HOME |中国のシェールガス開発、山積する課題(National Geographic) |

中国のシェールガス開発、山積する課題(National Geographic)

2012-08-12 23:19:19

NGenergy-china-shale-fracturing-update_57992_big
中国四川省の東隣にある重慶は、第二次世界大戦時に臨時首都になるなど、長大な中国史においてさまざまな役割を果たしてきた。2012年夏、中国初の水圧破砕法(フラッキング)によるシェールガスの採掘が開始され、新たな歴史の1ページが書き加えられようとしている。

地下の軟岩層「シェール層」から天然ガスを取り出す技術は、アメリカのエネルギー事情を6年で一変させた。中国にはアメリカの1.5倍のシェール層が広がっていると考えられており、「メイドインUSA」の技術導入が急ピッチで進められている。

 6月9日、中国の三大国有石油企業の一つ、中国石油化工集団(シノペック)が重慶でシェールガス井の採掘を開始した。年末までに3億~5億立方メートルの天然ガスを生産する予定という。中国のエネルギー消費量のわずか1日分だが、政府は2020年までにエネルギー需要の6%をシェールガスで賄う目標を立てている。

 しかし、アメリカのシェールガス革命を中国で再現するには、さまざまな難題が存在する。

◆巨大な埋蔵量、採掘は可能?

 アメリカでフラッキングと水平掘削技術を組み合わせたシェールガス採掘法が編み出されてから10年。今やシェールガス産業は、国内天然ガス供給の25%を占めるまで成長した。

 新しいエネルギー源は、石炭需要の削減に大きく貢献する。アメリカの電力生産に占める石炭の割合は、わずか3年で50%から34%に減少。天然ガスは燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出が石炭や石油よりも少なく、エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によれば、2012年のエネルギー関連のCO2排出量は2005年比で11%減少する見込みという。

 中国では石炭火力発電が80%を占めており、天然ガスに置き換えれば温室効果ガス排出を大幅に抑制できるだろう。

 しかし、シェール層にはいくつかの種類がある。海成堆積層が最も品質に優れているが、7つある中国国内の候補地域の中で該当するのは、四川省と新疆ウイグル自治区のタリム盆地だけだ。

 また、アメリカのシェール層と比較すると、泥を多く含み、地中深くに眠っている点などが問題視されている。

 アメリカのワシントンD.C.にあるシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員エドワード・チョウ(Edward Chow)氏は、「シェールガス採掘の手法に“虎の巻”は存在しない。現場で試行錯誤を続けていく他ないだろう」と語る。

◆最高の場所を求めて

 アジア最長の川、長江を臨む重慶は、天然ガスのパイプライン・ネットワークが既に存在しており、中国初のシェールガス採掘に最適な場所だと考えらえている。タリム盆地はあまりに奥地で、天然ガスの生産・輸送インフラもまったくそろっていない。

 ただし、重慶にも難題が待ち受けている。アメリカのカリフォルニア州にある米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)のデイビッド・フリドリー(David Fridley)氏は、「大量の水を必要とするフラッキングは、水供給がボトルネックになる」と話す。世界銀行の統計によると、中国で1人あたりが利用できる水の量は、世界平均のわずか4分の1。また四川省では、水を大量に使う穀物生産も盛んで、その生産量は国内消費の1割を支えている。

 地震のリスクも無視できない。7万人が命を落とした2008年の四川大地震の震源は、重慶の北西350キロ。イギリスやアメリカのオハイオ州、テキサス州などでは、地下に廃棄された排水が弱い地震の引き金になった可能性が指摘されている。

 さらに、技術的なノウハウの獲得も難題だ。カリフォルニア州にある米国エネルギー省ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のジュリオ・フリードマン(Julio Friedmann)氏は、「中国が5年でシェールガス開発を本格化したいのであれば、採掘の知識と経験を持つ企業と提携するしかない」と述べる。

 事態打開のため、中国の国有エネルギー企業は、シェールガス関連の買収を試みてきた。数年前は小規模なジョイントベンチャーに限られていたが、今年に入り、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP、シェブロン、トタルなどのスーパーメジャーが中国との提携に乗り出している。

 中国の第12次5カ年計画(2011~2015年)は、2015年までにシェールガスの生産量を65億立方メートルにする目標を掲げている。

 山積する課題を乗り越えていけるのか。その答えを探りながら、採掘ドリルは地中深くへ進み始めた。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120810002&expand#title