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第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤サステナビリティ・サポート賞:商工組合中央金庫 「J-クレジット預金の取り扱い開始。中小企業による環境貢献のハードル下げる」(RIEF)

2026-02-27 18:23:33

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写真は、サステナブルファイナンス大賞の表彰式で、表彰を受けた商工中金の常務執行役員の佐野吉浩氏㊧。㊥はGX推進機構理事の高田英樹氏、㊨は環境金融研究機構の藤井良広)

 

 商工組合中央金庫(商工中金)はJ-クレジットによるカーボンオフセットを預金者に付与する「J-クレジット預金」の取扱いを2024年12月に開始しました。日本初の試みで、多くの中小企業がサステナビリティ経営に取り組む第一歩といえ、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナビリティ・サポート賞に選ばれました。同預金を開発・推進した同金庫の経営企画部サステナビリティ推進室オフィサーの脇本節子氏、ビジネス企画部シニアアソシエイトの相原優花氏、同部次長の畠中浩司氏に、聞きました。

 

――国内初でJ-クレジット預金を出しました。同預金を開発するきっかけ、あるいは背景を教えてください。

 

 脇本氏: 私たちは、企業が脱炭素社会の実現に向けて、より具体的な行動を起こせるような仕組みを提供したいと考えました。J-クレジット制度は付加価値のある仕組みであり、顧客企業の脱炭素経営の支援につながると考えました。こうした考えのもと、商工中金としてJ-クレジットの普及に寄与できるスキームを検討する中で、預金の特典としてJ-クレジットを付与するという発想に至りました。J-クレジット預金では、預金者は「預入するだけ」で、J-クレジットの環境価値を手にできる特典が得られます。それに合わせて、地域の森林産業を応援することにもつながります。資金運用を行いながら、サステナビリティ対応による社会的意義を果たすことができる預金として企画、開発しました。

 

インタビューに参加した商工中金の方々。㊧から
インタビューに参加した商工中金の方々。㊧からビジネス企画部次長の畠中浩司氏、㊥は同部シニアアソシエイトの相原優花氏、㊨はサステナビリティ推進室オフィサーの脇本節子氏、

 

 相原氏:この預金は、預金満期時に金利に加えて、森林由来のカーボンクレジットであるJ-クレジットを付与する法人向け定期預金です。通常の定期預金と同様に店頭表示利率の金利も付きますので、預入者は資金運用と環境貢献を同時に実現できます。具体的には、満期時元本5000万円に対し、CO2換算で5㌧分のクレジットが付与されます。これまで2024年12月と2025年5月の2回にわたり、それぞれ100億円の枠で募集を行い、計200億円分を、約230社の企業に利用していただきました。付与予定の森林由来のJ-クレジット量はCO2換算で約2000㌧になります。

 

 第1回目に募集したJ-クレジット預金(令和6年度募集分)の満期到来に合わせて預入開始日を設定しており、第1回で預入していただいた顧客企業も再度預入できます。市場の反応や募集状況を踏まえ、今後の展開も検討してまいります。預金で集めた資金は、顧客の中小企業への融資やサステナブル経営支援などの、社会の重要課題の解決に資する取組みに活用しています。

 

 商品化で工夫した点としては、付与するJ-クレジットを森林由来クレジットに特化したことと、全国7地域から調達していることです。J-クレジットには、再生可能エネルギーや省エネルギー由来のものもありますが、森林由来クレジットの場合、日本国内の山林資源の保全や、林業の再生に貢献できます。環境・社会的に付加価値の高いクレジットと考え、これに限定しました。預入者は、預けるだけで森林の適正な管理を応援することができます。

 

 クレジットの調達にあたっては、商工中金の全国ネットワークの強みを生かし、全国7地域から調達しています。中にはわれわれの顧客先もいます。これまでの関係性を踏まえながら、クレジット調達の仕組みを工夫した点もポイントと考えています。制度設計については、J-クレジット・プロバイダーであるイトーキ社と業務委託契約を締結し、同社のノウハウや知見を得ながら進めました。

 

相原氏
相原氏

 

——預金先企業の反応はどうですか。

 

