ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」の1と2が、ほぼ同時に損傷。合計3カ所からガス漏洩。「破壊工作」の指摘。今冬のEUのエネルギー不足決定的に（RIEF）
2022-09-28 00:14:19
スウェーデンの海事当局は27日、ロシアからバルト海経由でドイツにつながる天然ガスパイプラインのノルドストリーム1が、同国の経済海域で2カ所のガス漏れを起こしていると発表した。前日にもう一つのガスパイプラインのノルドストリーム2からもデンマークの海域1か所でガス漏れが発見されており、同時期に両パイプラインの損傷が見つかったことで、テロ工作の可能性が浮上している。両パイプラインはロシアのウクライナ侵攻の影響でガス供給を停止しているが、パイプライン中の残留ガスが流出し大気中にメタン等を放出している。
パイプラインから複数のガス漏れが発覚した27日は、ロシアからのガス供給の代わりに、ノルウェーからポーランド向けにガス供給をするパイプライン事業の開業日だった。ポーランド首相のマテウシュ・モラヴィエツキ氏は「ガス漏洩は何者かによる『破壊工作』で起きた」と発言、ロシアの工作の可能性を示唆した。
同氏は「われわれは本日、破壊工作に直面した。何が起きたのかという詳細はまだ明らかではないが、明らかなことは（自然の事故ではなく）ウクライナでの状況加速の『次のステップ』に関連する破壊工作ということだ」と強い口調で言明した。
デンマーク首相のメッテ・フレデリクセン氏は破壊工作の可能性は否定できないとしたうえで、「今回の3件のパイプライン漏洩は、一定の距離の範囲でほぼ同時期に起きており、これを偶然と考えることは難しい」と指摘している。
ロシア政府の大統領報道官のドミトリー・ペスコフ氏はガス漏洩の原因には触れず、「パイプラインからのガス漏洩は、欧州大陸全体のエネルギー安全保障に影響を及ぼす」とコメントした。ノルドストリームAGのネットワークオペレーターは、欧州メディアに対して「ノルドストリームシステムの海底パイプラインに同日に3つの損傷が起きることは想定外」と驚きを示している。
ノルドストリーム2は昨年末に完成していたが、ロシアがウクライナに進行する直前に、ドイツ政府が稼働手続きを停止し、ガス輸送は止まっている。一方のノルドストリーム1は稼働を続けていたが、6月以降、ロシア側がパイプラインの修理等を理由としてガス輸送量を大幅に削減、EUの冬の需要期のエネルギー不安を引き起こしている。ロシアは8月末には同パイプラインによるガス供給を完全に停止中だ。
両パイプラインが損傷した海域は、バルト海上にあるデンマーク領のボーンホルム（Bornholm）島の北東の海域。スウェーデンとデンマークの両国の海事当局は、パイプライン中に残留しているガスが噴出していることから、周辺への船舶の立ち入り禁止措置をとっている。またポーランド向けにガス供給を開始したノルウェーの石油安全機関（PSA）は、ノルウェーの石油ガス会社に対して、同国海域の石油・ガス開発プラットフォームの近辺で、国籍不明のドローンの飛行がないかどうか警戒体制をとるよう指示した。
両パイプラインはガス供給を停止しているので、現在の供給減による影響がさらに悪化することはない。だが、損傷個所の程度によっては、仮にウクライナ紛争が終息してもロシアからのガス供給は当分不可能になる。このため、欧州が直面している今冬のエネルギー危機は、戦争の行方にかかわらず避けられない公算が高まったといえる。こうした判断から、欧州のガス価格ベンチマークのオランダTTF（10月物）は27日、前日比で一時10%以上値上がりし、1年前の2倍以上の水準となる1MW時当たり193ユーロ（約2万6400円）にまで上昇している。
市場では、ロシアによる破壊工作説が有力だが、ロシアにとってEU側に対する「ブラフ」の手段として活用してきたパイプラインを実際に使用停止にするメリットがロシア側にあるのかという疑問も提起されている。「パイプラインの損傷でだれがメリットを受けるかが、ポイントだ」との指摘もある。
https://www.bbc.com/news/world-europe-63040500
https://ens.dk/en/press/leak-north-stream-2-baltic-sea
Research Institute for Environmental Finance