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原子力規制委、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の安全基準「適合」判断。「核燃料サイクル」事業の行き詰まり露呈にも「問題解決」は先送り(RIEF)

2020-05-14 08:01:03

gennen11キャプチャ

 

  原子力委員会は13日、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムやウランなどを取り出し、再び原発の燃料を製造するという「核燃料サイクル」計画の中核となる日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の安全対策が、「福島後」の新規制基準に適合するとの「審査書案」を了承した。本来ならば、これによって本格稼働に近づくはずだが、着工から27年の歳月と、約3兆円の資金を投じた今も、工事完成のメドは全く立っていない。「政府と電力会社」のどちらも責任を取らずに、幻想の「核燃料サイクル」の旗を掲げたまま、立ち尽くすかのようだ。

 

 (写真は、再処理工場の高レベル廃液ガラス固化建屋内)

 

 核燃料サイクル計画の中核と位置付けられる再処理工場の建設は1993年に着工した。しかし、それからこれまでに24回の延期と、建設費の積み増しが続けられてきた。建設費は当初の4倍に膨らんでいる。

 

 現在、原燃は2021年度前半の完成を目指すとしている。だが、設備の工事計画の審査はこれからまだまだ続く。また、肝心の使用済核燃料から取り出すプルトニウムを再処理(化学処理)で抽出して作り出すMOX(混合化合物)燃料への需要が減少している。「福島前」に54基あった稼働中原発で「福島後」に再稼働したのは9基。そのうちMOXを使えるのは4基のみ。コスト高のMOXへの需要は大幅に縮小しているのだ。

 

使用済み核燃料の再処理工程(日本原燃の説明)
使用済み核燃料の再処理工程(日本原燃の説明)

 

 MOX燃料だけを使うはずだった高速増殖原子炉もんじゅ(福井県)も廃炉となった。設計通りに機能せず、故障や不具合続きだった。一方で、再処理工場を強引に稼働させてプルトニウムを増産することに対しては、米国をはじめ、国際社会から警戒のまなざしが向けられている。余剰プルトニウムは原爆の原料になり得るためだ。「世界で唯一、原爆の犠牲者を多数出した日本が、密かに核武装を準備しているのでは」との憶測もある。

 

 前進も後退も、極めて微妙で厳しい判断を強いられるわけだ。こういう状況に直面すると、わが国政府がとる常套手段は「先送り」となる。実際、核燃料サイクルを所管する経済産業省・資源エネルギー庁はひたすら政策継続を掲げ、問題解決を先送りし続けてきた。その結果、核燃料サイクル全体でこれまで投じられた資金は約14兆円に上る。

 

 日本原燃は東電をはじめ全国の電力会社が出資する電力業界の会社だ。「使えない再処理工場」のコストは、我々消費者が支払う電力料金で負担されてきた。日本原燃が行き詰まったり、電力会社が負担しきれなくなると、政府が支える(国民の税金を使って)という暗黙の了解が背後にある。

 

 今回の規制委の審査は、東京電力の福島第一原発事故後に、各原発の耐震性や津波に対する強靭性の強化を求める新規制基準が定められたためである。各原発等と同様に、再処理工場も強化策を求められ、その対応力を評価した。原燃は耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)を最大加速度700ガルと想定、さらに再処理工場が海抜55mのところにあることから、東日本大震災クラスの津波が来ても影響を受けないとした。

 

ガラス溶融炉
再処理工程で生じる高濃度放射性物質を固定化するガラス溶融炉

 

 また再処理工場に特有のリスクとして、再処理の過程で発生する放射性濃度の高い溶液や廃液が蒸発し、放射性物質が周辺に拡散するような事故リスクに備えた対応としては、冷却設備や電源等を強化したと強調した。

 

 こうした対応に対して、13日に開いた規制委の会合では、5人の委員が重大事故対策などについて質問したが、最後に更田豊志委員長からの「調査結果に異存はないと考えてよいか」との問いかけに対して、特段の異論はなかったという。審査で問われたのは基準への適合性だから、事業の妥当性や将来性を問う必要はない、との判断だったのかもしれない。一方、原燃の増田尚宏社長は「審査書案が了承されたことは大きな前進。審査合格に向けて全力で取り組む」とコメントを出した。

 

 だが、本来は、専門家の委員たちに国民が期待しているのは、再処理工場が本当に必要なのかどうか、核燃料サイクル事業に「現実性」があるのか、国民の税金は無駄に使われているのではないか、という疑念を吟味することではなかったのか。また経営責任を負う原燃社長が答えるべきことは、完成を見込めない再処理工場にどのような事業性を想定しているのか、という経営判断ではなかったか。

 

 日本ではすでに国内外に約46㌧分のプルトニウムを保有している。国際社会からの懸念に対処するため、内閣府の原子力委員会は2018年に削減方針を決定し、使う分以上に取り出すことはできない、とした。これも「目先の疑念」をそらしただけだ。

 

 それでも政府は、再処理工場の建設方針を変えていない。だが現実には、MOXを使う原発は限られているので、六ケ所村の再処理工場が仮に完成してフル稼働すると年7㌧分のプルトニウムを取り出せるが、この政府方針の制約によって、稼働率を抑えざるを得ないのが状況だという。そうした矛盾を露呈させないためにも、建設はさらに遅らせたほうがいい、というのが現下の政府の判断のようだ。

 

 目下の新型コロナウイルス感染対策でも、感染者数を極力少なく見せるためにPCR検査を意図的に抑制して、問題を小さく見せようとしたのではないか、との疑念が国民の間に広がっている。「問題は解決せずに、先送りする」という習性が身に着いた利権と保身の政治家と官僚集団が、この国の安全性と将来性をさらに危うくしているように映る。

 

https://www.nsr.go.jp/procedure/public_comment/20200514_01.html

https://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/cycle/summary/process.html