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第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑥地域金融賞:京都中央信用金庫。「グリーン&スタートアップ預金」。環境・社会分野に加え、スタートアップへの出資も使途先とする初のESG預金(RIEF)

2026-03-01 00:30:48

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写真はサステナブルファイナンス大賞の表彰式で受賞した京都中央信用金庫の総合企画部部長の衣川 勉氏㊧と、審査員を務めたGX推進機構理事の高田英樹氏㊥、環境金融研究機構代表理事の藤井良広㊨)

 

 第11回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞には、「中信グリーン&スタートアップ預金」を開発・展開した京都市の京都中央信用金庫が選ばれました。同預金は従来のグリーン預金が環境・社会分野に重点的に資金提供する仕組みであるのに対して、環境・社会分野に加えてスタートアップ企業への出資を資金使途に加えた点が新しい。地域金融機関がスタートアップ企業を支援するモデル事業にもなる。同信金の総合企画部主計グループ課長の内藤達也氏と、同部業務役の尾野光氏に聞きました。

 

――最初に、「中信グリーン&スタートアップ預金」として、従来までのグリーン預金の資金使途先にスタートアップ企業への支援を加えた狙いはどういう点にありますか。

 

 尾野氏   :   当金庫では法人の顧客企業向けに、グリーンローンやソーシャルローン、ポジティブインパクトファイナンス等の各種のサステナブルファイナンスを取り扱っています。ただ、まだレパートリーとして何か物足りないのではないかということで、金庫内で分析したところ、4つの課題に気づきました。

 

 一つ目は、国内の金融機関で扱うグリーン預金の場合、預入額が1,000万円以上等、高額なものが多いので預金者が限られている点。2つ目は間接金融と直接金融の橋渡しとなる預金商品がない点。3つ目は、サステナブルファイナンスでは、ローンやボンドがメインになりますが、個人の顧客を含めた金融包摂の実現に資する預金商品がない点。最後に、当金庫の営業エリアで、地域に根差したオリジナリティのある金融商品はあるかというと、これも見当たりませんでした。こうした4つの課題を満たすものを作りたいという強い問題意識から、グリーン預金を発展させた商品の開発を目指しました。

 

㊨が総合企画部主計グループ課長の内藤氏、左が同部業務役の尾野氏
㊨が総合企画部主計グループ課長の内藤氏、㊧が同部業務役の尾野氏

 

――それはいつごろですか。

 

 内藤氏 :2024年6月頃です。他の金融機関のグリーン預金をみると、大口の顧客向けの取扱いがかなり多くなっていました。しかし、われわれの場合、大口顧客に限ってしまうと、信金のターゲット層と異なります。当金庫としては、より幅広い顧客層から広く預金を集め、地域におけるサステナビリティ経営の普及・推進に貢献していきたいと思っています。また、当金庫のオリジナリティとして、環境先進都市であり、スタートアップ先進都市でもある京都に本店を置く信用金庫としての取組みとしたいとの思いもあり、スタートアップ企業への出資を預金充当先に加えた商品を開発しました。


――2025年1月に取扱いを開始した第一弾の預金では当初の募集目標を大幅に上回ったとのことですが。

 

 尾野氏  :  その通りです。当初募集総額は、個人・法人合わせて100億円とし、募集期間も2025年末までと設定しました。ところが、募集当初から、個人顧客からの申し込み等が多く寄せられ、ほどなく募集枠を満たす見通しになりました。そこで、3月に入って、同月末に前倒しで販売終了のお知らせを出したところ、そのお知らせの影響で逆に駆け込みの申込みがさらに集中し、最終的には超過達成で143億円が集まりました。

 

――どのような方が預金を申し込まれたのでしょうか。

 

