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現地視察でわかった安全とほど遠い大飯原発の実情(現代ビジネス)

2012-04-12 13:41:08

古賀茂明氏
(古賀茂明) 3月20日春分の日、大飯原発に視察に行った。大阪府市統合本部の下にあるエネルギー戦略会議のメンバーによる視察だ。エネルギー、原発のプロが集まっている。

古賀茂明氏




 余談だが、エネルギー戦略会議のメンバーはみなさん超多忙だ。日程調整が難しく、その結果、これまでの3回とも休日または平日の夜だった。そして、この日の視察も休日返上。第4回も4月1日でまた日曜日ということになっている。ただ、これを続けているとメンバーには休みがなくなってしまうし、何よりも府市の職員が疲弊してしまう。第5回からは何とか平日の昼間に行うようにしようと申し合わせた。

 京都9:45発の湖西線で近江今津まで50分。空気は冷たいが日差しはもう春という感じだ。琵琶湖を囲む風景が美しい。近江今津では、改札を出たところでうなぎ弁当が売っている。京都駅でありきたりの巻きずしの弁当を買ってしまったので、残念ながらこれはパス。

 近江今津から、JRバスで小浜まで1時間。そこからJRで若狭本郷まで20分程度だったろうか。途中特別参与で原子力コンサルタントの佐藤暁氏を発見。隣に座って弁当を食べながら氏の話を聞く。原発のことは関電の人より詳しい。若狭本郷に着くと6名の特別参与が同じ電車に乗っていたことがわかった。府や市の職員も一緒にタクシーで大飯原発に向かった。到着したのは13時少し前。事務所で関電からの説明がある。会議室には多数のマスコミ関係者が終結、テレビカメラもずらりと並んだ。ところが、我々の視察にプレスが同行できないという。一部、屋外の視察のときに合流するが大半の行程にマスコミは入れな い。

 今回の視察の目的はエネルギー戦略会議の委員の勉強もあるが、府民市民に代わっての視察という面もある。マスコミに入ってもらえば大事なところを報道してもらえるので可能な限りマスコミを入れて欲しいと頼んだが、セキュリティの関係で難しいとか、中が狭いのでというような理由で一切だめということだった。

不十分な津波対策


ひたすら原発再稼働に走る枝野経済産業相、電力に取り込まれた「元改革派」


 議論の結果わかったのは、実はマスコミを入れない理由はないということ。カメラも特定の方向を向けての撮影はダメだが、指示に従えば良いという。カメラなしなら記者でも入れる。ならば、代表取材で一人入れればいいだろうと押し問答したが、結局関電はまったく譲歩せず、プレス締め出しでの視察となった。

この体質が福島原発事故を起こした東電の隠蔽体質と共通するのではないかとの思いを強くする。安全だというなら、それを積極的に見せていけばよいのに、自分たちの都合の良いところだけを見せたいということ。都合の悪いところは見せたくないし、委員とのやりとりも困ったところを映されるのが嫌だということだろう。

 作業服に着替えてバスで屋外の視察が始まる。海岸沿いにある防潮堤。この高さが足りないのでかさ上げの工事が必要だということになっている。しかし、それは緊急対応ではなく中期的課題と整理されていて、今はまだ工事さえ始まっていない。一年以上かかるらしい。では、安全とは言えないのでは? との問いに対して、十分安全との答え。ならば、工事は不要ということかと聞くと、中期的には必要だと言う。意味がわからない。

 つまり、ここ1~2年は大きな津波は来ないが5年後には来るかも知れないと予知しているという意味合いになるが、そんなことは誰にもわからない。再稼働した後すぐに巨大地震と津波が襲ってくるかもしれない。この一点を見ただけでも安全というには程遠いことがわかる。

 面白かったのは、この防潮堤を撮影しようとした河合委員に対して、ここは撮影禁止という声がかかったことだ。海にある防潮堤を映してはダメなのかと聞くと、セキュリティの関係だという。こんなもののどこを秘密にする必要があるのかと聞くと、フェンスがあるところはダメだという。なぜフェンスがダメなのかと聞くと、いやいやフェンスがダメなのではなく監視カメラの付いた柱が立っている場所が移るのでダメだという。

 確かに一本柱が立っている。しかし、そのすぐ外側の海を漁船が行き来している。海からの撮影も禁止かと聞いたらそれは自由だという。結局委員の一人に対して監視カメラを映さないということで写真撮影が許可された。しかし、彼らが本当に嫌がったのは、工事さえ始まっていない低い防潮堤を映されることだったのだ。だから、マスコミにはこの場所での撮影はさせなかったということがわかった。ますます隠蔽体質を感じさせる。

むき出し状態で置かれた電源車や給水ポンプ


 その後、屋外に置かれた緊急用のポンプや電源車両などを見たが、一番驚いたのは大型電源車の置かれた場所だ。ものすごく切り立った何十メートルもの高さの崖の下にある。ほとんど垂直に近い。崖というより壁と言った方がよいくらいだ。ニュースの映像で見た人ならわかるだろう。よりによってという感じだ。

 崖が崩れるのではないかとの問いに対しての答えは、シミュレーションでは震度7クラスの地震でも絶対に崩れないという。まともな感覚ではない。近くの崖の一部はコンクリートで崩落防止措置が施してある。あんな急な斜面が絶対に崩れないと言い張るのは尋常ではない。崩れたらどうしようと考えるのが普通の感覚だ。

