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EUのサステナブルファイナンス・タクソノミーでの原発の扱い、正念場に。脱原発派と推進派で5対10の対立。中間派が仲裁できるか、あるいは独仏のハードネゴで決着か(RIEF)

2021-11-16 17:28:01

Berlin002キャプチャ

 

 EU加盟国が、サステナブルファイナンスのタクソノミーに原子力発電を盛り込むかどうかでの対立が激化している。年末に予定される欧州委員会のタクソノミー・クライテリアの委任法(Delegated Act)の最終決定に向け、フランス主導の原発推進10カ国とドイツ主導の脱原発5カ国が火花を散らし合っている。先週末には22年に脱原発を実現するドイツで「脱原発反対」のデモが仕掛けられるなどの騒ぎにもなっている。

 

 (写真は、ベルリンのブランデンブルク広場でデモを行うドイツの原発推進派)

 

 英国でCOP26が延長討議を行っていた先週末の13日。ドイツの首都ベルリンで「原発推進派」と称する活動家ら150人が、ドイツ政府の脱原発政策の停止を求める抗議行動を行い、ベルリン市民らを面食らわせた。

 

 欧州委員会が最終とりまとめに入っているタクソノミーのDA案では、天然ガスと原発の扱いが焦点となっている。天然ガスは石炭等よりCO2排出量は少ないものの、化石燃料であることに変わりはなく、新規のガス火力や集中暖房等への利用をどこまで抑えるかが論点だ。

 

150人の動員で、盛り上がりには欠けたようだが・・
150人の動員で、盛り上がりには欠けたようだが・・

 

 このうち原発は、使用済み核燃料の廃棄処理問題が解決していないことから、タクソノミーの基本原則の一つである「Do No Significant Harm(DNSH)」原則に反するとして、当初はタクソノミー案に入っていなかった。だが、原発は操業中にCO2を排出しない。この点をとらえて原発推進派が「原発こそクリーンエネルギー」と、タクソノミーへの盛り込みを画策している。

 

 脱原発政策は、EUの盟主でもあるドイツが、2011年の日本の東京電力福島第一原発事故後、従来の原発政策を転換して推進している。2022年までに全原発を停止することを法律で定めており、すでに稼働中の原発は残り6基。年内に3基を停止、来年中に最後の3基を停止する予定だ。

 

 そんなドイツの首都で「脱原発政策」の撤回を求めてデモを行った活動家のBjörn Peters氏は、メディアに対して「ドイツ人の56%は原発容認。反対しているのは34%に過ぎない」と指摘。脱原発政策の堅持を主張する現在の環境相代理のSvenja Schulze氏の退陣要求を繰り返すシュプレヒコールを続けた。

 

 退陣するメルケル氏や、政権を主導する社民党への批判ではなく、Schulze氏へ攻撃が集中したことには理由がある。先週中に、同氏が主導する形で、脱原発を掲げる5カ国が「タクソノミーへの原発盛り込みに反対」を主張する「脱原発連合」を結成したためだ。5カ国はドイツ、デンマーク、オーストリア、ポルトガル、ルクセンブルク。

 

 一方、原発大国のフランスを中心に、フィンランド、ポーランド、ハンガリー、チェコ、クロアチア、ブルガリア、ルーマニア、スロバキア、スロベニアの10カ国は、「原発はCO2排出量ゼロのクリーンエネルギー。原発こそ気候危機を解決するソリューションの一部だ」と主張。タクソノミーへの原発盛り込みを目指して、欧州委員会や閣僚理事会、欧州議会等への働きかけを強化している。https://rief-jp.org/ct8/118952

 

 数の上では5対10なので、原発推進派が有利な情勢だ。しかし、EUのリーダーであるドイツが脱原発政策のリーダーでもある。ドイツは脱原発政策の完成を間近に控えており、今さら自らの政策を否定する形で、タクソノミーでの原発容認を認めるとは思えない。ドイツの政党で産業界寄りとされる自由民主党(FDP、日本のLDPとは異なる)代表のChristian Lindnerも「原発維持は経済的にも現実的にも、あり得ない」と明言している。

 

 産業界も同様だ。大手電力会社E.ONのCEO、Leonhard Birnbaum氏は「ドイツで原発の停止が間もなく完了しようという段階で、原発が気候変動に貢献するという議論を展開するのには、戸惑うばかりだ。(議論としては)あまりに遅く、誰のためにもならない」と否定的だ。

 

 ドイツの政治、産業界の原発に対する認識は揺るぎがないように映る。2011年に福島原発事故を引き起こした当の日本で、政治や産業界が、「気候変動対策」の名のもとに、原発再稼働促進のシナリオを描き、小型原発開発に力を入れる旗を振り始めている姿とは対照的なようだ。

 

 政治決定を厳守するドイツと同産業界の姿勢にもかかわらず、「原発推進」のデモがこの段階で展開された背景として、原発推進10カ国側の“仕掛け”との見方も出ている。もっとも、デモの参加者は150人。前日に開かれた気候変動対策の強化を求める「Fridays for Future movement」の定期抗議活動には10万人規模。「取るに足りない」レベルだが、ドイツの足元で、他国が「不愉快なデモ」を仕掛けたとなると、穏やかではなくなる。

 

 懸念されるのは、両グループの対立が、EU統合の推進力に亀裂を生じさせるリスクだ。英国のEU離脱後、軸となる独仏の連携の重要性はむしろ増している。エネルギー政策で両国が対立構造を解決できないと、EUのサステナブルファイナンス戦略での先導力も、霧散しかねない。

 

 両グループに属していないイタリア、スペイン、スウェーデン、オランダ、ギリシャ等の他の12カ国が、亀裂を埋め合わせる妙案を絞り出して、EUの結束を強化できるか。だが、いずれの国々も、EU全体をとりまとめるリーダーシップには欠けると言わざるを得ない。結局、独仏が、それぞれの国内エネルギー政策と、EU全体としてのエネルギー政策のバランスをとった着地を描く以外にないようだ。着地がズレた場合の影響は小さくない。

                     (藤井良広)

https://www.bmu.de/en/topics/reports/report/joint-declaration-for-a-nuclear-free-eu-taxonomy

https://video.consilium.europa.eu/event/en/25028