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第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑨優秀賞:三井住友信託銀行 「サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブファンド」の組成。理系人材チームで社会問題解決(RIEF)

2026-03-06 16:42:03

三井住友信託銀行の㊧から高久氏、五條氏、小中氏

写真は㊧からサステナビリティ推進部TBFチーム長の高久氏、同推進部部長の五條氏、同部TBFチーム上席調査役の小中氏)

 

 三井住友信託銀行は、サーキュラーエコノミー(循環経済)とネイチャーポジティブ(自然復興)に取り組むスタートアップ企業に投資するファンドを組成しました。植物工場を展開する企業やアパレル分野でソリューションを提供する企業などこれまで3社のスタートアップに資金を提供しています。サステナブルファイナンスの新たな分野への取り組み姿勢が評価され、第11回サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。サステナビリティ推進部部長の五條為展氏、同推進部テクノロジー・ベースド・ファイナンスチーム長の高久博史氏、同チーム上席調査役の小中洋輔氏に、聞きました。

 

――2025年3月に三井住友信託銀行は「サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブ1号ファンド」(CENPファンド)を開始したとのことですが、ファンドの概要を教えてください。

 

 小中氏:ファンド総額は100億円を目標としており、5年間で30社程度への投資を想定しています。通常、ファンドの運用期間は10年ですが、それを長めの12年にしました。LP(リミテッド・パートナーシップ)投資家は、東京都やSBIグループ、三井住友信託銀行の3社で、総額60億円で立ち上げました。無限責任となるGP(ゼネラル・パートナー)はSBI新生企業投資、三井住友トラスト・インベストメントとなっています。

 

――実際に投資した3社はどんな事業をしているのですか。

 

 小中氏:一つは「HarvestX」という植物工場で自動栽培技術の開発に取り組む会社です。2020年8月の設立で、すでに実績もあります。注目すべきなのがイチゴの受粉です。植物工場でも蜂を使って授粉を行うのですが、蜂の寿命は2週間程度と言われています。死骸も衛生環境上、良くありません。そもそも蜂自体が減っているそうです。そこでこの会社は人工的な授粉技術を開発しました。耳かきについている綿のポンポンのようなものに、超音波で微振動与えて受粉させるやり方です。実際に、すごい技術です。

 

 二つ目は、農地でデータを収集し、農家に農作業のソリューションを提供する会社、グリーン社です。e-kakashi(イーカカシ)」と呼ばれる農地に設置したセンサーで土中の温度や水分量などを計測し、収穫の時期などの情報を提供します。2024年4月に設立したばかりですが、今後、収量アップのほか、農薬使用量や人件費の削減に貢献しそうです。

 

 三つ目は、これこそサーキュラーエコノミーと言える事業で、大量廃棄の問題に正面から向き合っている会社です。「Synflux」という企業で、2019年3月の設立です。アパレルでは平面な布から立体的な衣類にする際、布の切断の関係でどうしてもかなりの余りが生まれます。多くは捨てざるを得ないのですが、これら廃棄される素材を最小限にカットするシステムを開発しました。廃棄量が最大で66%減らせるという試算もあるそうです。すでに大手のアパレルのゴールドウインとも協業するなど動き出しています。

 

小中氏
小中氏

 

――3社とも非常に興味深い取り組みをしていますね。サーキュラーエコノミーという言葉ですが、まだ一般に浸透しているとは言い難く、何となく聞いたことあるという人も多いと思います。どんな状況なのでしょうか。

 

 小中氏 : 岸田政権の時に「サーキュラーエコノミーに関する関係閣僚会議」が発足し、国家戦略として位置づけられました。当時、岸田首相はサーキュラーエコノミーについて、「環境面の課題をはじめ、地方創生や経済安全保障といった社会課題の解決と経済成長を両立させる新しい資本主義を体現するものであり、国家戦略として取り組むべき政策課題」と述べています。

 

 サーキュラーエコノミーの実現には社会のシステムを丸ごと変える必要があります。一企業、一地域ではできません。社会全体として取り組むことが求められます。原材料を製品にして利用後に廃棄物となるリニアエコノミー(線形経済)から、非連続なトランジションの形でサーキュラーエコノミーに転換していかなければと考えています。つまり、リサイクル材料を使ったり、大量販売ではないビジネスモデルに転換するなどの、経済、社会の変革が求められます。

 

 この転換のためには、スタートアップ企業がしっかりと活躍していく必要があります。既存の企業はどうしても既存のビジネスモデルやサプライチェーンが固定化されており、新しい「ビジネスの飛び地」が見えていても、なかなか入りにくいものです。だからこそスタートアップが必要で期待したいのです。

 

――投資ファンドの組成の背景として、社内にテクノロジー・ベースド・ファイナンス(TBF)というチームを作ったと聞きました。どんな組織なのですか。

 

