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福島原発作業現場の労働者語る 「汚染水より深刻な使用済み核燃料の取り出し」(福島フクシマ・ブログ) 現場では「日本の歪んだ今」と「未来のリスク」がよく見える

2013-10-08 01:59:22

この中で溶けて歪んだ燃料棒が山積み。安全に取り出せる体制を築けるか・・
この中で溶けて歪んだ燃料棒が山積み。安全に取り出せる体制を築けるか・・
この中で溶けて歪んだ燃料棒が山積み。安全に取り出せる体制を築けるか・・


東京電力福島第一原発事故の収束作業の現場で働く草野光男さん(仮名 50代 いわき市)からお話を聞いた。草野さんは、事故以前から福島第一原発をはじめ全国の原発で長らく働いてきた。
草野さんは、汚染水問題などに関する国や東電の公式発表と、現場で作業する者の意識のかい離を指摘する。とくに4号機プールで11月中旬から始まる使用済み核燃料の取り出し作業について、その危険性を訴え、「クレーン操作に日本の運命がかかっている」と話す。また、避難住民が多く暮らすいわき市で、地域の中で生じている軋轢について、「かつての戦争のときと同じだ」と憂う。
(インタビューは、9月中旬、いわき市内)

 

 

オリンピック騒ぎに暗澹たる気持ち

――まず、安倍首相が国際オリンピック委員会で、「状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロックされている」と発言した件から伺います。

草野:私の周りでは、その話は話題にもなってないですね。多少でも現場でやっている人間なら、あんなの大嘘だってわかっていますから。

――7年後のオリンピック開催については。とくに福島で原発に直接かかわっている立場からすると。

草野:個人的には、嬉しいことは何もないですね。全然、関係のないことだから。オリンピックで日当があがるわけでもないですし。むしろ日当は下がる一方ですから。
国としては、全体が、オリンピックにシフトしていきますね。だから、福島はなかったものにしたいと思っているでしょう。放射能汚染はないし、もう福島も終わったということにして、後は、住民を帰してしまえば、それで終わりということでしょう。オリンピックが7年後、その前に全部帰すことが目標ですね。そうしたら、安全宣言ができるわけだし、その先、健康被害とか出てくるかも知れないけれど、そういうことは全部隠蔽ということになるのでしょう。

――オリンピックへの集中で、東北三県で作業員の不足も心配されます。

草野:東京に持っていかないと困るわけでしょう。そっちの期限の方が決まっているわけだから。だから、「構ってられないんだよ、東北なんかに。あとは、おまえらで勝手にやれよ」という感じでしょうね。
オリンピックの騒ぎを見ていると、暗澹たる気持ちになりますね。この国というのは。

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コントロールされているのは情報

――では、1F〔東電福島第一原発〕の状況について伺います。

草野:1Fの危なさは、作業員には、何のアナウンスもされてないですね。だから、一見平穏無事。
作業現場までバスに乗って行くんですが、そのバスの中に、1号機から4号機までそれぞれどういう状況かということを書いたものが貼ってあります。そこには、「全部大丈夫です」、「4号機のプールは、コンクリートで固めているから、倒れる心配はありません」とありますね。

――それはある種の安全神話ということでしょうか?

草野:そう、その通りですね。「コントロールされている」と安倍首相が言いましたが、それは、情報がコントロールされている、という意味だったんですね。

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――汚染水の情報もコントロールされていましたね。

草野:私の見方だけど、東京電力の方は、政府に泣きを入れていたと思うんです。「情報を抑えるのも、汚染水を抑えるのも、これ以上無理」と。でも、政府は「ちょっと待て。選挙控えているんだ。選挙終わったら何とかすっから」と。
まあ、本当は最初から漏れているんですけどね。だってコンクリートなんかガタガタに亀裂が入っているわけですから。
だけど、今いちばんの優先事項は、オリンピックのため、アベノミックスのために、安全神話で情報をコントロールすることなんです。人間の命なんか、どうでもいいという考え方があるとしか思えません。

今がチャンスとゼネコンが主役

――いま草野さんはどういう作業を?

草野:私の仕事は、地震や津波でやられた機器を点検し修理することです。大きな定期定検は、正常に稼働しているのを止めてやるものですが、それではなく、個々のモノの点検を常時やっています。事故後もそれは変わりません。全面マスク着用だけど、線量はそんなに高くありません。でも除染してないので、埃で内部被ばくするから、全面マスク着用になっています。

――汚染水対策や建屋内の作業などは?

草野:私たちは、その辺には、全然、関わっていません。はっきり言って、今、主役はゼネコンなんです。事故後は。
私たちみたいに、事故前から作業に入っていて、ある程度原子力の知識のある人間はあまり入れたくないようなんです。それでなのか、重要な部署には行っていません。
そういうわけで、ゼネコンがほとんどやっている状況です。1Fのところにビルができて、そこにゼネコンさんの看板がデカデカとあります。「がんばってます」みたいな感じでね。

――原発が稼働していたときは、ゼネコンは関係ないですね。

草野:稼働していたときは、ゼネコンは関係ないです。事故が起こって、ゼネコンにとっては、今がチャンスなんですね。
だから、今、立場的には、ゼネコンの方が上です。私たちは、ゼネコンの回りで余っている細々とした仕事をもらっているという感じです。もともと原子力に関わってきた者は、蚊帳の外に置かれていますね。
全国の原発に入っていてノウハウを持っているアトックスなんかも、入退管理とか、そういう小っちゃい仕事しか任せられていません。やっていることは雑用です。アトックスは、自前のホールボディカウンターも持ってるくらい、いろいろ技術力はあります。だから活躍していると思われるけど、でも雑用です。今なんか、仕事なくて下請けにまで仕事が回らない状態ですよ。
前に私がいた会社の人たちも、全国の原発の仕事に回っています。浜岡に行ったり、柏崎に行ったりです。

――どういうことでしょうか?

草野:ひとつは、今言ったように、原発のことをわかっている人間は入れたくないという感じがかなりあります。
それから、昔からの原発関係の会社に比べて、ゼネコンの方が請負の単価が安いという事情はあるでしょうね。
ゼネコンにとってはおいしい仕事です。降りて来た金を黙って自分たちのところで回せばいいわけだから。要するに公共事業ですから。名前は収束作業だとか言っていますが、単なる公共事業だと思っているんですよ、彼らは。
以前に大成や鹿島の下で仕事したことがあるから、あの人たちのやり方はわかります。スーパーゼネコンなんて名前は格好いいけど、ただのどんぶり勘定の会社です。田舎のその辺の会社と変わりません。
それから、もうひとつ言えば、当初で、みんな線量を使い切っているんで、現場に入れないということも大きいと思います。
私の会社でも、班長クラスは、線量が制限いっぱいいっぱい〔※〕なんで、誰も線量の高い現場に入れないんです。だから他の仕事をするしかないんです。

〔※電離則では、年間50ミリシーベルト以下かつ5年間で100ミリシーベルト以下。また、東電の管理基準で年間20ミリシーベルト以下だが、下請け会社の基準はそれに準じてまちまち〕

――それはいずれにせよ収束作業の現場として、かなり深刻なことでは?

草野:そう、かなり深刻ですね。一般の建設現場で働くような人たちが、会社としても、作業員としても、入ってきて、とりあえずやっているということですからね。

東電はただの管理会社

――ゼネコンが主役ということですが、そうすると、東京電力は何を?記者発表をしているのはいつも東京電力ですが。

草野:もともと東京電力には何の技術もありません。東京電力はただの管理会社なんです。書類を見てハンコを押すだけ。だから、管理監督なら、誰でもできます。東京電力の服さえ着ていれば。これまで現場を何とか支えてきたのは、各メーカーの技術屋さんと現場の下請けでなんです。
今、こういう状況になって、東京電力に何を訊いたって、「いや、あー、うーん」という感じですよ。もともと現場を知らないわけだから、何の発想も出てきません。そういう人たちに、「なんとかしろ」と言ってもどだい無理なんです。
結局、作業の質は、現場の人間が、どこまで真剣に仕事をやるかにかかっているわけです。

東電の態度は「復旧」

――事故の前と後で、東京電力の態度に変化はありますか?

草野:何も変わっていませんね。事故が起きたという点だけが違うだけで、後は全くいっしょです。
強いて言えば、事故直後の3~4カ月ぐらいでしょうか。東電さんがちょっとペコペコしていたのは。でも、そういうのは、すぐに「収束」して、もうとっくに元の横柄な態度に「復旧」しています。

――みんながそうですか?

草野:電力さんでも、心ある人はいますよ。でも、そういう人はみんな変な場所に回されてしまいます。私も知っている東京電力の担当者の人も、作業員にも良くしてくれたし、一所懸命だったし。でも今は雑用をやっています。

線量を食うと倦怠感

――給料や待遇はどうですか?

草野:一日で1万1千円です。うちはまだいい方で、もっと下の方になると、5次、6次とか、7次、8次とかもいるから、そうすると5~6千円ですね。

――それはもう福島の最低賃金ですね。危険手当とかは?

草野:周りで知ってる限り、もらってないですね。収束宣言〔2011年12月〕の前から危険手当という名目はなかったです。

――全面マスクという現場に行く場合でも?

草野:関係ないですね。だから、他の仕事をした方がいいんじゃないかと私も考えましたよ。除染にいっちゃおうかなあとか。そっちで1万5千円もらえるなら。全面マスクして、1万1千円はやってられないなと思いますよ。
でも、なんで除染に行かなかったかというと、除染では、放射線管理が杜撰ですからね。そうすると、ゆくゆくすごい損をしてしまいます。たとえ1万5千円だとしても、相当の内部被ばくをしているわけだから、除染をやった人はそのうちバタバタ行きますよ。
サージカルマスクをしても、あんなものでは効果は知れてますね。だいたい暑くてマスクなんかしていらないですし。
結局、除染の現場は、管理されていないから証拠が残らないわけです。私の場合、病気とかなんかあったときのために、証拠を残しておこうと思って、原発に残っているようなものですから。

――ホールボディカウンターの数値は?

草野:毎月、ホールボディカウンターを受けていますが、マックスでだいたい6,000cpm〔※〕です。事故前だったら、6,000なんて大変な騒ぎですね。事故前は800cpmぐらいでした。
でも、今、6,000という数字が出ているからと言って、何にも問題にはなりません。東電さんがやっているのは、「自分らは、ちゃんとやっていますよ」といういわばパフォーマンスです。作業員の健康を守るため、ではなくてね。企業を守るため、ただそれだけでしょう。現場作業員は使い捨てですから。

〔※〕〔cpm=カウント・パー・ミニット 1分あたりの放射線計測回数〕

――ご自身の健康状態については?

草野:個人的な感想ですけど、ある程度、線量を浴びた日は、つらい。だるいし、倦怠感が出ます。
それから、この間、内臓をやられています。医者は酒だと言いますがね。因果関係を証明はできないですから。

労災は自己責任

――被ばくの問題以外に、現場作業での労災は?

草野:そんなもの、昔から、現場でケガをしても、「自分の家でやったことにしてくれ」ということです。労災なんかまず出てこないですよ。よっぽど救急車を呼んだとかということにでもならない限り。

――中小の事故は無数にあるが、全部、隠ぺいと。

草野:隠ぺいというより、出ちゃうと大変なので、会社なり、本人なりが、自分から、「家で転んだ」という風に被ってしまうんです。自己規制、自己責任ということですね。
労災になると、労基〔労働基準監督署〕が入るでしょう。1週間とか1カ月とか現場が止まってしまいますね。そうなると迷惑がかかるから、「家で転んだ」ということに自分でするんです。ひどい話ですけど。

収束作業はまだ始まっていないような状況

――収束作業の全体の状況を伺います。汚染水対策というのは、前に進むというより、後退を強いられているような事態では?

草野:そうですね、いわば負け戦です。

――そうすると、現場は必死という感じですか?

草野:いや、それが、現場は意外と必死ではないんです。まともに考えるともう目も当てられないですから、日々をたんたんと過ごすしかないわけです。

――溶融した核燃料の取り出し開始を前倒しにするという工程表の発表〔今年6月〕もありましたが。

草野:あれは工程表ではなくて、全くの希望ですから。工程表と呼べる代物ではありません。
収束作業は、実質的には、まだ、始まってないという状況でしょう。
燃料が溶けたり、再臨界したりしないように、冷やすしかないわけです。それ以外は何もできない状態です。だから、周りを片づけたり、環境を整える作業をしているしかないのです。
ところが、そうしていたら、汚染水が管理できなくなって、水で冷やすというやり方自体が、限界にきていしまったわけです。
それから、溶けた核燃料を取り出すという話ですが、それ自体、ほとんど無理ではないでしょうか。鉛で固めてしまう方がまだいいのではないかと私は思っています。

――展望を描けるような状態ではないと。

草野:厳しいですね。深刻に考えていたら、やっていけないんで、与えられた仕事をこなすしかないですが。

――作業員の被ばくが問題です。

草野:そう、例えば、タンク一個をばらすのに一週間かかっていますね。急いでも。組み立てるときよりはるかに時間がかかっています。それはものすごく汚染しているからです。作業そのものが難しいのではなく、線量の問題があるわけです。
他所から見ている人は、「汚染水、許せない」「早くやれ」と言いますが、実際にやっているのは、東電ではなくて、作業員なのです。
それが原発というものです。昔から。格好いいのは中操〔※〕だけです。よく資料映像などで、原発はこんなにハイテクでクリーンなんだと、中操の様子を見せたりしますが。でも、あの裏に行ったら、配線一本一本、配管の一つひとつを一所懸命つないでいる作業員がいるのです。もう、究極のアナログ、肉体労働ですよ、原発は。

〔※中央操作室 原発を運転する中心部。中央制御室とも〕

4号機のクレーン操作に日本の運命が

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――4号機のプールにある使用済み核燃料の取り出しを11月中旬から開始するとしていますが。

〔4号機プールには使用済み核燃料1331体と未使用の核燃料202体が保管されている。そこに広島型原爆で約1万4000発分の放射性物質(セシウム137換算)が含まれているという。東京電力は、2014年末まで作業は続くとしている。その後、2015年9月頃から、隣りの3号機プールの使用済み核燃料の取り出しを目指すとしている〕

草野:これは、リスクのある作業です。汚染水のレベルではないですよ。汚染水はまだ流れているだけですから。それ自身がすぐに何かを起こすわけではない。海に溜まっていくだけです。それはそれでのちのち深刻な問題なのですが。
だけど4号機プールの使用済み核燃料は、そもそも事故のとき、アメリカをはじめ、全世界が震撼していた問題です。福島だけじゃなくて東京が飛ぶかもしれないと本気で危惧されたものです。
だから、失敗が許されないのです。

――汚染水タンクの問題が明るみに出るまでは、やはり安全神話があって、そういう基本的なレベルでの破綻や失敗はないだろうと思われていましたが。

草野:4号機の作業で、タンクのときと同じレベルのミスや技術上の問題が起こったとき、汚染水のように「漏れてました」という具合では済まされませんね。起こることは、そういう比ではないですから。
水の中でキャスク〔特殊な容器〕に入れて、密閉して釣り出すというのですが、果たしてうまく行くでしょうか。プールはガレキで埋まっているし、燃料集合体だって壊れているかもしれません。
水の中にあるうちは、まだいいのです。遮蔽効果があるからですね。釣り上げて、外に出したときが危険です。例えば、この間のようにクレーンが倒れたりするわけですよ〔※〕。そういうことが起こって核燃料が露出してしまったら。もう、近くにいる人間は即死するぐらいの線量です。一気に命の危険にさらされます。

〔※9月5日に発生。3号機のクレーンのアームが中央付近から折れ曲がった事故〕

――さらに地震や津波の再来や竜巻の襲来ということも考えられますね。

草野:そう。地震や何かで、冷却システムが故障したり、プールにヒビが入って水がなくなるということだって、可能性としてはあります。もし、水がなくなったら、核燃料がむき出しになって、温度がどんどん上がり、大量の放射性物質がまき散らされてしまいます。
そうなったら、作業員も、もう現場から退避せざるを得なくなります。あるいは決死隊になってしまいます。それが、チェルノブイリで起こったことでしょう。東京まで避難になります。

――使用済み核燃料の取り出し作業が1~4号機全部で10年ぐらい続くとしていますが。

草野:気の遠くなる作業です。その間、一回の失敗もないなんて、この間起こっていることを見ていたら、難しいでしょう。また、10年の間、地震も津波も竜巻もないという保証もありません。

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(事故後の4号機プール内の画像)

――作業員の確保の問題もあります。

草野:そうですね。個人的には、これだけのクレーン作業を扱える技術者が集まるだろうかと思っています。
遠隔操作はできないでしょう。この間のプールのガレキ撤去作業で、1日の被ばくが2ミリシーベルトとかいっていますね。すごい被ばくです。線量の高いところに、クレーンで行かなければなりません。作業時間が限られます。そうすると、ものすごい人数がかかるわけです。しかも技術がないといけません。
だから、作業員の確保というところで、限界にぶつかるかも知れないと私は思っています。

――深刻な危機と隣り合わせで進むわけですね。

草野:そうですよ。だから、オリンピックだとかと言って、浮かれている場合ではないわけです。4号機で、釣り上げて一本ダメにしたら、もうそれで終わりになってしまう。クレーンの操作に、日本の運命がかかっている。そう言っても過言はありません。その間に地震が来ないことを神に祈るしかないのです。非科学的ですけど。
でも、皆さん、祈りませんね。アベノミックスで景気がよくなるかどうかなんてことしか話題にしていないですね。

――何が必要でしょうか?

草野:不発弾を処理するとき、半径何メートルって住民を避難させてからやるでしょう。せめて、子どもを避難させるとか。そこから行けば、すべての答えが出ると思うんですが。でも、そんなことは誰も言わないですね。
とにかく、子どもはいったん逃げてほしいです。私は、最後までいるつもりです。どのくらいまで見届けられるかというのはありますけど。

被災地で見える住民の分断

――ところで、いわき市にいると、いろいろな問題が見えてくると思いますが。

草野:そうですね、まず、国民をバラバラにする政策ですね。

――具体的にはどういうことですか?

