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牛の胃(ルーメン)中の微生物が、廃プラスチックを分解。オーストリアの研究チームが確認。分解酵素を抽出し、遺伝子操作で大量生産できれば、リサイクル促進につながる期待(RIEF)

2021-07-05 21:11:03

Cow002キャプチャ

 

 廃棄プラスチックが世界的な課題になっているが、牛のお腹が「救世主」になるかもしれない。牛の第一胃(ルーメン)に生息する微生物等がプラスチックの分解力を持つことが、オーストリアの研究チームの分析によって確認された。プラスチックを牛に食べさせて反芻させるのではなく、ルーメンの成分を抽出、遺伝子操作で大量生産し、リサイクルプロセスに組み込むことを想定している。牛は肉や牛乳だけでなく、体全体が人間の不始末処理に役立つ日も近い(?)。

 

 「牛のプラスチック分解力」を確認したのは、オーストリアの自然資源・生命科学大学(University of Natural Resources and Life Sciences)農業バイオテクノロジー学部のFelice Quartinello教授らのチーム。研究論文は、「Frontiers in Bioengineering and Biotechnology」サイトに掲載された。

 

 牛は4つの胃を持つが、そのうち最も大きな第一胃(ルーメン)では、食べた飼料をルーメン内部に生息する微生物によって分解する機能を持っている。ルーメン微生物は、繊維を分解する細菌群のほか、でんぷんや糖を分解する細菌群、蛋白質を分解する細菌群等が、食べ物を分解する。

 

Rumen(ルーメン)が一番大きな胃
Rumen(ルーメン)が一番大きな胃

 

 同研究チームは、ルーメン中の微生物が、植物の表面を覆うクチンと呼ばれる自然のポリマーを分解することを重視した。クチンはトマトやリンゴの皮にも含まれている。オメガヒドロキシ酸とその誘導体から構成され、それらはエステル結合で中間サイズのポリエステルポリマーを形成している。ルーメンの微生物がクチンを分解できるとすれば、プラスチック等の合成ポリマーも分解できる可能性があると考えた。

 

 研究チームはルーメンから採取した液体に、3種類のプラスチック素材を3日間浸す実験を行った。食品パッケージ等に使う合成ポリマーのPET、再生可能プラスチック袋に使われる生分解性プラスチックのPBAT、それに植物や野菜素材から生成したPEFの3種類だ。各素材については、フィルム状のものとパウダー状のものを両方ともテストに加えた。

 

 その結果、3種類のプラスチックはいずれも分解された。このうち合成プラスチックのPEFがもっとも大きく分解されたという。またフィルム状よりもパウダー状のものがより早く分解した。

 

 ルーメンの成分のDNAを分析したところ、分解力を発揮した成分の98%は液中に含まれているバクテリアだったことがわかった。研究チームは、今後、このプラスチックの分解を促すバクテリア中の酵素の確認を目指していくとしている。

 

 研究チームの一人、オーストリア産業バイオテクノロジーセンターのDoris Ribitsch博士は「今後はさらに、より分解が困難なポリエチレン等のプラスチックを消化できるバクテリアを見つけ出したい。 ルーメン中の微生物からポリプロピレンやポリエチレンを分解できる酵素を見つけられると思う」と見通している。

 

 プラスチック廃棄物を消化・分解できる仕組みを築き上げることができれば、現在のように焼却したり、埋め立てたり、投棄したりして、環境汚染を地球全体に広げることを避けることが可能になる。サーキュラーエコノミーにつながる。牛は食べた飼料等を胃で反芻する過程で温暖化を加速するメタンを排出することで”非難”を受けているが、牛の自然の分解力をもっと評価する必要があるようだ。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fbioe.2021.684459/full