異例の少雨と干害が続くブラジルのアマゾン流域。シルヴァ政権の森林伐採制限にもかかわらず、森林火災が多発。火災による大量の煙でPM2.5はWHO基準を11倍上回る高水準に(RIEF)
2024-08-24 22:22:19
(写真は、ボリビアの国境近くのポルト・ヴェーリョの街の近くまで、森林火災の火の手が迫っている=AFPより引用)
暑い夏が続く日本だが、南半球に位置するブラジルのアマゾンでは、例年にない異例の少雨と干害の影響で、流域の各地で森林火災が激増している。昨年1月に政権に就いたルーラ・ダ・シルヴァ(Lula da Silva)大統領は森林伐採制限策を打ち出しているが、今年に入ってからの同地域での森林火災は5万9000件に達し、2008年以来、最多。今月8月もすでに2000件強が確認されている。例年、アマゾン森林火災のピークは9~10月とされ、これからさらに激化する可能性が高い。ブラジル政府は人類起源の温暖化の加速が森林伐採措置を上回って、生態系に打撃を与えていると危惧している。
ブラジル政府によると、アマゾン流域を要する10州が森林火災の被害を受けているという。火災は森林焼失、生態系破壊にとどまらず、発生する煙の影響で20日には、ブラジル北西部のロンドニア州の人口46万人のポルト・ヴェーリョ市では、大気中の微小粒子状物質(PM2.5)濃度が1㎥当たり56.5㍃㌘(μg)に上った。これは世界保健機関(WHO)が推奨する上限の11倍で、国内の大都市中最悪の数値を記録した。
さらに世界の大気汚染を監視するウェブサイト「IQエア(IQAir)」の観測では、8月14日には同246.4μgの「危険値」が記録されている。報道によると、同市の住民からは「息をするのも大変」「本当にひどい。真夜中に目がチクチクして目が覚めた」等の不快な環境について嘆く声が上がっているという。
このため、同国政府は20日に、ロンドニア州をはじめ、被害のひどいパラ州、アマパ州、ロライマ州、アクレ州の各知事に対し、農民が土地を開墾のために使用する火の使用を禁止する命令を出すよう要請した。また、すでに延焼中の火災を消火するため、約1500人の消防士を現地に派遣した。
毎年のように発生するアマゾンの森林火災だが、今年は、その要因である少雨・渇水が、少なくとも過去20年間で最悪の状態で続いているとされる。アマゾンの大動脈であるアマゾン川を構成するネグロ川とソリモンエス川の上流にあるマデイラ川とプルス川は、昨年に122年前の観測開始以来の最低の水位に落ち込んで以来、継続する少雨の影響で十分に回復せず、周辺の生態系にも大きな影響を及ぼしているという。
このため、国立水・衛生庁は7月にマデイラとプルスの両川の川沿い地域を対象に「危機的な水不足状況」を宣言した。アマゾンが直面しているここ数年の気候変動の影響は、人間以外の生物種へも大きな影響を及ぼしている。昨年10月にはピンクカワイルカとして知られるアマゾン川の固有種・絶滅危惧種のアマゾンカワイルカが、湖の水温が上昇して100頭以上が「茹でられた」格好で死亡した事件が起きている。
また、アマゾンの上空には、熱帯雨林帯から発生する膨大な水蒸気が流れる「空飛ぶ川(flying rever)」の存在が知られる。平均的な森林の木が放出する水蒸気は日量1000㍑の水蒸気を大気中に放出する。一般的に土地1㎡当たりでは日量1㍑の水が蒸発するが、同じ面積の森林では樹冠の葉の層により、その約8倍の水が蒸発するとされる。こうして森林から蒸発する大量の水蒸気を含んだ気流はアンデス山脈に達すると、大量の湿った空気がブラジルの中南部やコロンビア、エクアドル、ペルー、アルゼンチン北部などに流れ、各地で雨となる自然のサイクルになっている。
ところが今年は、アマゾンでの少雨、渇水の長期化で、「空飛ぶ川」の流れが水蒸気ではなく、火災から発生する大量の煙に置き換わり、ブラジルの中南部にある、アマゾンと並ぶ大きな生物群系(バイオーム)のパンタナル湿地帯では、アマゾンからの湿った大気が届かず、壊滅的な火災が続いているという。同地でも、生態系の中核をなす植物、菌類、昆虫等が、生態系全体の異常な乾燥状態の中で絶滅の危機に瀕しているとされる。
環境相のマリーナ・シルヴァ( Marina Silva)氏は人為的な地球温暖化の進行が森林火災拡大の原因だと非難した。「気候変動が悪化している。エルニーニョの時期があり、さまざまな地域の気温の変化、海洋の温暖化など、一連の問題が問題を悪化させている」と述べた。ブラジル政府による森林伐採対策だけでは、この気候変動のインパクトに対応が困難、との見方を示している。