 畠中氏:「J-クレジットを知ってもらいたい」という商品設計時の思いに対し、共感が広がっていると感じています。加えてクレジット創出者の方々からも、「J-クレジット預金を通じて環境保全への共感が高まって欲しい」「J-クレジットの認知度向上につながってほしい」といった同預金に期待する声をいただいています。同預金を通じて、預金者とクレジットの創出者をつなぐ動きが生まれつつあることに、手応えを感じています。

 

――ただ、J-クレジットはやや制度が難しく、特に中小企業には戸惑いもあったのではありませんか。

 

 畠中氏:確かに、社内でも同様で、最初は「J-クレジットとは何か」というところから始めました。そこから理解を深めていき、顧客企業にもJ-クレジット制度や本預金の趣旨についてご説明し、対話を重ねていきました。その結果、多くの顧客先から預金の趣旨への賛同をいただき、実際の預け入れ増加に繋がっていると感じています。

 

 中小企業の方々からは「サステナブル経営という言葉はよく聞くが、何から取り組めばよいか分からない」と言う声を聞きます。そうした場合に、「J-クレジット預金は、お預け入れいただくだけで、預金利息に加えて森林の適正な管理を応援することができます。まずはここから始めてみませんか」とご案内しています。

 

 サステナブル経営に取り組む場合、新たな設備投資等が必要となると、企業によっては踏み切れない部分も生じるかと思います。しかし、本預金は、まずは預金をするだけで環境貢献に繋がる手応えを得られます。その点で、同預金は、サステナブル経営の「第一歩」として取り組みやすい商品だと考えています。

 

畠㊥氏
畠中氏

 

――融資先などの取引先との関係性が深まるということですね。その取引先ですが、J-クレジット預金への対応において、地域や業種で、違いはありますか。

 

 脇本氏:本預金は、顧客企業との間で「これからのサステナブル経営をどうするか」という対話のきっかけになり、サステナブル経営支援に繋がっていると感じています。預金のご案内をきっかけに、脱炭素や環境対応について話題になるようになりました。その結果、CO2排出量の可視化やSBT認証取得支援など、より踏み込んだ本業支援のご相談につながっております。商工中金では、以前から顧客企業のサステナブル経営に取り組んできましたが、J-クレジット預金を通じて、取引先やわれわれ社員の意識にも変化が出始めていると感じています。

 

 商工中金はJ-クレジット預金を単体の商品として扱うのではなく、サステナブル経営支援の入口として位置づけています。顧客企業の中長期的な企業価値向上と持続可能な社会の実現に向けて、同預金を通じて顧客企業の取組みを包括的にサポートしてまいります。

 

 本預金の利用は、特に地域や業種にばらつきや偏りはなく、幅広い顧客企業から資金を預け入れていただいています。預金をしていただいた取引先からの反応としては、「社会貢献の一歩として取り組めることがうれしい」「余裕資金を(預金として)置いておくだけで環境価値を得られるのはありがたい」といった声をいただいています。中には、預入したことを自社ホームページに掲載してくださる企業もあります。当該企業だけでなく、本預金の対外PRにも貢献していただいています。

 

脇本氏
脇本氏

 

――今回のJ-クレジット預金は、持続可能な資金循環を生み出し、脱炭素社会への企業の参加を促す新たな金融商品モデルとして評価されました。商品化に際しての課題はありましたか。

 

 相原氏:本預金の趣旨に共感していただけるような紹介・アピールができるか不安な面もありました。ですが、全国の顧客企業に賛同していただくことができたと思っています。また、本預金をきっかけに、預金先企業の本業支援につながる取り組みもでき、多くの企業に活動に貢献することができて、大変よかったと思っています。

 

 脇本氏:「商工中金らしい商品」を形にできたということを、うれしく思っています。本取組みを通じて、私たち自身がJ-クレジットの創出事業者等の声を直接伺う機会にも恵まれました。森林保全の現場や、それらに関する具体的な取組みを知る中で、J-クレジット預金が、そうした活動に貢献できていることを実感しました。最近では、他の地域金融機関においても、同様の預金商品を組成する動きが見られています。地域の企業価値や環境価値の向上につながる取り組みが広がっていくことは、私たちにとっても何よりの励みです。

                        (聞き手は 加藤裕則)