HOME10.電力・エネルギー |内戦が続く中東のイエメン。荒廃した最前線の村で、女性たちが太陽光発電事業に取り組む。女性労働への偏見も克服、小口融資事業も展開。SDGs支援はこうした活動に向けてもらいたい(RIEF) |

内戦が続く中東のイエメン。荒廃した最前線の村で、女性たちが太陽光発電事業に取り組む。女性労働への偏見も克服、小口融資事業も展開。SDGs支援はこうした活動に向けてもらいたい(RIEF)

2021-04-25 14:15:10

Yemen001キャプチャ

 

 内戦が続く中東アラビア半島のイエメンの、伝統的に女性が外で働くことに偏見が強い農村地域で、10人の女性たちが戦火で荒廃した地域で太陽光発電事業を始め、地域に「光」を灯している。彼女たちは地域の貧しい家庭に電力を供給するとともに、収入を元に小口融資事業も展開、マイクログリッドとマイクロファイナンスを組み合わせて、平和を広げている。

 

 太陽光発電事業を展開しているのは、イマン・ハディ(Iman Hadi)さん(36)を中心とする女性たち。ハディさんたちは2019年から、首都サヌア北西にあるアブス(Abs)地域で、「フレンズ・オブ・エンバイロメント発電所(Friends of the Environment Station)」を設立。国連開発計画(UNDP)やEUの支援も受けて、太陽光パネル6基での発電事業を展開している。

 

 アブスは現在は反政府勢力の支配下だが、政府軍との紛争がいつ始まるかわからない不安定な最前線に位置する。このため発電所はコンクリートの壁で周囲を覆われている。戦火に見舞われるリスクだけではない。イエメンでは、今も農村社会では女性に対する差別が続いている。女性はわずかに目元だけ開いた全身を包むベールの着用を義務付けられ、農村部では家庭の外で働くこと自体、受け入れられていない。

 

太陽光パネルに付着するホコリを掃除する
太陽光パネルに付着するホコリを掃除する

 

 このため、事業を始めたハディさんらに対しては、当初、周囲から冷ややかな目が向けられていたという。しかし、彼女たちは、ひるむことなく自ら発電所を稼働させ、地元の村に電気をもたらすことに成功した。最初は20世帯への電力供給だったが、現在は倍増しているという。

 

 イエメンでは、2014年以降、イランから支援を受けた反政府勢力のフーシー派と、サウジアラビア支持の政府軍が内戦を続けている。これまでに紛争による死者数は数万人に上るとされる。犠牲者の増大だけではなく、地域社会の荒廃も深刻だ。紛争前に公共電力供給網は国民の約3分の2に電力を供給していたが、内戦で発電所だけでなく、病院や事業所も破壊され、深刻な燃料不足もあって、市民の多くがろうそくの火を頼りに仕事をするという状況だという。

 

 こうした状況の中で、女性たちが立ち上がって、自らの手で偏見を乗り越えて発電事業に取り組んだわけだ。現在、イエメンでは、ハディさんたちの活動だけでなく、都市部や住宅の屋上等に太陽光発電設備が設けられつつあるという。再エネ発電は戦火も、偏見も乗り越えて、人々に光と電力を送り続けているわけだ。

 

 ハディさんたちは、発電事業から一歩踏み出し、マイクロファイナンス事業も展開している。発電で得た毎月約2000㌦(約22万円)の純利益を元手に、地元で食料品店やパン店などの小規模事業を手掛ける人々に小口融資を始めている。ムハマド・ユヌスさんがバングラデシュで広めたグラミンバンクの事業モデルを活用した活動だ。

 

 AFP通信によると、ハディさんは「試練はたくさんありました。この種の仕事は男性がやるものと思い込んでいる家族や地元の社会からは笑われ、反対された。でも私たちはこうした困難に粘り強く対処してきた。ばかにされたが、今では女性たちは、地域の人々に感謝され、尊敬されるようになった」と振り返っている。

 

 ハディさんの事業は、気候変動と闘う人々をたたえる「アシュデン賞(Ashden Awards)」(人道支援のためのエネルギー部門)を獲得したほか、英BBCの2020年の「世界で最も影響力のある女性100人」の一人にも選ばれた。支援を続けるUNDPは同事業を、現在の3カ所から、イエメン全土100カ所に拡大する計画だ。「100人のハディさん」を育てるわけだ。

https://borneobulletin.com.bn/yemeni-women-use-solar-to-light-up-homes/