 コンピューターで計算したから大丈夫だというが、自分の家を建てるのだったら、あんな急な崖の下には絶対に建てないだろう。机上の空論で安全論を振りかざす。安全神話はこうやってできているんだと改めて感じる。大飯原発の地形は非常に複雑だ。急峻な山が海のすぐ近くまで迫っている。坂道が多く、外周の道路などの移動距離も長い。大地震の時にはこの道路が寸断されるだろう。夜間の暴風雨と重なったりすれば、その復旧は極めて困難だ。その時に備えていろいろと対策を打ったということだ。大変じゃないかというと、確かに大変だと思うという返事だった。

 そして、最も印象深かったのは、3号機の使用済み核燃料プール。福島の事故後よく見る青く輝く水の中に静かに沈められた無数の使用済み核燃料だ。なんとなく神秘的なムードが漂う水の中を覗き込むと、全体の3分の2くらいが埋まっているのがよくわかる。大飯原発が順調に運転を続けると何と5~6年で満杯になるという。

 元々は青森の六ヶ所村に運搬して再処理するはずだったのだが、六ヶ所のプロジェクトがほぼ頓挫していて、先の見通しがない。その点を尋ねると、関電社員は苦しそうに、近いうちに何とかめどが立たないものかと思っているのですが、と答えた。無理だってわかってるじゃないですか、と言うと、確かにそうなんですけど、そこのところは我々のほうでは何とかなるようにと思っているところです、と苦しげな回答。ここは無理があるということを現場の人は十分わかっているのだ。

もう一つ重要なのは、これらの電源車や給水ポンプがほぼむき出し状態で置かれていて、テロの脅威ということをまったく想定していない。ここにあります、狙って下さいと言っているようなものだ。入り口にも数人のガードマンがいるだけ。重火器で装備した武装兵士を多数配置するのが世界の常識なのに、ガードマンはもちろん拳銃も持っていなかった。何とも危うい。北朝鮮に狙われたらひとたまりもないだろう。こんないい加減なことで再稼働するのかと思うと憤りさえ感じる。

 全体としての感想は、こんなことではとてもじゃないが安全とは言い難いということ。ストレステスト一次評価をクリアするためだけに一夜漬けで準備しましたというレベルで、とても総合的な安全対策が整っているとは言えないということだ。この感想は、委員全員に共通のものだった。来る前は、完璧と思えるような対策が施されていて、専門家でない自分は、おそらく、「やっぱり安全なのかもしれない」という程度に半分洗脳されてしまうかもしれないと思っていた。残念ながら、結果はまったく逆。不安は数倍に増幅されてしまった。

 ただ、その責任は現場にはない。現場の職員は上層部が決めたことをとにかく忠実に実行しているだけだ。我々の意地の悪い質問にも一生懸命に答えてくれた。我々が後で安全だとは思えなかったと言ったら、きっと本社から大目玉を食らうのだろう、と思うと少し心が痛む。

勇気ある古舘発言


 視察後記者会見に臨む。ここに書いたようなことを話したが、記者の間の雰囲気も関電が情報を完全に開示しようという姿勢がなかったということもあって、不信感が広がったという感じだった。

 これらの予定が終わった後、ABC(大阪朝日放送)に現地中継で出演した。全体の日程が終了したのは午後6時近かった。本来は、ここから東京に帰るはずだったのだが、テレ朝の報道ステーションから急遽出演依頼があり、大阪のABCのスタジオを借りて生中継で出演することになった。そこで慌てて車で大阪に戻り、何とか間に合って出演した。冒頭から大きな扱いで驚いた。当日午後に入った企画にも関わらず長いVTRとスタジオトークも5分ということで報道ステーションでは異例だ。私も思わず力が入る。

 後で聞いたのだが、この話は、当日古舘さんが強力に推し進めたということだ。原発安全問題に対する並々ならぬ意気込みが感じられる。古舘さんと言えば、3.11の原発特番で自らの原発報道についてその足りなかった点について後悔していると語り、さらに今後も圧力がかかって番組を切られても追求を続けると宣言したことが記憶に新しい。

 これは極めて異例の発言だ。特に番組を切られてもなどということをメインキャスターが口にするなんてことは尋常ではない。相当な勇気がいる発言だった。パフォーマンスだなどと酷い中傷をする人もいるが、私はそうは思わない。多くの視聴者、国民は、この発言でどんなに救われる思いをしただろう。政府もマスコミも誰も信じられない状況にある日本で、一筋の光明を見出す思いだという声が多い。これからも頑張っていただきたい。

 さて、出演が終わって関係者に挨拶などをしているうちに午後10時半。新幹線はなく仕方なく現地に宿泊。翌朝東京に戻った。18日のエネルギー戦略会議、19日のキャストレギュラー出演、20日の大飯視察と続いた3泊4日の間にこのメルマガの他に二本、週刊現代とプレイボーイの原稿、そして今週はさ来週のエコノミストの巻頭エッセー原稿と5本の原稿をこなす予定だったが、かなり積み残しになってしまった。

 ただ、我々の活動には非常に熱い関心が集まり、21日の帰京前にはホテルからテレ朝のモーニングバードに電話で生出演。さらに帰った翌22日には久しぶりにみのもんたさんの朝ズバに呼んでもらった。みのさんも政府のエネルギー問題への対応に熱い怒りをあらわにしていた。みんながおかしいと思っている中、それでも枝野大臣はじめ政府は大飯原発再稼働に向けてひた走っている。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32288