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遠い「原発復権」、再稼働展望は7基だけ。全体の6割に不透明要因。9基は困難(Reuters)

2015-09-01 18:09:45

genpatsusaikadouキャプチャ

[東京 1日 ロイター] – 全国で停止中の原発42基のうち7基は再稼働が展望できるが、6割に当たる26基は不透明要因を抱え、9基は困難──。

ロイターが原子力規制委員会の審査状況に加え、地元関係者や電力会社、エネルギー専門家に取材した結果、今後の再稼働展望が依然として厳しい状況が浮き彫りになった。

8月11日に九州電力(9508.T)川内原発1号が再稼働し、約2年間続いた「原発ゼロ」の状況は終わったものの、政府と電力会社が狙う「原発復権」への動きは、極めて緩慢なペースが長期化しそうだ。

<規制委審査、地元同意、司法がハードルに>

原発再稼働には、1)原子力規制委員会の審査、2)地元同意、3)運転差し止め訴訟など司法判断──という3つのハードルがある。3つの関門のうち、ひとつでもクリアできなければ、再稼働は難しい。

ロイターは、再稼働した九州電力川内1号を除く停止中の原子炉42基の再稼働の可能性について、各課題の現状や今後の展望を分析し、「解決済み」「問題少ない」「不透明」「困難」の4つに分けて、経済性など他の要因も加味して評価した。

その結果、川内2号や四国電力(9507.T)伊方3号など7基は「有力」、運転禁止の仮処分を裁判所に命じられた関西電力(9503.T)高浜3、4号や、地元知事の姿勢が厳しい東京電力(9501.T)柏崎刈羽など26基は「不透明」、原子炉直下に活断層がある可能性が指摘されている日本原子力発電敦賀2号や北陸電力(9505.T)志賀1号、東電福島第2など9基は「困難」といえる状況にあることが分かった。

<先行の加圧水型12基、審査合格が視野>

原発の新規制基準適合性審査には15原発25基が申請済みで、合格と判定されたのが川内1、2号、高浜3、4号、伊方3号の5基。また、関電大飯3、4号と九電玄海3、4号は審査の中で最大の課題だった「基準地震動」(最大の地震の揺れ想定)が了承されており、いずれ合格判定に至るとみられる。

北海道電力(9509.T)泊1─3号は、立地する積丹半島西岸の地震リスクに関する同社の主張が規制委に大筋認められた。北電は「積丹に関する議論がほぼ決着したのは大きい」(関係者)との受け止めだ。

高浜3、4号と関電大飯3、4号の再稼働は司法判断が鍵。今年4月、福井地裁が高浜3、4号の稼働停止を命じる仮処分を出したことで関電が異議を申し立て、同地裁で審理中だ。停止を命じた樋口英明裁判長に代わり、林潤裁判長が審理を担当。住民側弁護士によると高浜3、4号と大飯3、4号について実質的に合同で審理が進行しており、11月までに3回の審尋が予定されている。

<沸騰水型は地元同意が課題>

ロイターが再稼働「有力」と評価した7基はいずれも加圧水型。東電福島第1と同じ沸騰水型は8原発10基が審査を申請したが、基準地震動など主要な審査項目で了承を得た事例はない。規制委は8月6日、柏崎刈羽6、7号に集中して審査を進める方針を示した。

沸騰水型の多くは地元同意や世論が課題といえる。柏崎刈羽がある新潟県の泉田裕彦知事は「福島原発事故の検証と総括」の必要性を強調。重大事故を起こした東電による再稼働には、世論の強い批判も予想される。

日本経団連のシンクタンク「21世紀政策研究所」の澤昭裕・研究主幹は「泉田知事の厳しい発言に対し、東電が事故原因を総括し地元合意が取れれば他の沸騰水型も合意が取りやすくなる」と指摘する。

大規模な東海地震の想定震源域に位置する浜岡原発については、地元静岡県の川勝平太知事が「住民が意見を言う機会を持つべき」(今年6月の記者会見)と発言、県民世論を重視する考えだ。

<40年超運転は認められるか>

原発の運転期間は原則40年に制限されている一方で、1回に限り最長20年間の延長を認めているが、古い原発は「燃えにくいケーブル」を敷設していないなど、課題を抱える。総延長1000キロメートル超のケーブルの入れ替えは困難で、代替策が認められるかどうかが焦点だ。

審査申請済みの原発のうち、燃えにくいケーブルをまだ設置していないのは高浜1、2号、関電美浜3号、日本原電東海第二の4基。関電は高浜1、2号について「防火シート」で包む代替策を提案しており、規制委が審査で同提案を認めるかどうか焦点だ。規制委の田中俊一委員長は、代替策の可否について「審査をしている中で、予断をもった判断は言えない」(8月19日の記者会見)としている。

総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の小委員会に参加する東京理科大学大学院の橘川武郎教授は、停止状態にある42基に加え、建設中の電源開発(9513.T)大間原発など新設炉を加えると、「再稼働は最終的に30基前後」との見通しを示した上で、「再稼働はスローなペースで進むだろう」と指摘している。

<原発再稼働の可能性評価>

評価: A有力  B不透明  C困難

課題: ◎解決  ○少ない  ▲不透明 X困難

炉型: P(加圧水型) B(沸騰水型)

●再稼動開始

川内1(P 九州)

●再稼動申請中

         規制委審査 地元同意 訴訟リスク 評価

川内2         ◎    ◎    ○    A

高浜3(P 関西)   ◎    ○    ▲    B

高浜4         ◎    ○    ▲    B

伊方3(P 四国)   ◎    ○    ○    A

玄海3(P 九州)   ○    ○    ○    A

玄海4         ○    ○    ○    A

大飯3(P 関西)   ○    ○    ▲    B

大飯4         ○    ○    ▲    B

泊1 (P 北海道)  ○    ○    ○    A

泊2          ○    ○    ○    A

泊3          ○    ○    ○    A

柏崎刈羽6(B 東京) ○    ▲    ○    B

柏崎刈羽7       ○    ▲    ○    B

島根2(B 中国)   ○    ▲    ○    B

浜岡4(B 中部)   ▲    ▲    ▲    B

女川2(B 東北)   ○    ▲    ○    B

東通(B 東北)    ▲    ○    ○    B

東海第二(B 日本原電)▲    ○    ○    B

志賀2(B 北陸)   ▲    ○    ▲    B

美浜3(P 関西)   ▲    ○    ▲    B

高浜1         ▲    ○    ▲    B

高浜2         ▲    ○    ▲    B

浜岡3         ▲    ▲    ▲    B

大間(B 電源開発)  ○    ○    ▲    B

●未申請

浜岡5         ▲    ▲    ▲    B

敦賀2(P 日本原電) X    ▲    ▲    C

大飯1         ▲    ▲    ▲    B

大飯2         ▲    ▲    ▲    B

伊方1         ▲    ▲    ○    C

伊方2         ▲    ▲    ○     C

玄海2         ▲    ▲    ○     C

女川1         ▲    ▲    ○     B

女川3         ▲    ▲    ○     B

福島第二(B 東京)  ▲    X    X    C

(1─4)

柏崎刈羽        ▲    ▲    ▲    B

(1─5)

志賀1         X    ▲    ▲    C

島根3(建設中)    ○    ▲    ○    B

*建設中の大間、島根3の運転開始は再稼働ではない。

*原子力規制委員会の審査状況と地元関係者や電力会社、エネルギー専門家への取材にもとづいて評価。

*表のスタイルを修正しました。

 

(浜田健太郎 編集:北松克朗)

http://jp.reuters.com/article/2015/09/01/nuclear-plant-idJPKCN0R12DO20150901?sp=true