 五條氏:私たちは、明確な資金ニーズに融資で応えていくだけではなく、できれば事業の創出段階から関与していきたいと考えています。これまでプロジェクトが出来てからファイナンスの話、という順番で対応してきましたが、このファンドでは、上流から一緒にビジネスを作っていく方向に動き出しています。上流から関与していくことで、銀行にファイナンスの役割が来た時にも、プロジェクトのリスクを十分に把握できるようになると考えています。したがって事業リスクを理解する立場として、ファイナンスの力を適正に発揮して事業をサポートしていくことができます。

 

五條氏
五條氏

 

 金融は今後、より一層事業に深く関わって、顧客企業を支援していくことが求められるようになると考えています。例えば、メーカーの場合、その技術を深く理解することができれば、技術的対話から事業理解と戦略サポートそして金融による支援へとつなげられるはずです。これをわれわれも実現しようと2021年4月に作ったのがTBFチームです。同チームのメンバーの多くはメーカーで技術畑にいた人をキャリア採用しました。TBFチームの組織内での立ち位置は、経営管理部門となります。事業部門と連携し、短期的な足元の収益ではなく、より長期的な視点に立ってその企業の取り組みを評価し、社会問題の解決につなげたいと考えています。メンバーは現在14人で、専門分野で言うと、都市インフラ、電気設備、食品ヘルスケア、環境政策など多岐にわたります。彼らを集めたのは、「技術が分からないのでファイナンスができない」といった判断を避けたいという思いがあります。

 

 一方で、良くも悪くも、銀行の中で明確な役割を事前に設定しているわけではありません。自分たちで考えながら進めてきました。自分たちの存在意義は何か。自らの知見で、三井住友信託銀行の中であるべき姿を作ってきました。結果的に、銀行が社会に役に立つうえで、寄与しているのではないかと思っています。

 

――社会問題を解決するためには、最終的にファイナンスが大事になってくると思いますが、そのファイナンスを動かすためにTBFチームがあるということですね。

 

 高久氏:その通りです。投資家は引き続きサステナブル領域への投資に相応の関心を有しており、個人投資家の中にも「社会に貢献できる事業に投資したい」との思いが高まっていると思います。産業界においても、例えば、欧州を中心に自動車やスマートフォンなどの素材では再生材の利用が強く求められています。消費者も同じで、サーキュラーエコノミーに社会的な価値を見出す人が増えています。このような意識が進展する中で、サステナブル領域で事業展開をしたい企業と、そういった事業に投資をしたい人を、信託と銀行の二つの業務を担っている当社が、うまく仲介したいと考えています。

 

 TBFチームの存在はやや分かりづらいのですが、例えると、メーカーにあるR&D部門のようなものです。対象となる事業がうまくいきそうなのか、ファイナンスはどれだけ必要なのか、といった課題について、銀行の専門家だけではなく、素材エネルギー、情報通信などの知見を持ったメンバーがその可能性を見極めることができます。

 

高久氏
高久氏

 

 例えば、いま、インフラの老朽化が社会問題となっていますが、老朽化したインフラを効率的に改修する手法として「予防保全」の考え方が注目されています。TBFチームでは大学や連携している企業との共同研究を通じ、予防保全効果の貨幣価値換算化に取り組んでいます。持続可能な社会システム作りに貢献すべく、予防保全によるライフサイクルコストの低減効果の科学的な分析や検証に引き続き取り組んでいきます。

 

――自治体との連携も模索していると聞きました。どんな取り組みをしているのですか。

 

 小中氏:われわれは、ファンドを立ち上げてリターンを得るということだけではなく、世の中を良い方向に変えていきたいという思いがあります。今回のCENPファンドはその中の一つの手段です。本業の銀行業務では、企業に対して、サステナブルファイナンスの提供やエンゲージメント、コンサルティング機能によりサポートを実施していきます。合わせて、サーキュラーエコノミーの実現を目指す自治体に対し、その戦略の策定や実行のサポートを新たに始めました。

 

 「サーキュラーシティ移行ガイド」を策定し、自治体の理解醸成や庁内の合意形成に活用していただいており、必要に応じてサポートをさせていただいています。自治体が帰属する各地域の現状分析から地域のKPIの策定を支援し、プロモーションやファイナンスも手助けしています。すでにいくつかの自治体と一緒に取り組んでいます。

 

 ただ、サーキュラーエコノミーは、いろんな文脈や手法があってなかなか難しいという側面もあります。自治体の場合、議会から「(予算に見合った)成果がでているのか」と質問されることがあるそうです。その時に、われわれとしても、自治体と一緒に指標や目標を作って示すことができれば、地域社会の納得感を得ることができます。現在、様々な自治体がサーキュラーエコノミーに取り組み始めており、また、取り組みたいという熱意を持った自治体職員もたくさんいます。

 

 われわれとしては、そうした自治体をしっかり応援していきたいと考えています。地域で循環していく仕組みをリードしていくのはやはり自治体自体だと思います。その際、一番大事なことは、その地域で既存の企業やスタートアップ企業が新たにビジネスを創出することです。そうしたビジネスの創出を、金融機関としてサポートしていきたいと考えています。

                  (聞き手は 加藤裕則)