 内藤氏  :  「スタートアップ支援」という趣旨に賛同した顧客が多かったです。今までなら、「お金に色はつかない」ということで、どこに預けても金利次第のところがありましたが、今回の預金商品は「中信グリーン&スタートアップ預金」と銘打ったように、完全に色分けをさせてもらいました。集めた資金は「ここにしか入れません」という形で、使途を明らかにしています。その使途についても1年ごとに、預けたお金がどこに、どういう風に使われたのかというレポートを預金者に公表します。預金の趣旨に賛同していただいた顧客に資金の活用状況も評価してもらうわけです。

 

――143億円の資金使途先を教えてください。


 尾野氏  :  2025年4月18日時点での開示では、集めた資金の充当先について、分野ごとに優先的な充当順位を設けています。最初に資金を充当する分野は、同預金の主たる狙いのスタートアップ企業への出資です。現状では、同出資は6億9,600万円で全体に占める割合は4.9%。2番目の充当先は、京都府が構築した「京都ゼロカーボンフレームワーク」に基づくサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)で、21億6,900万円、15.2%の配分。3番目は当金庫が独自に提供するポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)やグリーンローン、ソーシャルローン、SLLなどで、44億2,300万円、30.9%。4番目が近畿地方(2府4県)の企業が発行したグリーンボンド等のESG債への投資で、71億円、49.6%です。

 

――ESG債への投資が結構多いようですね。

 

尾野氏
尾野氏

 

 尾野氏 : 当金庫の中では別途、グリーンボンド等を資金運用として投資している部署があり、そこでは国内企業等が発行するESG債だけでなく外国のグリーンボンド等へも投資しています。当金庫は可能な限り地域に根差した企業へ優先的に資金を充てたいと思っており、同ボンドへの投資に際しても、優先順位をつけさせていただき、地元企業が発行されるESG債に、まずは投資をしていこうという考えで取り組んでいます。

 

――スタートアップへの資金配分は、まだ少ないですね。今後、ベンチャー等を掘り起こす活動等とセットで進めていくのでしょうか。

 

 内藤氏 : 当金庫には約40年の歴史がある「中信ベンチャーキャピタル」というグループ会社があります。そこでは元々、スタートアップ企業への出資も一つの役割としています。当金庫と同グループ会社は、共同で投資事業組合(ファンド)を組成しており、これまでに組成したファンドは第9号まであります。これらファンドの投資上限は3億円でしたが、第7号ファンドから10億円に増額し、できるだけ多くのスタートアップ企業に出資できる体制をとっています。信用金庫は大手銀行のように、いきなり大きな投資はできませんが、「身の丈」にあった範囲で支援していくという方針で堅実に取り組んでいます。

 

――手応えとしては、同預金での資金調達と投資は成功しているという感じですか。

 

 内藤氏 : そのように考えています。同預金については、個人の顧客の場合の預入下限を100万円以上として、それ以上は顧客が1円単位で自由に決めることができる仕組みです。法人の顧客の場合は、下限は500万円以上で、それ以上の場合は同じく顧客が自由に設定できます。預金金利は、最終販売が終わった昨年3月末時点で、3年物が0.425%、5年物が0.8%(個人も、法人も同じ)で、通常の定期預金よりも3年物で0.075%、5年物で0.3%の金利をそれぞれ上乗せしています。


  尾野氏   :   同預金は、スタートアップ企業を含め、社会課題や環境課題に資する企業や事業へ資金を供給し、顧客と金庫が一緒に支援していこうという趣旨ですので、半年や1年物などの短期のものはそぐわないと判断しました。長い目で見ていただきたいということです。

 

――第二弾の募集はいつごろの予定ですか。

 

 内藤氏   :  資金充当先については、まだ十分に枠はあります。ただ、他の預金商品のキャンペーンとの兼ね合いもあることから、現在、第二弾をどうするかを企画・検討している最中です。

 

内藤氏
内藤氏

 

――資金使途先のスタートアップ企業からの反応はどうですか。

 

