第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー④優秀賞:野村證券。「サステナブル投資スキーム」で非可食植物からの「航空燃料(SAF)」開発の米スタートアップに投資支援(RIEF)
2026-02-23 20:51:32
(写真は、第11回サステナブルファイナンス大賞で優秀賞に輝いた野村ホールディングス企画部長兼野村證券サステナブル・イノベーション事業開発グループManaging Director 佐野悠樹氏㊨と同開発グループヴァイス・プレジデント濟木ゆかり氏㊧)
野村證券は2025年3月に、「サステナブルな社会の共創・支援に向けた投資スキーム」を立ち上げ、その第一号案件として、持続可能な航空燃料(SAF)やバイオ燃料の原料となる非可食植物の栽培研究や植林に取り組む米国のスタートアップ企業に投資したことが評価され、第11回サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。野村ホールディングス・野村證券のサステナビリティ企画部長で、サステナブル・イノベーション事業開発グループ マネジング・ディレクターの佐野悠樹氏に聞きました。
――立ち上げた「投資スキーム」はファンドの一つですか。
佐野氏:「金融資本市場の力で世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」という野村グループのパーパスのもと、社会課題を解決し、サステナブルな社会を共創・支援する取り組みとして投資スキームを立ち上げました。ただ、100%自己資金による投資であり、顧客企業や投資家から資金を集めるファンドの形はとっていません。より長期の視点で社会課題の解決に挑む未上場企業や、バリューチェーン全体の革新を目指すプロジェクト等に対して投資を行い、社会的インパクトと財務的インパクトを同時に追求してきたいと考えています。
――優秀賞の対象となったSAFの原料を研究・栽培する米スタートアップ企業への投資はどのように進めたのですか。
佐野氏 2025年3月の投資スキーム策定後、投資対象事業を審議・決定する投資委員会等を整備し、2025年8月初旬に、米企業のテルビバ(Terviva)への投資を決めました。SAF原料の多様化については2年ほど前からリサーチしており、テルビバ社についても知っていました。内閣府の「ムーンショット型研究制度」の中の「2050年の食と農」の分野のプログラムマネジメント業務を野村グループが受託しており、植物を原料とするSAFの研究は当社にも身近なものでした。本投資枠ができ、当社も自ら貢献できることがないかと考えて検討しました。
――今のSAFの製造は、主に廃棄物や廃油を原料としています。それらに加えて特定の植物を原料にするとのことですが、どう違いがありますか。
佐野氏 われわれがSAFに注目した理由は、航空業界はすでにグローバルに脱炭素実現に向けた合意が出来ており、さらに脱炭素の手法として、SAFを使うのが主な手段になるということで認識が一致しているからです。どの脱炭素手法を使えばいいかで未だ迷っている他の産業に比べれば、焦点が一つに絞られているところが良いと思っています。
SAFの製造技術には何種類かあり、今回使っているのは、HEFA(水素化処理エステル・脂肪酸)法の一つで、廃食油等からSAFを作るのと同じ技術であり、何十年も前からある伝統的な技術です。したがって、新たな技術が抱えるような技術リスクの心配があまりありません。HEFAの技術は確立していて基本的にコストが安いという点に注目しました。

テルビバ社の特徴は、SAFの原料として、ポンガミアという植物を植林し、その種子を活用します。同植物の種子は油分の含有量が高く、種子を絞った際、その3分の1くらいを油として回収できます。パーム油と比肩できるような油分含有率で、収穫量当たりの油の採れ高が高いというところが注目点です。
――普通の農地で栽培するのですか。食料生産との競合の問題はありませんか。
佐野氏 ポンガミアの良いところは、荒廃地に植えることができる点です。また、豆(種子)は渋くて食用には向きません。食べられる植物をSAFにしてしまうと、食物供給への影響が生じて、欧州などではSAFとして認められないことがあります。これに対して、ポンガミアは非可食であり、荒れ地でも育つので森林再生にも期待できる点が、良いところです。
――テルビバ社は米国の企業ですね。
佐野氏 そうです。本投資枠は主に日本国内への投資を考えているのですが、この件は以前から検討していた経緯で米国投資となりました。そもそもは、米国のフロリダ州で果樹園の植物が病気で枯れてしまったことがきっかけとされています。農場主らから、代替できる強い植物を求めるニーズが高まり、ポンガミアの栽培が始まりました。荒れた果樹園をポンガミアで代替できないかというフロリダの果樹園のニーズと、収穫した種子をSAFの原料にできないかというニーズが重なって、注目されるようになりました。そのポンガミア由来のSAFの精製は近く実現する見込みです。今年には、大きな進展をみせられるように、関係各社で努力しています。
――SAFに精製して売却する先も決まっているのですか。
佐野氏 はい。大手エネルギー企業の取引先があります。現在の課題は、ポンガミア由来の油をSAFとして使用するために必要なCORCIA認証を得ることです。また、飛行機に搭載して利用するためには、安全性について国際品質規格に適合させる必要があります。現在は、これらの認証取得をどう進めていくか規制当局との調整等を進めている段階です。
――商業化もアメリカでおこなうのですか。
佐野氏 テルビバのフロリダでの拠点は、実証研究用の植林地になっています。2012年くらいから植林をして何世代も遺伝子を改良しながら、エリート品種を作るための研究を続けています。他方で、商業的に広くポンガミアの植林をするには、米国でない地域の方がコストが安いという利点があるので、大手商社やエネルギー企業と地域ごとに連携して、プロジェクトを展開しています。
当社はまだ投資したばかりということもあって、プロジェクトレベルでの取り組みの段階には至っていません。公表されているケースでは、出光興産、住友商事がテルビバによるオーストラリアでの取り組みなどがあります。現地の実務に強い企業がコンソーシアムを各地で編成して展開しています。

