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米原発最大手エクセロン、イリノイ州の2原発(計4基)早期閉鎖へ。エネルギー価格低下と容量市場の影響で経営悪化。他原発に閉鎖拡大の公算も。容量市場での火力発電との競合が影響(RIEF)

2021-09-05 21:48:44

Byronキャプチャ

  米国最大手の原子力発電事業者、エクセロン・ジェネレーション(Exelon Generation)社はイリノイ州の2カ所(計4基)の原子力発電所の閉鎖申請を原子力規制委員会に提出した。米電力価格の低下と、米国で適用される容量市場での入札取引で、化石燃料火力発電所に勝てない等の理由で採算が悪化したためという。同社は今後、さらに2カ所の原発の追加閉鎖の可能性も指摘している。原発の経済性の低下と、容量市場制度の影響で米市場での原発閉鎖がさらに増えそうだ。
 (写真は、操業期間20年を残して閉鎖に向かうバイロン原発)
 エクセロンによると、閉鎖対象はバイロン(Byron)原発(120万kW級PWR×2基)とドレスデン(Dresden)原発(91.2万kWのBWR×2基)。それぞれ、今年9月と11月に閉鎖すると表明した。ドレスデンは今後10年、バイロンは同20年の操業期間を残している。さらに両方合わせて1500人のフルタイムの正規労働者と2000人の補助労働者を抱えている。
 イリノイ州議会では、両原発の閉鎖が地域の経済や雇用に及ぼす影響が大きいとして、上院が州内の原発に対して今後5年間に7億㌦(約770億円)の補助金を付与する法案を通過させた。だが、下院で可決するかは不明。州議会議員は連邦政府に対しても補助を要請する嘆願書を提出するなどの支援活動をしている。しかし、エクセロンのCEOのDave Rhoades氏は「今月13日までに法案が成立しないと閉鎖に踏み切る」としている。
 注目されるのは、バイロン、ドレスデンの両原発が操業期間を10年以上残しながら閉鎖を迫られている背景だ。エクセロンによると、両原発はエネルギー価格の低下と、米政府の市場政策として導入されている容量市場制度によって、数億㌦の赤字に陥っているという。エネルギー価格全体の低迷は、再エネ発電等の価格低下や、中東情勢やコロナ禍等での石油・ガス価格が軟化し続けているためだ。
 もう一つの容量市場制度とは、太陽光発電等の再エネ電力が増える中で、自然変動に対する調整力や、万一の場合の停電等を避けるため、将来に必要となる発電設備の「容量」をあらかじめ確保しておくための仕組み。電力自由化の進んだ米国で始まり、日本も米国をモデルに2020年から導入している。
 電力安定供給のために電力容量を確保する買い手は公的機関。同州では米北東部で代表的なRTO「PJMインターコネクション」が実施する。(日本の場合は電力広域運営推進機関:OCCTO)。応札事業者は原則として、すべての発電事業者で一定の発電容量を持つ既存電力会社が中心になる。その既存電力会社である原発事業者と火力発電事業者が応札で競い合う結果、価格調整力のある火力発電に原発が「負ける」構造になっているという。
 エクセロンは「(容量市場制度は)化石燃料火力が有利になる不公正な競争を生みだしている。同制度の是正がない限り、市場の不平等が続き、われわれはさらに他の原発(ブレイドウッド、ラセール)も、今後数年のうちに早期閉鎖せざるを得ない状況にある」と強調、同制度の見直しを求めている。
 「原発vs.火力」の構図は、日本の容量市場制度の議論にも影響を及ぼしそうだ。日本で同制度が導入されたのは、経済産業省が再エネ発電の拡大に備えて、既存の火力発電所を守る政策目的のためと指摘される。現状では国内の原発は再稼働が限られ、米国のように、容量市場で火力発電と競い合う形ではない。既存電力会社が両発電を保有していることも米国市場とは異なる。
 しかし、日本では別の問題が露呈している。火力発電支援を目指して導入した日本版容量市場制度だが、政府全体が2030年温室効果ガス排出量46%削減を国際公約に掲げたことで、容量市場制度で火力発電を維持し続けると、脱炭素目標の達成が難しくなる。「火力vs.再エネ」の競合に政策が適合しない形だ。
 米国の場合、州議会での補助金法案が成立するか、あるいは連邦政府が支援策を打ち出せば、原発自体の経済性をある程度回復させて、継続させることは可能となる。エクセロンの「早期閉鎖」宣言も、議会や連邦政府の支援策を導き出すための戦略の面もあるとされる。しかし、競争市場の米電力市場で、経済性の低下した原発を一時的な補助金で維持し続ける政策は、長期的には成り立たなくなるとみられる。

 

  政府による原発支援を期待する向きは、原発が稼働中にCO2を出さない「クリーンエネルギー」であるという主張に基づく。今回のイリノイ州の2原発も閉鎖すると、道路走行上の自動車440万台分が及ぼすのと同等の環境負荷が増大すると試算されている。この試算には使用済み核廃棄物の処理コストは加えられていない。ドレスデンとバイロンの原発の場合、閉鎖が決まると、60年に及ぶ解体処理期間に入ることになる。

 

  これまでイリノイ州では2016年12月、州内の原発への財政支援策を盛り込んだ包括的エネルギー法が成立。これにより、州内のクリントン、クアド・シティーズの両原発の早期閉鎖計画が回避された。ただ、バイロンとドレスデン両原発は財政悪化が深刻で、同法による支援だけでは支えきれない状況になっている。

 

 同州選出の下院議員(共和党)、アダム・キンジンガー(Adam Kinzinger)氏は、原発に財政的な信用を付与するプログラムを盛り込んだ「既存原発維持のための法案(H.R.4960)」を、他の議員と共同で下院に提出した。また、ニュージャージー州選出の下院議員(民主党)のビル・パスクラル(Bill Pascrell)氏は、原発の発電量に応じて税控除を得られる「CO2排出量ゼロの原発に対する税控除法案(H.R.4024)」も提出している。

 

 キンジンガー氏がバイデン大統領に提出した資料によると、過去9年間に米国全体で7基の商業用原子炉が閉鎖され、失われたベースロード用の炭素フリー発電設備は530.6万kWにのぼる。これにバイロンとドレスデン2原発の430万kW分が追加閉鎖となるほか、2025年までにさらに別の原発が合計306.7万kW分の閉鎖が見込まれるとしている。これに対して、1996年以降、新たに運転を開始した原発はワッツ・バー2号機(116.5万kW)1基のみ。

                     (藤井良広)

 https://www.world-nuclear-news.org/Articles/Biden-urged-to-take-emergency-measures-to-save-nuc

https://www.exeloncorp.com/newsroom/exelon-generation-to-retire-illinois%E2%80%99-byron-and-dresden-nuclear-plants-in-2021

https://www.exeloncorp.com/newsroom/exelon-generation-submits-decommissioning-plans-for-byron-and-dresden-nuclear-plants

https://kinzinger.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=402796