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新型コロナウイルス感染のPCR検査、「不十分な体制は日本の恥」。山梨大学島田眞路学長が喝破。「パキスタンと同等の水準」「保健所独占に原因」「最大4万人超を見過ごしの可能性」等(RIEF)

2020-05-10 22:43:29

yamanashiキャプチャ

 

 厚生労働省が、新型コロナウイルス感染を調べるPCR検査の基準を改め、37.5度以上の発熱を前提とした記述を削除した。加藤勝信厚労相は「目安ということが基準のように(とらえられた)。我々から見れば誤解」と言い訳したが、検査を拡充する具体策は依然、示せていない。担当大臣として無責任極まりなく、辞任ものだろう。山梨大学学長の島田眞路学長は3月半ばに「PCR検査の不十分な体制は日本の恥」と指摘、民間検査会社と大学の活用を提唱している。

 

 (写真は、入院患者等全員のOCR検査結果を公表する武田正之病院長㊨と島田真路学長㊧今月8日、日本経済新聞から)

 

 島田学長は、医療従事者向けのサイト「医療維新」にわたって新型コロナウイルス対策に同大学として取り組んできた概要と提言をまとめて5回にわたって情報発信した。同大学病院ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客を受け入れたほか、病棟1棟をコロナ専用病棟に転換、コロナ以外の理由で入院中の全患者など370人にPCR検査を実施する(全員陰性)など、積極的にPCR検査に取り組んでいる。同学長の記事は、同大学のHPにも掲載されたことから、ここにポイントを紹介する。

 

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 医療維新に「山梨大学における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘い」として5回連載された記事の最初は3月12日。この段階で同氏は、コロナへの同大学の対応、取り組みを紹介したうえで、「各医療機関にどの程度の病状の患者が何人収容されているかなどの情報が不十分」なことが医療資源の適正配分を阻んでいると指摘。「今のような 情報統制は本末転倒」と政府の対応を批判している。https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/m3.com2020.3.12.pdf

 

学長
山梨大学の島田眞路学長

 

 「そうした改善に向けて政府のリーダーシップを期待したい」としたうえで、「PCR検査の不十分な体制は日本の恥である。国際的信用を失った要因の一つであり、早急な立て直しが必要である」と言明した。

 

 4月3日付の第二弾では、心肺停止状態で救急搬送された生後8カ月の乳児にPCR検査を行って新型コロナウイルスを検出した経緯を説明。ウイルスと無縁と思われた乳児の胸部CTの画像所見にわずかな陰影を発見、念のためのPCR検査で感染が判明。小児科医療に当たった47人の医療従事者を一時離脱させる事態に陥ったことを紹介。「新型コロナウイルスが、我々の想像よりも、広く、そして根深くまん延していることを物語る」と指摘。https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2019/01/m3.com-2020.4.3-2.pdf

 

 4月15日付では、最初に「日本の恥」と断言したPCR検査の不十分さを、PCR陽性患者数や死亡割合が近似する国・地域のPCR 検査数の国際比較で分析、「日本の現状はパキスタンに最も近似していることが明らかとなっ た」とした。パキスタンは、医療の質指標である Healthcare Access and Quality (HAQ) Indexは43で、89の日本とは大きく隔たっている。しかし、PCR検査実施数に関しては、「医療資源に制約のあるパキスタンと同等の水準なのが今の日本の現実」とした。https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/de440ab4c12b88b0d2884e80d11a237d.pdf

 

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 4月18日付では、公表データでは、日本のPCR検査による陽性患者数は、4月11日時点で、集計対象の120の国・地域の中で30位、死亡割合(PCR陽性患者数に占める死亡者の数)は1.60%で台湾などと並んで90位と健闘しているように見える。 しかし前述のHAQ Indexで日本と近く、かつ、死亡割合が日本より低い5カ国との比較では、各国並みの人口1000人当たりのPCR累積検査数を適用すると、日本のPCR陽性患者数は、実数よりも少なく見積もられている可能性が極めて高い、と指摘している。5カ国比較では、約5000人~約4万3000人が「途上国並みの日本のPCR検査の実施件数で見過ごされた可能性が強く示唆される」としている。https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/5c04721b4f353bbb76148d1e0ffd630f.pdf

 

一見、日本と類似する5カ国のデータ
一見、日本と類似する5カ国のデータ

 

 同学長は、PCR陽性患者が見過ごされているとすれば、死亡者数も同様にコロナ患者の見過ごしが一定数存在すると考えるのが理に適うとし、「報告されている死亡者数は、実数よりも低値と見られる」との疑念も提示する。

 

 それに関連して、インフル エンザ・肺炎死亡報告のデータを示している。調査対象の大都市のうち、東京では2020年の8週、9週(2月後半)で閾値を超える超過死亡が生じた。一方で、超過死亡が生じた2月下旬から3月上旬の東京都の定点当たりのインフルエンザ患者の報告数は、3.58、2.33と低下傾向。東京都のPCR陽性患者数は3月1日時点で39人、新規患者数の報告も0~3人とまだ少数にとどまっている。こうしたことから、インフルエンザの超過死亡に「見過ごされたコロナ患者の死亡」が含まれている可能性が十分に考えられる、と指摘している。

 

 4月22日付では、厚労省公表の新型コロナウイ ルスのPCR検査の実施状況と、民間検査会社や大学の検査データを加味した比較から、「3月下旬までは、地方衛生研究所・保健所がPCR検査をほぼ独占させ、その結果、PCR検査上限を世界水準からかけ離れた低値にとどまり続けさせることとなり、途上国レベルの PCR実施件数という大失態を招来した」と結論づけている。

 

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 島田学長は「死闘を繰り広げ、ぎりぎりで踏みとどまっている全国の地方衛生研究所や保健所をあげつらう意図は一切ない」とし、これらの機関に敬意を払ったうえで、「PCR検査体制の強化は、従来の地方衛生研究所・保健所のスキームのみでは無理であることが明らか」として、民間検査会社や大学を動員して大幅増大に向けたパラダイム・シフトを図る必要性を訴えている。

 

 そのうえで、地方衛生研究所・保健所のPCR検査件数が毎週末に大幅に下がるデータを台湾と比較している。週末にPCR検査件数が落ち込むことは、民間企業と行政機関の違いに要因がある点を示唆している。https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2020/03/6bf1e59badd192ea0597a659e94a9d59.pdf

 

https://www.yamanashi.ac.jp/about/25210