ノルウェーで、ゼロエミッション・全自動航行の世界初の貨物船が完成。2年後には、無人化で定期航路に就航予定。CO2削減と事故削減に貢献。テスラのEV100台分の蓄電池搭載(RIEF)
2021-12-01 12:12:07
ノルウェーで温室効果ガス排出量がゼロで、さらに電動で自律航行する世界初の全自動無人貨物船が進水した。肥料メーカー大手のヤラ(Yara)社が建造した。全長80m、載貨重量3200㌧で、最大120個のコンテナを積んで同国南部のフィヨルドの沿岸海域を定期航行する。試験航海を経て、数年後には操舵室も撤去し、完全無人化する計画という。
全自動無人貨物船は「ヤラ・ビルケラン(Yara Birkeland)号」。ノルウェーではすでに電動フェリー等が就航しているが、定期貨物船に全自動船が導入されるのは同船が初めてになる。
建造したヤラ社の計画では、今後、2年間の試験航海をした後、同社で製造する肥料を積んだコンテナを、ノルウェー南東の町ポルスグルン(Porsgrunn)の工場から、約14km離れたブレビック(Brevik)港まで運搬する定期航路に就航する予定。
同船の自動化システム等は同国のコングバーグ・グループの協力を得て建造された。航路周辺の障害物はセンサーで感知する。船内には、従来の機関室の代わりに、8個の蓄電池設備が設置されている。ノルウェーの水力発電で発電した電力を貯蔵する。蓄電力は6.8MWhの規模で、電気自動車(EV)テスラの100台分に相当するという。
ゼロエミッションだけでなく、自動航行を装備するのは、船舶事故対策だ。ヤラ社の説明では、「船舶上で起きる問題の多くは人為的ミスによる。長時間勤務や夜間勤務等よる船員の疲労などが原因で起き易い」。自律航行にすることで、それらのミスを防ぐことができる、としている。
船舶からのCO2削減の促進が求められる中、同船は排出ゼロ。既存船舶に比べて年間1000㌧のCO2を削減し、ディーゼル燃料のトラック輸送に換算すると年4万回の輸送を減らすことに貢献するとしている。船の自動運転はコングバーグと、ノルウェーの海運大手のウイルヘルムセンのジョイントベンチャーMassterlyが、モニタリングを含めて航行管理を担当する。
進水式にはノルウェー首相のヨーナス=ガール・ストーレ(Jonas Gahr Støre)氏をはじめ漁業・海洋相らが出席した。ヤラのCEOのSvein Tore Holsether氏は「長い間、この日が来ることを待っていた。『ヤラ・ビルケラン号』はグリーントランジションの素晴らしい実例だ。新タイプのゼロエミッションコンテナ船のスタートを告げるものだ」と自賛している。
コングバーグ・グループのCEO、Geir Håøy氏は「ノルウェーは大きな海洋国家であり、他国はノルウェーが海洋でのグリーンソリューションをどうするかを見ている。『ヤラ・ビルケラン号』はわれわれがグリーントランジションに貢献する世界をリードするイノベーションを開発したことを示すものだ」と強調、他国への船舶、技術の輸出を目指している。
同船の開発事業には、政府系再エネ促進機関であるEnovaが1億3350万ノルウェークローネ(約17億円)の資金を供給した。ヤラ社は「ヤラ・ビルケラン号」の開発と並行して、船舶等の燃料となる「グリーン・アンモニア」の開発も進めている。