 内藤氏   :   京都だけでなく、関西全体でのスタートアップ企業が集まる場等において、当金庫の商品が話題に上ることもあるようです。また一般の顧客からは「スタートアップ」と言われてもピンと来ない、との声も聞くこともあり、広く知ってもらいたいとの願いを込めて「スタートアップ」の名前を商品名に入れました。同預金を出してから、顧客からは、当金庫が新商品を通じて、広く地域に寄与してもらうよう、あるいは応援してもらうような預金を出しているのですね、といった評価の声もお聞きしています。

 

 尾野氏  :   今回、サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞を授賞したことも、この商品を推進する一つのアクセルになると期待しています。これまでも、ベンチャーファンドを通じてスタートアップ企業向けに投資してきたこともあることから、今後は金庫をあげて、同預金を介してスタートアップ企業を育てていく「孵卵器(インキュベーター)」としての役割を進めていきたいと考えています。

 

――預金をした個人の方は、どのような方が多いですか。

 

 尾野氏  :   この預金商品の内容を知ってもらいたいという趣旨で、預金の受け入れはあえて窓口限定にしています。金庫内でも議論はあったのですが、顧客に同預金の趣旨を直接、説明して、賛同・納得していただいたうえで取り組んでもらいたいと思っています。基本的には新規の預け入れのみとし、顧客はスタートアップ支援の趣旨はもとより、預金の資金使途を明らかにして、1年ごとに預金で集めた資金の使途等も報告させてもらうので、透明性の高い仕組みに賛同していただいた顧客も多かったと感じています。


――金利も上昇気味であるのと、「預金でスタートアップ支援」という趣旨の両方に共感を得られたということですね。スタートアップの出資先の業種や事業で特徴的なところはありますか。

 

 尾野氏  :  かなり多種多様です。ペロブスカイト太陽光電池を開発している企業や、生物情報アプリなどの開発企業などもあります。京都は大学が多いので、大学発ベンチャーに出資をするケースも多数あります。例えば、ドローンを飛ばして上空から森林等を撮影し、森林が針葉樹林か照葉樹林かを見分けてCO2の排出量を計測してJ-クレジットの評価に役立てる企業も投資先です。

 

――昨年、日本の大手銀行も、ネットゼロ銀行同盟(NZBA)から離脱するなど、金融機関の脱炭素への取り組み姿勢が微妙になっています。中小企業等の脱炭素化の資金ニーズを踏まえる地域金融機関にも、そうした潮流の変化はありますか。

 

 尾野氏   :   昨年、トランプ政権が米国で発足してから、パリ協定からの離脱や反ESGの機運などが広がっており、グローバルには「アンチ脱炭素」等の動きも広がっているようです。ただ、国内では2027年3月からサステナビリティ情報開示が義務付けられることもあり、当金庫は、零細中小企業を取引先に多く有している以上、脱炭素に向けた各種サポートの充実化は欠かせないと思っています。それに、むしろ、こういう流れ(反ESG)の中では日本市場の質的優位性が高まるのではとも思います。

 

 こうした背景もあり、昨年10月に従来5,000億円としていたサステナブルファイナンス目標を、1兆円へ引き上げました。信用金庫としては、かなり高い目標ですが、当金庫として、今後も脱炭素にコミットメントしていくことが分かると思います。引き続きサステナブルファイナンスに取り組み、法人顧客のサステナビリティ経営を引き続き推進し、その一つの手段に同預金を位置付けていきます。

 

――今後、この預金をどう発展させていかれますか。

 

 尾野氏   :   元々、同預金は単発で終わらせるつもりではない商品です。他のキャンペーンなどとの調整が済み次第、第二弾という形で打ち出していきたいと思います。個人の顧客にも、法人の顧客にも、自分の預金を通じて、サステナビリティに貢献できることがわかっていただいたところなので、その火を絶やさないようにしたいと思っています。

 

 内藤氏 : 多くの方々の支援のもと、同預金は知恵を絞って作り上げた預金商品であることから、世の中の評価も受けたいという思いもありました。今回、このような形で表彰していただき、深く感謝申し上げます。

                                                                                   (聞き手は 藤井良広)