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国連「緑の気候基金(GCF)」で、性差別やハラスメント等の内部通報倍増。多国籍の上司・職員構成が軋轢・摩擦等を引き起こす(各紙)

2020-08-28 07:35:01

GCF001キャプチャ

 

 各紙の報道によると、国連の「緑の気候基金(GCF)」で、職場での性差別やハラスメントなどの問題行為を訴える内部通報の増加や、新型コロナウイルスの感染による職員死亡への不満等が噴出、混乱状態に陥っている。職員による内部通報は、19年は前年のほぼ倍に増大しているという。寄り合い所帯の国際組織で上層部のガバナンスの欠如が組織全体の信頼性を低下させているようだ。

 

 ファインシャルタイムズ(FT)が伝えた。GCFは韓国のソンドに本部を置く。同紙によると、本部職員とOBの合計17人がFTに対して、上司による権限の乱用や人種差別、性差別、ハラスメント、不適切な関係などの問題行為を目撃または経験していると話した。17人は匿名を条件に取材に応じた。

 

 GCFは途上国での気候変動対策を支援するために、日本を含む先進国が拠出して設立した。パリ協定に賛同した途上国の温暖化対策を支援する目的で、これまでに170億㌦(約1兆8000億円)以上の資金を調達し、140件以上の途上国の気候変動プロジェクトに出資している。

 

 国連機関であることから、61カ国の国籍を持つ200人超の多様な人員で構成され、この点が組織管理上の大きな課題でもある。GCF資金の配分や、それに伴う事業の獲得等を巡って、各国の思惑や駆け引きも多く、これまでも内部での軋轢や不満、対立等が絶えないという。2018年7月にはオーストラリア出身の事務局長のHoward Bamsey氏が突如、任期半ばで辞任する騒動もあった。http://rief-jp.org/ct8/80684

 

2018年に任期半ばで辞任したGCF事務局長
2018年に任期半ばで辞任したGCF事務局長のBamsey氏

 

 こうした組織上の混乱から、GCF職員とOBの有志グループ「リグリーン(再緑化)イニシアチブ」が職員の一部に対して書簡を送り、問題を摘出するため、新たな告発についての証言を集めるよう求める活動をしてきた。

 

 FTが確認したその書簡は「GCFの上層部は自分たちの行動に責任を負わなければならない」と指摘。「まさしくやりたい放題の一握りの者たちの個人的利益がシステムに組み込まれ」、GCFの使命が「脅かされている」と批判しているという。

 

 GCFは、従来の援助機関とは異なる形で運営する組織として作られた。理事会は輪番方式で24カ国の代表によって構成される。温暖化対策で先進国が途上国を助ける新たなモデルを目指していた。FTは、過去3年間にわたって、職員による上司らの問題行為の告発が高まったのは、世界中の女性が職場などでのハラスメントや権限の乱用について声を上げた「#MeToo(私も)」運動の影響もあるようだとみている。

 

 GCFはFTの取材に対して、書面で「GCFは人種差別やセクシュアルハラスメント、その他のあらゆる形の差別を一切許容せず、全ての職員を尊重するプロフェッショナルな職場環境作りに取り組んでいる」と回答、問題が起きていないように振る舞っている。FTは19年4月に就任した現事務局長のヤニック・グレマレック氏に取材要請をしたが応じなかったとしている。

 

 FTによると、GCFの内部資料では、同基金内の組織「独立規範ユニット」への不祥事の内部通報が19年は40件に達した。前年が21件だったからほぼ倍増した。同ユニットは、GCF内部の活動やプロジェクトに関する不正行為や問題行為の告発について調査する役割だ。

 

 19年の40件の通報のうち24件は職員の問題行為として分類された。その他は、権限の乱用8件、嫌がらせ6件、性的虐待とセクハラ2件という。18年の報告書では、不適切な関係や敵対的な職場環境に関する告発も挙げられている。

 

 ただ、GCF側は、FTへの書面回答で、同ユニットへの通報件数は「必ずしも(職員の問題行為の)増加を示すものではない」とし、「報告件数の増加はGCFの苦情申し立ての仕組みが十分に機能し、信頼できるものであることを証明している」とも主張しているという。

 

 しかし、FTに証言した職員やOBのうち6人は、内部の苦情対応の仕組みは不十分で、外部機関による独立した調査が必要と強調している。今年退職したOBの一人は、GCFでの性差別と人種差別は「構造的」なものであり、一部の幹部は「脅しといじめ」で知られていると話している。

 

 今年6月、退職する2人へのお別れのメッセージとして始まった職場内の一斉送信メールが上層部に対する非難へと変わった。FTがコピーで確認した一連のメールは、退職する職員の一人が不公平な扱いを受け、人種差別があったと指摘していた。しかしそれらのメールはその後、サーバーから消去され、翌日には職員の受信トレイからも消えたという。

 

 この件に対してGCFは、メールは消したのではなく、サーバーからアーカイブに移したと回答した。その理由として「全職員のメールリストを使った根拠のない告発や人格に対する中傷を含め、GCFはあらゆる形態のハラスメントを一切許容しない」と説明している。

 

 新型コロナへの対応を巡っても、職員の士気が低下する事態が起きているという。欧州諸国がロックダウン(都市封鎖)を開始する直前の3月10日~12日、GCFはスイスのジュネーブで理事会を開いた。その会合後、環境専門家として内外で広く尊敬されていたフィリピン人のレオナルド・パアト・ジュニア氏ら4人の出席者が新型コロナを発症。同氏は会合後に検査で陽性が確認され、8月初旬に死亡した。

 

 GCFは理事会の開催地を韓国からスイスに移したのは、出席者の健康を守るためだった説明している。「まだスイスでの感染例が報告されていなかった時点で、同国が新たな開催地に選ばれた」としている。しかし、物理的会議ではなくオンライン会議に切り替えるべきだったとの批判が消えていない。

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO63110870X20C20A8000000?type=my#AAAUAgAAMA