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猛暑と森林火災が続くオーストラリア。コアラ、カンガルーに続いて、オオコオモリの犠牲も相次ぐ。猛暑で衰弱、止まり木から次々と落下。特に赤ん坊の衰弱が激しい(RIEF)

2020-01-28 00:27:35

Bat1キャプチャ

 

 猛暑の影響で山火事が鎮火しないオーストラリアで、新たな犠牲者が続いている。希少動物のオオコウモリだ。メルボルンで生息地の公園で全体の15%に相当する4500匹が、止まり木から次々と落下して死んだ。南オーストラリア州のアデレードでは昨年11月から今年1月の間に数千匹のコオモリの赤ん坊が死んだ。10月に生まれた赤ん坊は全滅の懸念も出ているという。

 

 (写真は、猛暑で止まり木から落下、救助されたハイガシラオオコオモリの赤ん坊)

 

 昨年年初にも、猛暑の影響で、オオコオモリの脳が熱波で「過熱状態」となり、気を失ったコオモリたちが木々から次々と落下して命を落とす現象が世界に衝撃を与えた。https://rief-jp.org/ct12/75812

 

生息地の木の上で、暑さを避けようとして「スクラム状態」になっているオオコオモリ
生息地の木の上で、暑さを避けようとして「スクラム状態」になっているオオコオモリ

 

 今年は猛暑による熱波に加え、森林火災の猛威で、オオコオモリたちの赤ん坊への影響が大きいという。メルボルンでは昨年12月のクリスマス前に、最高気温43℃まで上昇、3万匹のハイガシラオオコウモリがねぐらとしているヤラ・ベンド公園では、クリスマスの3日間で集団の15%にあたる4500匹が死んだ。

 

 National Geographic誌によると、オーストラリアでは春に当たる9月と10月は、コウモリの出産時期。体長30cmほどのオオコウモリは、北で冬を越した後、一斉に同公園へ戻ってくる。今年もいつも通りの出産が相次いだが、その後に悲劇が発生、次々と木から落下して死亡し続けているという。

 

 ハイガシラオオコウモリは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで危急種(VU)に指定されている。南オーストラリア州のアデレードでも、年初には、ニューサウスウェールズ州のシドニー周辺の生息地でも、赤ん坊の大量死が見つかっている。

 

落ちたコオモリの死骸の撤去作業
落ちたコオモリの死骸の撤去作業

 

 研究者は今シーズンのオオコオモリの死亡は、猛暑に加えて、オーストラリア東海岸全域を襲った大規模森林火災の影響も加わっているとみている。特に「2019年生まれのコウモリを全滅させる恐れがある」と懸念している。今シーズン生まれの赤ん坊の80%は10月生まれ。まだ小さくて体力がついていないところへ、熱波と森林火災に見舞われたためだ。

 

 コオモリは夜に行動し、日中はねぐらの木にぶら下がって過ごす。しかし、猛暑続きで、午前8時ころには、ねぐらの中はすでにかなり暑苦しい。コウモリは翼をあおいで涼もうとするが、ずっとそうするこことで体力を消耗する。やがて脱水症状を起こす。

 

 水を求めて近くの川に駆け込もうにも、エネルギーを使うので、コオモリたちは我慢して木にぶら下がっていることが多い。ただ、一匹が涼しそうな木の幹を探して飛び立つと、コウモリには、互いの後についていく習性があるため、他のコウモリも群がって飛び立ち、「スクラムのように固まる」。このため、最初に飛び立ったコウモリは他の仲間に押しつぶされて落下する羽目に陥る。

 

脱水症状のコオモリを水分補給で救助しようとする研究者
脱水症状のコオモリを水分補給で救助しようとする研究者

 こうした大騒ぎが各生息地で展開されることから、公園の職員やボランティアたちは、混乱している群れを見つけると、ホースで水をかけて「スクラム化」したコウモリたちを引き離し、体の熱を下げ、喉の渇きを癒してやる。しかし、そうした人間によるサポートで助けられる個体は限られている。

 

 次々と落下して死亡するコオモリの死骸の山をかきわけて、ボランティアたちは、まだ生きている個体を救助し続けている。しかし、「一部のコウモリは救うことができたが、多くが手の中で死んでしまった」。救助に携わったボランティアたちは残念そうに語る。

 

 オーストラリアでオオコオモリが暑い日に死ぬのは珍しくない。1994年から2007年の間には、猛暑が原因で、約3万匹のハイガシラオオコウモリが死んだとの報告もある。しかし、今シーズンの特徴はコオモリの出産期の直後に猛暑に襲われたため、いつもより多くの赤ん坊のコウモリが犠牲になった点だ。

 

 自然界では自然淘汰が厳しい原則でもある。しかし、その自然による選別が、人為による温暖化の影響で加速化、過激化しているとすると、自然の選別自体がいびつ化し、動物たちが思いもかけない形で、絶滅の危機に瀕している可能性もある。

 

 オーストラリア全土で2019年5月に行われた調査では、ハイガシラオオコウモリの推定個体数は約58万9000匹。今のところは絶滅のレベルには至っていないようだ。しかし、赤ん坊の大量死は次世代の持続性に影響を与える可能性がある。温暖化の進行が、気候変動の激化を通じて生態系に悪影響を及ぼす事例の一つといえそうだ。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/010900016/