春には始められます。世の中に寄付運用のマインドを根付かせていければいいと考えています。

 

――目標通りにいけばいいですね。

 

 平野氏 : 給付型奨学金で、誰もが等しく学べる社会を作りたいというのが私の思いです。私は教育学部でティーチングアシスタントとして2年間、教育の場に入った経験もあります。その時に見たのは、本当に優秀な子供が、お金がないという理由で進学をあきらめたり、奨学金は借金なので、そもそも借りずに進学をあきらめたりする姿でした。

 

 「親ガチャ」などという悲しい言葉が流行っていますが、現実はその通りで、親がお金持ちの子は有名な私立の中学高校に通えるが、家にお金がない子は、そうした教育環境が得られないということを、教育現場で肌身で感じました。どんな家庭環境の人でも進学できて学べる、生まれてきた環境に関係なくみんなが平等に学べる、そうした社会を作りたいというのが今回の給付型奨学金ファンドの目的です。それを達成できたらいいと思います。

 

<J-REIT向けグリーンファイナンスファンド>

オルタナティブ商品開発部

 

――このファンドの概要を教えください。

 

 渡邉氏  : 信用力がダブルA格で、日本格付研究所(JCR)のグリーンファイナンスフレームワーク評価で「Green1」の最高評価がついているJ-REITリートに投資するファンドです。運用利回りは3カ月で年率0.60%です。

 

渡邊舜氏
渡邊舜作氏

 

 われわれのファンドはダブルAマイナス以上の銘柄を組み入れることが基本です。現在、REIT市場には、全部で52のREITがありますが、そのうち35件が当てはまります。ファンド運用の場合、ソーシングができない、つまり投資する銘柄が見つからずに失敗するファンドがそれなりにあります。このファンドの場合、全体の対象が35件あるので、ソーシングもある程度、確実性があり、ローン格付けもダブルAとなっています。現在組み入れているのは、ラサールロジポート、森ヒルズ、ユナイテッドアーバン、イオン、大和証券オフィス、アドバンスレジデンス、積水ハウス、東急リアルエステートの8銘柄です。

 

 木村氏  : 物流、オフィス、総合型、商業、住宅と幅広いREITが入っています。

 

――ファンドの特徴を教えてください。

 

  渡邉氏  : 一番の特徴は、流動性補完がある点です。ローンが10年なのに対し、投資家からの投資は3カ月ごとで、投資家のお金の出入り次第ではお金が集まらないことがあり得ます。そうした際には銀行が、ファンドに対して貸し出しをする形で補完し、安定的に運用できるようにしています。

 

 J-REIT向け貸出債権を持つ当社と投資家の間に、二つの合同運用指定金銭信託を、マザーファンドとベビーファンドとして置き、3カ月ごとに新しいファンドを建て直す形にしています。この「ベビー・マザー構造」がポイントです。

 

 木村氏  : われわれが支援したいと考えているのは、グリーンビルディングを取得したいJ-REITの調達サイドです。J-REITはだいたい10年ぐらいの長い調達が必要です。一方の投資家は事業法人だったり、非営利法人だったりと多様で、いずれも、長期運用よりも3カ月などの短期で運用したいところが多いです。開発したファンドは、こうした長期で調達したいREIT法人と、短期で運用したい投資家を結びつけています。

 

 投資家は3カ月で入れ替わるので、集まらない場合も想定されます。その場合は、われわれ信託銀行が銀行勘定からバックアップラインとしてローンを出してつなぎ、3カ月後にまた募集して別の投資家に買ってもらう形でつないでいきます。投資家とREIT法人のアンマッチなニーズを、結び付けるところがポイントです。

 

 今は三菱UFJ銀行の方に部門を移していますが、実は7、 8年より前は、信託銀行がREITに直接貸し付けをしていました。なので、経験上、このローンの安全性については周知しています。いったん、銀行勘定でREIT法人の資金調達のタイミングに合わせてお金を貸し出し、ファンドにお金が集まった時点でファンドに移します。貸し出しは、銀行勘定で10年の与信ができる相手を選びますので、ファンドに移した後のバックアップラインのローンのリスク評価は、実は入口の段階で終わっています。もちろんモニタリングはしますが、新たなリスクを取らなければいけないということではありません。

