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八ッ場「再開」:2年間何だったのか…住民、迷走に怒り(毎日)

2011-12-23 10:32:54

八ッ場ダム建設に伴う水没予定地に立つ高山彰さん。高山さんの自宅に近いこの地区には、かつて民家が建ち並んでいた=群馬県長野原町川原畑で2011年12月19日、奥山はるな撮
群馬県長野原町で建設が進んでいた八ッ場(やんば)ダムをめぐる政府・民主党の迷走は22日、最終的に「建設再開」で決着した。

八ッ場ダム建設に伴う水没予定地に立つ高山彰さん。高山さんの自宅に近いこの地区には、かつて民家が建ち並んでいた=群馬県長野原町川原畑で2011年12月19日、奥山はるな撮


「古里が水の底に沈む」。建設に反対する住民、やむなく受け入れた住民とも、ダム事業には痛切な気持ちを抱いてきた。「何のための2年間だったのか」。政治に振り回されてきた住民は怒りの声を上げた。

 「なめるのもいいかげんにしろと言いたい。マニフェストに書いてあることは二度と信じない。ダムを造るくらいなら、東日本大震災の被災者に予算を回してほしい」

 長野原町の公務員、高山彰さん(58)は22日、民主党政権がまとめた結論にこう憤った。一昨年夏の衆院選をきっかけに、問われれば、「ダム建設には反対だ」と公言するようになった。「政権交代で政治の流れは変わる」。そう期待した。

 ダムの建設計画が持ち上がったのは終戦から7年後の52年。高山さんが生まれる前のことだ。国は、首都圏などへの利水と治水を建設の目的に挙げた。

 だが、ダムができれば、住まいがある一帯は水没する。憤まんはあった。でも、「仕方ない」とも思っていた。「決着済み」との空気が町にあるのを感じていた。

 町には、むしろ旗を押し立てた住民たちが国を相手に激しい反対運動を続けた歴史がある。水没予定地にある川原湯温泉の旅館のあるじたちも国に抵抗した。だが、国は折れない。町は85年、国や県の意向を受け入れた。

 ところが、一昨年夏の政権交代直後、前原誠司国土交通相(当時)は「建設中止」を宣言する。民主党は衆院選のマニフェスト(政権公約)で、八ッ場ダムを「無駄の象徴」として掲げていた。前原氏の発言は、自民党政権からの政治の転換を印象づけた。

 報道陣が町に押し寄せ、高山さんは取材のテレビカメラに、こう話した。「故郷を水に沈めるなんて、賛成できるわけがない」。率直な気持ちだった。

 「余計なことを言わないで」。高校生の娘に、くぎを刺された。でも、考えは変わらなかった。「ダムの建設が止まれば、古里を娘たちに引き継げる」

 高山さんは今、肩を落とす。「政治を信じた自分が、ばかだったのか」

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 政治に気持ちをかき乱されたのは、やっとの思いで古里を離れた住民も同じだ。

 「許しがたい2年間だった」。茂木安定さん(76)は話す。水没予定地にある料理店を畳み、隣の群馬県中之条町に引っ越した。その2カ月後、政権交代とともに「建設中止」が発表された。

 「人生そのものだった店を、何のために明け渡したのか」。怒りがこみ上げた。計画が白紙に戻っても、店はすでに取り壊していた。中学を出て働き、32歳で持った郷土料理が自慢の店だった。

 「民主党は、住民の決断の重みを理解していなかった。住民の感情をこじらせただけの2年間だった」。茂木さんの店「ふるさと」があった場所には、ダム建設のための鉄筋コンクリート製の橋脚が立っている。

 国土交通省によると、八ッ場ダム計画の水没予定地には79年、340世帯が暮らしていた。今年3月までに、このうち314世帯が土地を国に売却した。【奥山はるな】

 ◇国交相の謝罪に知事ら万歳三唱


 
八ッ場ダムの「建設再開」を伝えた前田武志国交相(左)に万歳三唱する大沢正明・群馬県知事や高山欣也・長野原町長、町議会関係者ら=群馬県長野原町与喜屋の町山村開発センターで=2011年12月22日午後8時6分、喜屋武真之介撮影


 前田武志国土交通相は22日夜、群馬県長野原町を訪れ、大沢正明知事や高山欣也町長、ダム推進派の町民ら約50人に(八ッ場やんば)ダムの建設を再開すると伝えた。出席者は万歳三唱で歓迎し、前田国交相は深々と頭を下げた。

 前田国交相は冒頭、「この2年間、大変ご迷惑をかけ、つらい思いをさせた。60年近く、3代、4代にわたり、みなさんの生活を翻弄(ほんろう)し、ご迷惑をかけた。心からおわび申し上げます」と謝罪した。

 大沢知事は「この2年間、地元は先が見えなかった。報告を聞いて、どんなにほっとしているか、計り知れない」と歓迎。高山町長も「心から感謝している。これで希望が持てる」と語った。【奥山はるな】

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20111223k0000m040093000c.html