HOME13 原発 |電力各社の原発安全対策費用、合計で従来想定の約5.3倍の4兆8000億円(各社合計)に増大。関電が最大で1兆円突破。「原発は安い」を前提とした政府のエネルギー政策にも影響(各紙) |

電力各社の原発安全対策費用、合計で従来想定の約5.3倍の4兆8000億円(各社合計)に増大。関電が最大で1兆円突破。「原発は安い」を前提とした政府のエネルギー政策にも影響(各紙)

2019-07-09 12:22:19

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  各紙の報道によると、原子力発電所の安全対策費が電力会社の想定を上回り拡大している。原子力規制委員会が規制を強化して以来、東京電力などの10電力と電源開発(Jパワー)合計額は、5.3倍の約4兆8000億円に膨らんでいる。最も多い関西電力は1兆円を突破している。原発を発電コストの低い安定電源と位置づけ、東電福島第一原発事故後も、再稼働を推進してきた政府のエネルギー政策のあり方も改めて問われそうだ。

 (写真は、東電福島第一原発事故時の模様)

 

 日本経済新聞が報じた。原子力規制委は、2011年3月の東電福島第一原発事故を受け、13年7月に安全基準を見直し、厳格化した。その結果、規制前の安全対策費は13年1月時点で各社合計約9000億円だったが、日本経済新聞が沖縄を除く大手9電力と、日本原子力発電、原発建設計画があるJパワーの合計11社に聞き取りしたところ、今年6月末時点で対策の総額は約4兆8000億円に膨らんでいるという。

 各社別では、原発依存度が高い関電が13年時点に比べて約3.6倍の約1兆250億円になる。同社はテロ対策施設の完成が遅れており、安全対策費はさらに増加する可能性がある。九州電力は川内原発(鹿児島県)と玄海原発(佐賀県)でのテロ対策施設の建設費で約4600億円を見込む。対策費は関電に次ぐ9000億円台となる。

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 新基準では、地震の揺れや津波の高さの想定値を高く設定することで、原発設備の配管の耐震補強などの必要が増えたほか、新たに追加されたテロ対策施設の対応費も増大した。テロリストが原発に対して航空機等を衝突させても大丈夫なように、遠隔操作で原子炉を冷やす設備の設置が求められている。

 これまでわが国の原発の発電コストは、2015年に政府が公表したデータでは、30年時点の発電コストで1kWh当たり10.3円以上とされ、石炭火力(同12.9円)、太陽光(同12.5~16.4円)に比べ安く見積もられていた。しかし、新規の原発1基当たりの安全対策費が1000億円増えると、全体のコストも1円高くなる計算という。「原発は安い」という政府の説明は「幻想」だったことになる。

 さらに海外では、太陽光や風力の発電コストが1kWh当たり10円を割り込み、数円レベルに下がっているところが増えている。すでに米国でも、新規原発の建設よりも、再エネ発電、あるいはガス火力発電に切り替える動きが一般的になっている。

 政府は太陽光発電などの再エネ発電に適用している固定価格買取制度(FIT)の買い取り価格が電気料金に上乗せしていることを重視し、買い取り価格の引き下げ、同制度の見直しを進めてきたが、電力各社が原発の安全対策に投じる追加費用も、結果的に電気料金の引き上げにつながることになる。

 また規制委は8日、「未知の活断層」への対策強化を求める報告書案をまとめた。現状では、原発周辺に目立った活断層がないと判断された場合は、耐震対策等で特別な対応は求められない。だが今回の報告書は、最新の知見を元に未知の地震への備えの強化を求める姿勢で、従来より多くの地震データを使う評価方法に改めることを求めている。このため、九州電力の玄海原発(佐賀県)と川内原発(鹿児島県)が安全対策の強化が必要とみられる。

 政府のエネルギー基本計画では、2030年時点で、電源構成に占める原発比率を20~22%としている。現状は、17年度の比率が3.1%。政府も電力会社も、停止中の原発の再稼働を進める方針を変えていないが、安全対策の増大は、電力会社の収益や、電力料金の引き上げ等に影響を及ぼしそうだ。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190709&ng=DGKKZO47113930Y9A700C1EE8000