HOME |世界経済フォーラム(WEF)に参加した企業トップや政治家、富裕層が利用したプライベートジェット機や航空機増便によるCO2汚染をめぐり、環境NGOと航空機団体が激論(RIEF) |

世界経済フォーラム(WEF)に参加した企業トップや政治家、富裕層が利用したプライベートジェット機や航空機増便によるCO2汚染をめぐり、環境NGOと航空機団体が激論(RIEF)

2023-01-24 18:12:56

WEF002キャプチャ

 

 先週、スイス・ダボスで開いた世界経済フォーラム(WEF)には、世界中から企業トップや政治家、富裕層等が集まり、ウクライナからコロナ、インフレ、気候変動問題まで幅広いテーマを議論した。グローバルな「年中行事」の一つだが、エリートたちがダボスに集まり、立ち去る際に使用するプライベートジェット機等の航空機による環境汚染問題が「ダボスの毎年の置き土産」として、環境NGOと航空業界の間で議論の的になっている。

 

 環境NGOらが問題視するのは、富裕層等が所有するプライベートジェットがまき散らすCO2排出量だ。同機は距離の短いフライトにも使用される。そうした距離では、列車や車等の代替交通機関があるのに、富裕層は短距離の移動でもCO2排出量の多いジェット機を使う。環境NGOのグリーンピースによると、昨年のダボス会議では期間中、1000機以上のプライベートジェット機や臨時便がダボスを中心として飛び交ったと指摘。

 

 毎年、このシーズンに一週間の日程で開くWEFへの参加者が利用するダボス発着の航空機の便数は、通常の平均的な週の倍以上に増えるという。グリーンピースによると、昨年の同会議で増便された航空機の乗客の半分は、世界から集まった政治リーダーや企業CEOで占められ、会議中に追加的に排出されたCO2量はガソリン自動車換算で35万台分に達するとしている。

 

 これらの航空機フライトのうち、半分強の53%は飛行距離が750km以下で自動車や列車での代替が可能な短距離フライトだったと指摘している。最も短い距離を飛行機で飛んだ事例では、21kmだったという。こうした短距離を飛ぶプライベートジェット便はドイツ、フランス、イタリア等のスイスの隣接国からの飛来が多い。

 

プライベートジェット機の飛行に抗議するNGOら(オランダで=グリーンピースサイトから)
プライベートジェット機の飛行に抗議するNGOら(オランダで=グリーンピースサイトから)

 

 グリーンピースは「世界の人口の80%は飛行機に乗った経験もない人々で占められている。しかしこれらの人々は、航空機を含むCO2排出増加による気候変動の影響にさらされている。WEFはパリ協定の『1.5℃目標』の達成を強調するが、 その参加者たちは毎年、CO2をまき散らす偽善の集まりを開いている。本当に気候危機に対処するならば、『世界のリーダー』たちは、プライベートジェット機の利用を率先して止め、同ジェット機を博物館に寄贈すべきだ」と批判している。

 

 これに対して、即座に反論を展開したのが、プライベートジェット機事業等を展開する欧州ビジネス航空協会(EVAA)、国家ビジネス航空協会(NBAA)、国家航空輸送協会(NATA)の各団体。3団体は共同声明で、「WEFの期間に1000機も追加の飛行があったという推計は、通常の航空機の飛行数や運行状況についての間違った仮定に基づく。ダボスではWEFだけでなく、年間にいろんなイベントがあり、ビジネス航空機にとって一般的な空港だ」と指摘。WEFの開催で航空機からのCO2排出量が急増したとの批判を全面的に否定した。

 

 さらに、WEF期間中にダボスに発着する航空機は、すべてがWEFのイベントに直接関連したフライトばかりではないとし、NGOが指摘した「21kmの飛行」は、ドイツのフリードリヒスハーフェン(Friedrichshafen)とスイスの小空港のアルテンルハイン(Altenrhein)の間のフライトだと認めたうえで、飛行した航空機は、アルテンルハインからカンヌへのフライトを利用する乗客のための回送便(乗客は乗せていない)だったと説明している。NGOに対しては、同フライトはWEFの会議とは関係のない便であり、推計から除外するよう要求している。

 

 国際的に移動するうえで利用する航空機からのCO2排出量をどう考えるかという問題は、これまでも再三浮上している。スウェーデンの環境活動家のグレタ・ツゥーンベリさんが、チリで予定していたCOP25の会議への参加に際し、航空機のよるCO2汚染に「加担」しないため大西洋をヨットで渡る行動を実践(COP25の会議自体はその後、スペイン・マドリードに変更)したことは、世界的にも話題になった。日本でも気候問題を議論しながら、CO2をまき散らす航空機に乗るのはいかがなものかという「飛ぶ恥」論が一時浮上した。

 

 その後、コロナ禍の影響で、国際間の航空機利用が実質的に激減し、一方で航空会社もジェット燃料にバイオマス燃料等によるサステナブル航空燃料(SAF)を混焼するなどの気候対応への取り組みを強化している。こうした中で、環境NGOは、プライベートジェット機の利用者が多いWEFでの同機の利用増を問題視した形だ。同機の場合、乗客一人当たり、あるいは航空距離当たりの換算では、CO2排出量は、航空機の中でも最も高くなるという。

 

 EUでもプライベートジェット機に的を絞った排出削減規制の議論は低調という。企業CEOや富裕層等からの「睨み」が効いているのかもしれない。ただ、フランスは鉄道で2時間半以内で移動可能な短距離区間の航空路線の運航禁止する法律を昨年春に施行した。フランスと欧州の航空業界が欧州委員会に異議を申し立てたが、同委も承認の方向で、本年中にはパリ発着の短距離路線は列車等に代替される見通しだ。プライベートジェット機の汚染減少策でも、複数のEU加盟国同士で議論が始まっているという。

 

 スイスは山岳鉄道の国でもある。スキーリゾートのツェルマットでは、ガソリン車の乗り入れ禁止措置も長年、実施している。WEFをダボスで開催し続けるのならば、参加者は期間中、航空機ではなく列車で乗り入れるパスを発行するといった案も検討してはどうか。

https://www.greenpeace.org/nl/greenpeace/56102/analyse-ce-delft-co2-uitstoot-privejets-verviervoudigd-tijdens-world-economic-forum-van-2022/

https://www.ebaa.org/press/debunking-the-myths-the-true-impact-of-business-jet-traffic-during-the-world-economic-forum/