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国際エネルギー機関(IEA)、初の「2050年ネットゼロ」ロードマップ。2021年に石炭関連新規投資禁止、35年にガソリン車等新規販売禁止、30年までのエネルギー投資額年5兆㌦(RIEF)

2021-05-18 17:28:52

 

 国際エネルギー機関(IEA)は18日、「2050年ネットゼロ」に向けたエネルギー部門のロードマップを公表した。報告は「目標への道は狭いが、まだ達成可能」と位置付けたうえで、「エネルギーの生産、輸送、使用のすべてで前例のない変革が必要」と指摘。2030年までのグローバルなエネルギー投資額だけで世界GDPの0.4%分に相当する年5兆㌦(約545兆円)が必要とした。同投資を含む官民の事業展開でGDP全体は現状のペースに比べ4%増となり、世界経済を底上げする期待も示した。

 

 IEAが「ネットゼロ」の総合的なロードマップを示したのは初めて。それによると、現在、世界の主要国が打ち出した「ネットゼロ宣言」による温暖化対策を全て達成したとしても、2050年CO2ネットゼロ達成には届かず、パリ協定が目標とする「1.5℃」の達成にも不十分との現状分析を突き付けている。

 

 IEA事務局長のFatih Birol氏は「われわれのロードマップはネットゼロ達成に必要な優先行動を示している。目標への道のりは『狭いが、まだ達成可能(narrow but still achievable) 』。ネットゼロは『1.5℃目標』を実現するための最善の機会であり、この重要で手ごわい目標達成に必要なスケールとスピードは、人類が過去に経験したことのない最大級のチャレンジである」と強調している。

 

IEAnetzero002キャプチャ

 

 ロードマップはIEAのエネルギーモデルに基づいて構築した。各エネルギーセクターや分野ごとに400以上の中間目標を設定した。たとえば、新規の化石燃料供給事業への投資や、新規石炭火力事業のための最終投資判断等を現時点(2021年)で停止することや、2035年までにグローバルベースで新規の内燃機関エンジン車(ガソリン車等)の新車販売を停止、2040年までにグローバルな電力セクターのネットゼロ達成等をあげている。

 

 エネルギー分野での主役になるのは再エネで、その中でも太陽光発電は30年までに630GWの発電量に達する。風力も同様に390GWに達し、両方合わせると現状(2020年)の4倍になる。この成長スピードは現時点で世界最大級のギガソーラー発電所を毎日、一つずつ追加していくことと等しい。エネルギー効率化も30年にかけて、毎年平均4%の効率化を展開する必要がある。この省エネ水準は過去20年間の平均水準の3倍に相当する。

 

IEAのFatih Birol事務局長
IEAのFatih Birol事務局長

 

 2050年のエネルギーの世界は現在とは大きく変わる。グローバルなエネルギー需要は効率化等の進展で、現状より約8%少なくなる。しかし、経済への影響は現状の2倍となり、新たに20億人の人々にエネルギーアクセスを確保できるようになる。

 

 2030年までのエネルギー投資を年間5兆㌦規模とすることは、現状(2020年までの5年間平均2.3兆㌦)の2倍強となる。脱炭素の推進で化石燃料部門では500万人の雇用が減るが、新たに再エネ等クリーンエネルギー部門でそれを3倍近く上回る1400万人の新規雇用が生まれると推計している。

 

 創出されるエネルギーのほぼ90%は再エネ事業からとなる。特に太陽光発電と風力発電が中心で両者合わせて70%を占める。残りの大半を原発で供給する想定だ。再エネのうちでは太陽光が最大のエネルギー源。化石燃料は現在、世界のエネルギー源の5分の4を占めるが、2050年の世界では、5分の1に縮小する。引き続き利用される化石燃料から排出されるCO2は回収・貯留されるか、プラスチック等への再利用、または低炭素技術の選択肢が限られるセクターでの限定的な使用等にとどめられる。

 

 次世代技術開発も重要だ。2030年までのCO2排出削減の大半は、現在利用可能な技術で対応可能とした。しかし、その後の2050年目標達成のために必要な削減量のほぼ半分は、現時点ではまだ実用化されていない技術を活用しないと達成できないとした。したがって、各国政府は早急に次世代クリーン技術の研究開発・実用化のための投資を高めることが求められるとしている。

 

 これらの次世代技術のうち、先進的な蓄電技術、水素製造のための電解設備、CO2を大気中等から直接回収・貯留する技術等を、特に重要と位置付けている。これらの技術の開発・実用化には、気候変動の影響を多様なプロセスで受ける市民の持続的な支援と参加なしでは達成できないとしている。

 

 IEAはこうした技術開発とその実用化において、先進国と途上国、あるいは貧富の格差が、人々のクリーンエネルギー利用に影響しないようにする国際的な配慮も求めている。「クリーンエネルギーへの移行は、人々のためである。ロードマップは我々の経済にとっての膨大な機会を提供するものでもある。クリーンエネルギーへの移行は、公正で、包摂的で、誰も取り残さないものでなければならない。途上国は、自らの経済と人々の生活に必要なエネルギーシステムの構築に必要な資金と、技術的なノウハウを確保されねばならない」と指摘している。

 

 現状では、世界中で7億8500万人が電気を利用できていない。清潔な食事へのアクセスが困難な人々も26億人に達している。これらの人々へのクリーンエネルギー供給こそが、ネットゼロロードマップの中核的要素となる、としている。こうしたエネルギー共通化のコストは年間400億㌦で、世界の年間平均エネルギー投資額の約1%にとどまる。クリーンエネルギーへのアクセスが確保されることで、健康改善や年間250万人に上る早死の削減にもつながる。

 

  今回のロードマップは11月に開催する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)での主要国間の協議に資する形でまとめられた。COP26の議長を務める英国の Alok Sharma氏は「ネットゼロに向けた明確なロードマップを歓迎する。COP26で共有すべき多くの優先課題が盛り込まれている。すべてのセクターでのクリーン技術のスケールアップと、石炭火力や汚染を振りまく自動車等の段階的廃止に向けて、今すぐに行動しなければならない」とのコメントを出した。

 

https://www.iea.org/news/pathway-to-critical-and-formidable-goal-of-net-zero-emissions-by-2050-is-narrow-but-brings-huge-benefits-according-to-iea-special-report