トランプ大統領、ブッシュ・オバマの両大統領が党派を超えて国立海洋保護区に指定した太平洋海域での商業漁業を認める大統領令。「アメリカをシーフード産業のリーダーに」と宣言(RIEF)
2025-05-06 23:56:49

トランプ大統領は、太平洋のハワイ諸島から米国領サモアに広がる米国の領海、及び排他的経済水域に設定している生態系や希少動植物保全のための「太平洋諸島海洋国立公園規定(PRIMNM)」を緩和し、米国の漁業者による商業漁獲を認める大統領令を発出した。トランプ政権がスタートした機会を捉え、サモアなどのマグロ漁業者が今春から強力なロビー活動を展開していた。「環境保護を否定し、産業活動を優先する」ことを重視する一連のトランプ政策が、漁業産業にも広がる形になる。
「PRIMNM」の規定は、共和党のJ.W.ブッシュ政権時代の2009年に、太平洋の中央に位置するウェイク島、ベイカー島、ハウランド島、ジャヴィス島、ジョンストン環礁、パルミラ環礁、キングマン礁の7諸島とサンゴ礁、165の海山を含めて海洋保護区とし、商業漁業が禁止されている地球上でもっとも広い海域になっている。2014年にオバマ政権の時代に、保護区域を拡大した。
同海域は多種多様な魚介、22種の珍しい海鳥、ミドリカメ、鯨、イルカなどの楽園になっているほか、生態系保全だけではなく、これらの島嶼内の歴史的・科学的対象物も総合的に保護・保存することを目的としている。
同海域は連邦政府の管理下で保護・管理されるため、公有地法に基づくあらゆる形態の立入り、占有、選択、売却、賃貸、その他の処分から除外されている。多様な魚類や鳥類、海洋哺乳類等の生息地であるほか、130種のサンゴが生息し、連邦政府のアメリカ魚類野生生物局が直轄するサンゴ礁島「キングマン・リーフ」がある。その後、PRIMNMの範囲は、オバマ政権時代の2014年に、約128万㎢に拡大されている。

PRIMNMに指定されるとともに、対象海域は、連邦法の希少生物保護法(The Endangered Species Protection Act)、水質浄化法(The Clean Water Act)などによって保護され、漁獲、魚介の加工などの産業活動は厳しく制限されている。トロール漁法などの大規模な漁業も禁止されている。
ただ、トランプ政権は今回の大統領令発出の理由として、同海域内での商業漁業の禁止措置により、米漁船は、太平洋諸島周辺での米国の排他的経済水域のほぼ半分へのアクセスが失われているほか、同海域以外の国際水域のより遠洋へ漁場を移すことを余儀なくされ、規制が不十分で多額の補助金を受ける外国の漁船との競合で不利な立場に立っていると指摘している。
トランプ大統領は、同保護区の指定によって、「正直な米漁業者」に不利な状況が生まれ、漁業が民間部門の経済の80%以上を占める米国領サモアのような米国領土の漁民にとっては、同保護区が経済的に有害になっているとしている。トランプ氏は、「この『馬鹿げた規制』のおかげで米国の漁船は水産資源の豊かな海域を4日から7日も迂回し、魚の少ない海での漁業を強いられている」うえに、「国際海域では、補助金をもらって漁業をしている他国の大型漁船と不利な競争に直面している」と述べている。
同氏は、こうした指摘をしたうえで、記者会見の場では「今般の規制緩和によって米国は、シーフードの分野で世界のリーダーに躍り出る」として、太平洋海域でも「American First!」を貫くことを宣言した。
ただ、今回の大統領令が実施に移されると、保護区域の海域でマグロの巻き網漁業などの大型漁船での操業が認められることになる一方で、米漁船の同海域での操業が増えると、それに紛れて不法漁業が広がる可能性も指摘されている。環境保護団体や海洋研究者からは、「これまで手付かずに保護されてきた貴重な、天然の海洋エコシステムが破壊されかねない」と規制緩和に反対する声が上がっている。
かつての日米の激戦の海である太平洋を、海洋生態系を保全する「平和の海」に位置付けた共和党のブッシュ大統領と、それを受け継いで拡大した民主党のオバマ大統領。二人が先導した海洋保全地区の歴史を、「米国第一主義」のトランプ大統領が、一転して、商業漁業の海域に転換することへの違和感は少なくない。
(矢作弘)
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/restoring-american-seafood-competitiveness/