――投資スキームの第2号案件も決まっていますか。
佐野氏 第2号案件は国内の「グリーンファード・エナジー」社への投資を決め、今年1月15日に発表しました。同社は冷凍、冷蔵、空調などの設備を自動で最適制御する先進的な技術を開発し、ソリューションとして提供する会社です。同社の事業には2つ効果があります。1点目は、IoT技術やAI技術を組み合わせて空調を丁寧にコントロールすることで、工場、倉庫、ビル、データセンターなどでの電力使用量やコストを抑制することができます。2点目は、電力の需要側での調整力を高めることで、節電効果分を、デマンドレスポンス市場で売却できるため、電力需要家である事業者にとっては新たな収益源となります。
――野村グループが「脱炭素事業」に投資などで関わっていくメリットについては、どう位置付けていますか。
佐野氏 そもそもこの投資スキームを作った動機に戻ってお話しいたします。2025年3月にスキームを作りました。そのころは、従来からの世界の脱炭素に関する動向に少し「修正」が入る時期でもありました。当社の認識としては、2020年代の前半に見られたような全世界一律的な動きから、今後は、世界の各国がそれぞれの国とか社会の経済状況を考慮しながら、地域ごとの特性を生かした低炭素社会への取り組みが進んでいくだろうと考えるようになり、またそのためのイノベーションこそが重要だろうと判断しました。
ただ、このイノベーションやサプライチェーンの大掛かりな変更を伴うプロジェクトというのは時間がかかることと、不確実性があることが、事業家にとっても投資家にとっても、悩ましい課題です。われわれ野村グループは、これまでファイナンスの支援やアドバイザリーなどの本業を通じて、そうした不確実性と長い時間軸を考慮に入れた仲介役として取り組んできました。これが本業なのです。こうした金融事業者としての本業に加えて、当社自身も直接、イノベーション等の変革の一翼に、直接参加できないかという思いもあり、今回のようなスキームを作ったのが動機です。
そういう意味では、自らの取り組みを直接、メディアで発信したり、あるいは事業者や投資家等と一緒になって、プロジェクトの進め方や規制の在り方等についても、どう考えればいいのかといった問題提起を、当事者として積極的に発信していきたいと考えているところです。
――まさに米国でトランプ政権が再登場して、気候・環境政策やESG等に関連する政策変更を展開し始めたのが、野村が投資スキームを立ち上げられたころと符号しますね。「地域の特性に応じてやっていく」と言われましたが、「脱炭素政策」の変化も踏まえているということですね。
佐野氏 まさにそういうことです。2024年頃までの世の中は、特に金融機関では、投融資のポートフォリオの温室効果ガス(GHG)を計測して、それを脱炭素化していくという流れでした。当社は投資銀行ですので、投融資のポートフォリオの総額は(銀行等に比べて)大きいわけではなかったので、本業である顧客企業のファイナンスの支援とイノベーションの創出に力を入れていくとともに、自分たちの金融事業のやり方も深化させるために作ったのがこの投資スキームなのです。
――政治的な微妙な流れの変化にも対応できるということですね。

佐野氏 そうですね。世界全体の微妙な流れの変化に対応するわれわれの答えの一つが、この投資スキームの新設ということにもなります。
――トランプ政権以降、ESGの流れは変わったとされますが、ESGの中でも焦点を絞り込めば、いろんなビジネスにつながるものが、グローバルにも国内にもあるということですか。
佐野氏 そうだと思います。必ずしも、ESGのE(環境)だけをターゲットにする必要はありません。投資ターゲットとして脱炭素やエネルギー系で7割くらい、ソーシャル(社会)分野であるウェルビーイングやヘルスケアなどで3割くらいカバーしたいと、考えています。
最後になりますが、当社は2025年12月に創立100周年を迎えました。100周年記念事業として「野村ウェルグローイング・インスティチュート」を設立し、人々が生涯にわたり挑戦と成長を続けられる社会の基盤づくりを目指します。今回の投資スキームによるスタートアップへの投資は、同インスティチュートの取り組みの中核をなすものであり、豊かな社会の実現に向けて引き続き活動していきます。
(聞き手は 藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance