HOME |クジラは餌場から1万kmも離れた場所まで尿を運んで排泄。窒素などの栄養素の地球規模での水平循環に寄与。窒素は年間4000㌧強、バイオマスは45万㌧強を運ぶ。研究論文(RIEF) |

クジラは餌場から1万kmも離れた場所まで尿を運んで排泄。窒素などの栄養素の地球規模での水平循環に寄与。窒素は年間4000㌧強、バイオマスは45万㌧強を運ぶ。研究論文(RIEF)

2025-03-20 12:25:27

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 地球上で最大の動物であるクジラが、アラスカやアイスランドなどの高緯度地帯の餌場でオキアミやニシン等を食べた後、1万km以上離れた繁殖場所の熱帯地帯に移動して排尿することで、年間4000㌧の窒素と、バイオマス換算で45万㌧以上もの栄養素を供給する広大な栄養素循環を生み出していることが研究論文で分かった。研究者はこのプロセスを「クジラの小便漏斗(Whale Pee Funnel)」と命名した。研究者は「クジラはただ大きいだけではなく、健全な海洋にとって非常に重要な存在」と指摘している。

 

 研究は米バーモント大学ガント環境研究所研究員のジョー・ブラウン(Jou Brown)氏らの研究チームが「Migrating baleen whales transport high-latitude nutrients to tropical and subtropical ecosystems」と題する論文で明らかにした。論文は3月10日付で「nature communications」で公開された。

 

 研究チームは、セミクジラ、コククジラ、ザトウクジラなどのクジラを対象として調査した。大人のクジラは高緯度地帯(アラスカ、アイスランド、南極など)で餌を食べ、大量の脂肪を蓄える。北太平洋を餌場とするザトウクジラの場合、春、夏、秋に1日当たり約14kgの脂肪を蓄えることがわかっている。

 

 またコクジラの場合は、ロシア沖の餌場からバハ・カリフォルニア沿岸の繁殖地までの1万1000km以上を、南半球で南極付近を採餌場とするザトウクジラは、南極からコスタリカ沖の繁殖場所までの8000km以上を、それぞれ移動する。クジラたちは移動中は餌を食べず、繁殖地に到着すると、窒素を多く含む「オシッコ」を大量に排出する。

 

 別の研究では、体の大きいナガスクジラは餌を食べている時に、1日当たり約1000㍑の尿を排出することが分かっている。人間が平均的に排出する尿の量は1日当たり2㍑とされるから、クジラは人間よりも500倍ものオシッコを出していることになる。

 

 ブラウン氏は「クジラはただ大きいだけではなく、健全な海洋にとって非常に重要な存在だ。クジラは、何千kmもかけて、プランクトンや他の魚たちの餌になる窒素を運んでいる」と指摘している。ハワイなどの繁殖地で放出される尿の量は、同地の陸上での人間活動などから供給される栄養分よりも多いという。

 

 クジラの尿に含まれる大量の窒素は、窒素の供給源が限られている地域では、熱帯の生態系や魚類の健康を支えている。先行研究(2010年)では、研究者たちは、クジラが深海で餌を食べ、海面に排泄物を排出する行動をとることによって、垂直方向での栄養素の循環を生み出し、プランクトンの成長と海洋中の生態系の生産性にとって重要な資源を提供していることを示している。

 

 今回の研究では、クジラが餌場である栄養豊富な冷たい海域から、交尾や出産を行う赤道付近の暖かい繁殖海域まで、遠く離れた海洋を横断して、水平方向に栄養素を大量に運んでいることを示している。クジラが運ぶ栄養素の循環は、その多くが尿の形となるが、それ以外に、クジラの体から剥がれ落ちた皮膚、死んだクジラの死骸、子クジラの糞、胎盤なども栄養素循環に寄与することになる。

 

 膨大な栄養素の海洋循環を担っているクジラだが、科学者たちの推計では、人間による捕鯨によって個体数が激減する前は、クジラの長距離移動による栄養素循環による窒素やバイオマス類の流入量は、現状よりも3倍以上に上っていた可能性があると推測している。

 ローマン氏は「クジラはその大きさゆえに、他の動物にはできないことを行うことができている。窒素やその他の栄養素の供給は、植物プランクトン(微細藻類)の成長にとって重要であり、サメやその他の魚類、多くの無脊椎動物にとっての食糧にもなる」。

 

 研究者たちが、クジラが広範囲の海洋を移動して栄養素を熱帯地帯に運ぶプロセスを「クジラの小便漏斗(Whale Pee Funnel)」と命名したのは、クジラが広範囲の海洋で餌を採取した後、交尾や繁殖、出産のために移動する繁殖海域は比較的狭い場所となることから、広大な海洋に広がる栄養素が、はるかに狭い沿岸やサンゴ礁の生態系に集中する形で運び込まれる格好になるためだ。研究者の1人は「庭の堆肥を作るために葉を集めるようなもの」と形容している。

 

 ローマン氏は「多くの人々は、植物を『地球の肺』として考え、CO2を吸収し酸素を放出するものとして評価する。一方、動物は栄養素を移動させるという重要な役割を担っている。たとえば、海鳥が出す糞は、海から陸へと窒素やリンを運び、運び込まれた島等での植物の密度を高める。動物は地球の循環系を形成しており、クジラはその代表的な例といえる」と述べている。

https://www.nature.com/articles/s41467-025-56123-2

https://www.uvm.edu/uvmnews/news/discovery-great-whale-pee-funnel