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原田義昭前環境相の「東電福島の汚染処理水は(海洋)放出しか方法無し」発言の背景は(RIEF)

2019-09-12 00:07:22

harada1キャプチャ

 

 原田義昭前環境相が、退任会見で東京電力福島第一原発の放射性物質トリチウムを含んだ汚染処理水について、「所管を外れるが、思い切って放出して希釈するしか方法がないと思っている」と述べ、内外で波紋を呼んでいる。環境大臣としてほとんど目を引く活動はせず、退任あいさつだけが話題になった原田さんとは――。

 

 福岡県出身、東大法学部卒。一時、八幡製製鐵(現日本製鉄)に勤務後、通産省(現経済産業省)に入り、中小企業庁参事官などを務める。政界に転出、1990年に衆院当選、以後、連続当選し、昨年10月の内閣改造で環境相として初入閣した。

 

 政治家として30年近く議員バッチをつけてきただけに、いろんな活動をされてきたのだろうが、ネットを見る限り、話題になったことは限られる。2004年に選挙公報などで「米タフツ大政治外交大学院卒業」の経歴詐称で、文部科学副相を辞任したこと。環境相在任中に、詐欺で有罪判決を受けた人物と太陽光発電に絡むビジネスを行っていた、と週刊誌に書かれたことなどだ。

 

原田氏の発言を報じた新聞の紹介(原田氏のFacebookより)
原田氏の発言を報じた新聞の紹介(原田氏のFacebookより)

 

 環境相就任前に、南京大虐殺に関して再三、「間違いなく捏造だと思っています」などと明言していたことも知られている。大臣に就任後の昨年10月、この点を記者会見で質問された。原田氏は「今内閣の閣僚一員としておりますので、所管外のことを含めて独自の見解を述べる立場にない」と発言を避けている。

 

 今回の汚染処理水海洋投棄発電については、自らフェーズブックで発言を再録している。「処理水の問題についてはあえて『海洋放出、稀釈の方法しか解決策は残されていない。漁業者の被害、風評被害、韓国などの国際非難・・・など大変な困難は待ち受けているが、しかし、われわれは何処かで結論を出さなければならない』と話した」https://www.facebook.com/Harada4192/

 

 「だれかが言わなければならない。この思いが多分私を追い立てた。汚染水対策は、厳密には環境大臣の所管でなく経産省の所管だ。しかし原発問題は国家国民にとって決定的に重要なもの」と発言の決意を強調している。

 

 南京大虐殺に関しては「所管外」として自らの発言の説明を避けた原田氏だが、ここではあえて「所管外」を超えて発言したことになる。そうした決意があるならば、本来は、環境相在任中に政権内部で問題提起をして、政府としての対応を求めるべきだったのではないか。

 

 原田氏は続けて「国益のためには誰かが言わずに、この大問題をズルズルと引っ張るわけにはいかない」と、退任時に発言した趣旨を説明した。自らが国務大臣にある時には「所管外」といい、退任時に「所管外」に言及するのは、ご都合主義のようにも聞こえる。

 

原子力災害相も担当した
原子力防災相も担当した

 

 単に「最後の言いっ放し」の「ご都合」だけでもなさそうだ。新環境相に就いた小泉進次郎氏が、福島原発問題を引き継ぐ。原子力防災相も兼務する。小泉氏の父親の元首相、小泉純一郎氏は、脱原発を政治課題に掲げて全国を行脚している。

 

 原子力政策を元の様に復権させたい原子力ムラの面々にとっては、元首相のブレない発言と行動は「目の上のタンコブ」でもある。ただ、進次郎氏は父親の脱原発活動とは一線を引いている。

 

 そこで、汚染処理水の海洋放出問題を含め、原子力再生にかける原子力ムラの諸課題の処理を、進次郎氏の責任とすることで、元首相の行動を封じたいとの思いが、安倍政権、あるいは原子力ムラのどこかにあるのかもしれない。

 

 福島第一原発敷地内に設置された保管用タンクは現在、900基を超えている。東電は2022年夏ごろに満杯になるとしている。汚染処理水放出の論理は、他の原発でもトリチウム含有の処理水が放出されているほか、薄めて海に放出すれば膨大な海洋中に拡散されて希薄化するとの主張だ。

 

 だが、事故原発での処理と、稼働中原発の処理を同列に論じていいのだろうか。タンクが900基を超えて、保管場所が限られてきたからという理由だけで、事故処理の負債を他の国と接する海洋に委ねていいのだろうか。福島第一の保管場所が限られてくれば、東電が所有する他の敷地等に保管すればいいのではないだろうか。

 

 海洋が無限の希釈力を持っているわけではないことは、環境省が遅ればせに対応し始めた海洋プラスチックごみ問題をみれば明白である。世界中の海洋にマイクロプラスチックを蔓延させてしまったのは、「海は無限」と勝手に思い込んだ人類の安易な考えの結果だ。

 

 福島第一原発の廃炉処理は東電のシナリオ通りに進行するかどうかは依然、不明だ。破壊された原子炉の内部では、どっぶりと溶けた核燃料のデブリが、今も、高濃度の放射線を放出し続けている。汚染水は今後も際限なく湧き出てくる。廃炉処理を急ぐ以外に逃げ道はない。

                                                             (藤井良広)