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米国の非営利健康団体「アメリカ肺協会(ALA)」。米国人のほぼ半数がPM2.5等の大気汚染に晒され、呼吸器疾患増大の可能性を警告。トランプ政権の温暖化・大気汚染策の後退に危惧(RIEF)

2025-04-27 19:30:35

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写真は、肺がん撲滅のキャンペーン・ウォークを展開するALAのメンバーたち=ALAのサイトから)

 

   米国の非営利健康団体の「アメリカ肺協会(American Lung Association, ALA)」は、「米国人のほぼ半数(46%)がオゾンやPM2.5(微小粒子状物質)などで汚染された大気下での生活を余儀なくされ、肺などの呼吸器疾患の可能性に曝されている」と警鐘を鳴らす報告書を発表した(State of the Air 2025)。温暖化を認めず、大気汚染対策を後退させる方針を示しているトランプ政権によって、事態の悪化がさらに進むことに懸念を示している。

 

 ALAは1904年に発足した結核対策の民間団体から発展したボランティア組織で、100年以上の歴史を持つ。ALAの警鐘は、今年で26回目となる同団体の「State of the Air」報告書の中で指摘した。調査は、環境保護庁(EPA)のデータを基に、2021~2023年の3年間のデータで評価した。

 

 その結果、今回の報告では、米国人の46%(1億5610万人)が、日々、汚れた大気の下で呼吸し暮らしていることが示された。影響を受けている国民の数は前年(2023年)の調査に比べて16%(2500万人)増加し、過去10年間で最悪の数字だった。工場や車などからの排ガスや、石炭火力発電などからCO2排出増に加え、気候変動の進展に起因する森林火災の多発による深刻な煙害も影響している。さらに夏季には熱波の襲来が増大し、汚染された空気の吸引に加えて、健康被害に陥る可能性も増幅されているとしている。

 

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 ALAはこうした大気の状態や気候変動の影響が高まっている中で、温暖化を認めず、大気汚染対策を後退させることを気にしないトランプ政権の登場に懸念を深めている。同政権の下では、大気の質の改善は当面、期待できないためだ。ALAは、「今後さらに大気汚染に由来する健康被害が深刻化する」と警告している。

 

 PM2.5等で汚染された空気を常時、吸い込み続けると、喘息、心臓病、糖尿病などの慢性疾患に罹る懸念があるほか、肺がん、早期出産などの疾病の可能性も高まる、と指摘されている。

 

 大気汚染による健康被害については、人種によって汚染に曝される割合が大きく違うことも、米国の現実的な課題でもある。米国全体の人口の41.2%を有色人種が占めており、大気汚染が進む地域で暮らしている黒人の割合は、白人の2倍いるとされる。また、中南米系のラティーノの場合は白人の3倍にもなるという。

 

 貧しい暮らしをしている黒人やラティーノ等のマイノリティの人々は、高速道路のインターチェンジによって分断されたコミュニティや、煤煙等を排出する工場に近接した住区で生活しているケースが多いためとされる。

 

 米国では、1960年年代以降、大気汚染対策が進展した。大気浄化法(Clean Air Act)が制定されたほか、EPAが設置され、さらに自動車の排ガスを規制するマスキー法なども成立し、オゾン、車の排ガス、ディーゼル車の規制などの取り組みが進展した。これにより、大気汚染がひどかった1970年代に比べて、最近では80%程度は改善したとされる。

 

 ところがALAの報告書では、「最近の10年余、データが悪化している」と指摘している。さらに「気候変動や排ガス規制に積極的な取り組みを展開したバイデン政権が退場し、反環境政策を信奉するトランプ大統領が登場したことは、大気汚染の状況をさらに悪化させる」と憂慮している。

 

 米国で最近、特に問題化しているのは、気候変動の影響で頻度が増している山火事による火災被害に加えて、大気汚染の悪化が増大している点だ。今年初めにカリフォルニア州で起きた山火事の影響は、日本でも大きく報道されたが、それ以外にも、ニュージャージー州等で起きた山火事による黒雲がニューヨーク市内にも流れて来る等の事例が再三、起きている。サンベルトや太平洋北岸の州でもしばしば自然災害の山火事が発生している。

 

 数年前にも、カナダで発生した山火事が大陸を東進して延焼し、その煙が南下してニューヨークに流れ込み、マンハッタンの摩天楼街を覆い尽くす、ということもあった。その時は、COVID-19以来、街を歩く人々の間にマスクが復活していた。

 

 ALAの同調査では、対象とする汚染物質の濃度が全国最悪の順位を占める大都市圏等のランキングも示している。今年もカリフォルニア州ベイカーズフィールドが、3年連続で短期粒子状物質と、同年間汚染で最悪都市の座を維持し、さらにオゾン汚染でも3位だった。オゾン汚染の最悪は同州ロングビーチ。全般にカリフォルニア州の大気汚染がひどく、その他の地域では工場集積地周辺等での汚染度が高い。ロサンゼルスは、26年間の「State of the Air」報告のうち25年間で全国最悪のオゾン汚染を記録している。

                          (矢作弘)

https://www.lung.org/research/sota/key-findings

https://www.lung.org/media/press-releases/2025-roanoke-sota