 

――このファンドを組成した目的は。

 

 木村氏  : このファンドを始めた理由は、不動産業界のCO2の排出量が日本の3割を占めていることが大きな理由です。不動産部門からの排出量をなんとか落としたい。どうやったらいいかと考える中で、J-REITが、オフィスビルから物流、住宅まで、結構、日本の不動産市場に浸透しており、割合も高くなっているので、REITのグリーンビルディング取得を支援するファンドを作ってみようということで組成しました。

 

木村氏
木村慎氏

 

 CO2の排出量削減が世の中の課題となる中で、少し前になりますが、リニューアブルトラストファンドという商品が出ました。再生可能エネルギーを中心にしたファンドです。再エネなので火力発電を抑制し、風力発電や太陽光発電を支援するファンドでした。私どもは信託銀行ですから、不動産という近しい業界のCO2排出量をどうやって削減しようか考えたのです。

 

――反響はどうでしたか。

 

 木村氏  :まず、 J-REIT側から多くの問い合わせがありました。J-REITには二つ課題があって、一つはせっかくグリーンビルディングを取得しても、世の中から目に見える形で「グリーン」と評価されないことです。われわれのファンドの場合、1~2ベーシスとわずかですが、マーケットよりも安くして、グリーンの価値を評価させていただいています。

 

 もう一つは、J-REITは借り入れを基本的に銀行からだけとしている点です。銀行もバランスシートがどんどん大きくなっているので、無尽蔵には資金を出せない。一方のJ-REITはどんどん成長しています。そこで彼らから見て、資金調達の手段の多様化、確保という観点を入れてファンドを組成しました。その辺もすごく評価していただいています。

 

 J-REITは、たぶんこのファンドがなくてもグリーンビルディングを取得していくと思いますが、「グリーン性」を市場に評価されないと、持続可能ではないという面もあると考えています。グリーン性を金融面で評価して支援する流れがあって初めて、続けていけると思っています。

 

――投資家側からの評価はどうですか。

 

 木村氏  : 投資家側も、特に事業法人の場合は環境経営の進展の中で、自らが保有するビルや設備などのグリーン化を進めているものの、実際には、十分な「グリーン投資」ができていない面があったかと思います。グリーンボンドを買う手もありますが、運用期間がちょっと長過ぎる。したがって、このファンドのような短期商品で、かつグリーンの運用商品というのはありがたいとの評価をいただいています。キャッシュフローに認定されるのが3カ月ですので、運用期間が3カ月以内というのは、投資家にとって魅力的だと思います。

 

 今の投資家は、やはりグリーンに投資をしたいということだと思います。最近は、金融機関によるグリーン預金も出てきましたが、投資商品として「グリーン」となると、まだあまりないと思います。これまで学校法人などは、あまりこうした投資商品は買わなかったのですが、この商品は基本的に予定配当を守る安定的な商品なので、安定運用でかつグリーン、ということで、これらの投資家層のニーズにもマッチし、大きな投資をしてもらっています。

 

――現在、ファンドの目標は「500億円」ということですが、達成の見通しはどうですか。

 

 木村氏  :立ち上げ時の目標が「5年で500億円」です。今は立ち上げから2年弱ですが、371億円です。おそらく来年度中に500億円を超えると思います。早めに当初目標を達成し、次の目標を「5年で1000億円」に引き上げたいと考えています。そうなると年200億円の純増ですので、社内からも期待されています。

 

 ――課題はどうですか。

 

 木村氏   :  ファンド事業で難しいのは、規模を拡大し、かつ持続させることです。立ち上げも難しいのですが、維持するのが最も難しい。このファンドは、立ち上げ時は、周囲からも本当にやっていけるのかと言われたりしました。今は、一緒にやっている銀行サイドからも、投資法人からも一定の評価を得つつあります。

 

(聞き手は 宮﨑知己)