草野:例えば、東電の賠償をもらっている人ともらっていない人との差がすごいです。
避難区域で、東電関係の会社をやってた社長さんなんか、売上げの何十%がもらえて、さらにあれやこれやですごい額になっていると言います。そういう人たちは、被害を受けても余裕綽々です。でも、他方で、何にも知らないお年寄りなどは、賠償の請求の仕方もわからないという状態です。農家の人たちだって、途方に暮れている状態です。でも、外から見たら、全部、同じように賠償をもらっていると見られています。
いわきでは、たしかに新車が増えているし、道も混みますね。2万4千人ぐらいでしょうか、避難してきている人は。ゴミの分別の仕方とかわかんなくて、そういう事細かなことから、いわき市民との間で軋轢が生まれています。

――しかし、本当に文句を言わなければならない相手はそこではないと。

草野:そうなんです。そういう風にしたのは誰なんだということが問題なのですが、それをみんな忘れているわけです。
身内で争っている場合ではないでしょう。どうしてこうなってんだ。こういう状況にさせたのは誰なのか。そういう東電を野放しにしている国ってなんなのって。そこを見失っているように思います。

――参院選では福島でも多くの人が自民党に投票しました。

草野:個人的な見方だけど、未だに、面倒を見てもらっているという感覚があるのではないでしょうか。被害者なんだけど、賠償なり、復興なりで、面倒を見てもらっているという感覚です。もともと自民党が原発をやってきたことは分かっているはずなのに、目先のことしか見えていないんです。

――政治の次元ではなく、もう少し根本的なところで変化が必要だということですね。

草野:簡単には変わらないでしょうね。変われるなら、こんなに原発は出来てなかったでしょうから。原発を持って来れば豊かになるとか、若い人が戻るとか言ってきましたが、結局この様です。なのに、未だに、原発がダメなら次は何をもってくるかといった発想になってしまう。再生可能エネルギーを持ってきたとしても、その発想のままでは変わらないんです。そういう発想をしているうちは、田舎はダメでしょうね。儲けを持っていくのは結局、ゼネコンや大企業であり都会なのですから。

――建設過程で一時的に景気がよくなるだけですね。

草野:そう、終わったら何もありません。
原発ができたときも、お蔭で出稼ぎがなくなったと言っていました。たしかに仕事があるときはいいけれども、仕事がないときは、結局、みんな全国の原発を回っているのです。私も、1年のうち半分も家にいませんでした。定検、定検で回っていますから。これは、形を変えた出稼ぎではないのでしょうかね。

――原発問題を考えるとき、都会と地方という問題に目を向ける必要があるということですね。

草野:都会の人は、原発がいいとか悪いとかということを、一刀両断できますね。単に電力を消費している側ですから。しがらみもないでしょう。だから反対するのも簡単です。
でも福島など原発のある地域ではそうは行かないのです。その感覚というのはなかなか説明しても分かってもらえないのですが、そこが一番の問題なのです。
家族や親戚の中に、東電の社員はいるはし、下請けの社員もいる。高校で成績いいのは東電で、悪い奴は下請けで。じいちゃん、ばあちゃんも、畑や漁のないときは原発に働きに行く。そういう具合ですから。
本当に恐ろしいですね。原発による丸抱えです。田舎の弱みに付け込んでいるという感じですね。

あの時代といっしょ

――「復興に向かっているんだから、健康被害だとか、東電の責任とか、国の責任とか、そういうことは言うな」という空気もありますね。

草野:私の友だちが、子どもいるから心配で、ある施設に行って、「放射性物質の検査はどうなっているんですか」って聞いたら、その施設の検査が十分でなかったらしいのです。そこで、その人が、フェイスブックにそのことを書いたのですが、そうしたら、「そんなこと言ってんじゃねえ」と、メッセージが送られて来て、脅されたという話がありました。
いじめの構造と一緒で、声の大きい連中の仲間に混ざらないと、自分に被害が及ぶという恐怖感があります。だから、とりあえず強い方に混ざっておくということになります。それがいやだったら、もう何も言わないでおくしかありません。疑問や危機感をもっている人にものを言わせない力が働いていると思います。
あの時代といっしょですよ。かつて戦争のとき、戦争反対と言えなかったでしょう。終わってから、「自分は、反対だった」と言った人はそれなりにいましたが、それでは遅かったわけです。
いまそれと同じ状況じゃないですかね。本当に恐ろしい。ああ、この構造って変わってないなと思います。 (了)

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