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オーストラリアで火災事故を起こした「すいそ ふろんてぃあ」が持ち帰った液化水素の3分の2は公表通りの「褐炭」由来でなく、天然ガス由来と判明。どうして正しい情報を伝えないのだろうか?(RIEF)

2022-04-21 16:11:31

Suisofrontierat haystingキャプチャ

 

  オーストラリアの褐炭から製造した水素を日本に運ぶ際に、火災を起こした川崎重工業の水素運搬船「すいそ  ふろんてぃあ」が持ち帰った液化水素の約3分の2は、公表されている「褐炭」から製造したものではなく、現地のガス会社が製造した天然ガス由来の水素とみられる。同事業の関係企業は火災事故について現時点でも公表していない一方で、運んだ水素は「世界初の褐炭から製造した水素」と公表していたが、二重の「疑惑」に包まれた格好だ。

 

 (写真は、今年1月、オーストラリアのヘイスティング港に停泊中の「すいそ ふろんてぃあ」号)

 

 「すいそ ふろんてぃあ」は同国ビクトリア州のラトローブバレーで生産された未利用褐炭をガス化した後、マイナス253℃に冷却し、体積を800分の1に圧縮した液化水素として日本に運ぶプロジェクトの一環で建造された。事業は、川崎重工、岩谷産業、シェルジャパン、電源開発(Jパワー)、丸紅、ENEOS、川崎汽船の7社で構成する HySTRA(技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構)が推進してきた。https://rief-jp.org/ct10/124063?ctid=72

 

 今月9日に、帰港した神戸港で岸田文雄首相を来賓として迎えた「日豪サプライチェーン完遂記念式典」を開いた。しかし、同式典でもオーストラリアを出港時の1月25日に現地の港で起こした火災については報告はなかった。同船は、火災発生後、3日後に現地を出港して日本に戻り、今回、「プロジェクト完遂」の報告を関係企業にした経緯だ。https://rief-jp.org/ct8/124154?ctid=72

 

 その完遂式典では積み荷の液化水素について、「世界初の褐炭から製造した水素」と公表した。ところが、オーストラリアの報道によると、同船が運んだ2.6㌧の水素のうち、ほぼ3分の1の1㌧は褐炭から製造したものだが、残りの3分の2は現地のパートナー企業のCoregasが提供したものという。

 

 Coregasは、同船に提供した水素について「ラトローブバレーの石炭とバイオマスからの水素をガス化した」とする一方で、プロジェクトパートナーとして、「石炭のガス化プラントでの水素圧縮や、液化水素の輸送等に酸素、窒素、ヘリウム、調整ガス等を供給した」と説明している。Coregasが供給した残りの3分の2の液化水素については、同社の関係者が天然ガス由来と説明しているという。

 

 同社は「すいそ ふろんてぃあ」への液化水素の輸送や搬入、その他の作業をすべて引き受けて実施した。同船には液化水素を補完するための真空断熱二重殻構造の液化水素貯蔵タンクを搭載しており、同タンクへの液化水素の注入作業も同社が担当したという。その作業過程で、何らかの理由で何らかのガス等が漏れた可能性が考えられる。

 

 褐炭からの液化水素よりも天然ガス由来の水素が多かった理由としては、褐炭からのガス化が技術的に不十分で、必要な水素量を確保できないため、技術的に確立している天然ガスを活用した可能性が考えられる。だとすると、「事業の完遂」にも疑問が出てくる。そもそもパイロット事業なので、うまくいかなかったところ等を明確にし、それらをどう克服するかが本来の事業目的でもあると思われるが、「うまくいった」部分だけを強調し、不備に終わった点は「なかったもの」として扱うような姿勢では、同事業の存在価値自体が問われることになるだろう。

 

 オーストラリア運輸安全局(ATSB)は今月5日に、事故を公表している。1月後半の火災事故の公表が2か月遅れの4月になった点についての理由は明確ではないが、調査は ATSBのキャンベラ、シドニー、メルボルンの各オフィスの海洋事故担当の調査スタッフを動員して本格的に進めているという。調査結果は今年第三四半期に公表される見通しだ。

https://www.coregas.com.au/news/2022/suiso-frontier-world-first-hydrogen-ship-to-start-its-inaugural-journey

https://reneweconomy.com.au/australias-landmark-hydrogen-shipment-under-investigation-for-safety-incident/