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三菱UFJ信託銀行のバーチャルな「サステナブル投資研究所」の所長は、英国のESGエキスパートのヴェリーナ・カラジョヴァさん(RIEF)

2021-12-01 16:25:32

Carabajyoキャプチャ

 

 三菱UFJ信託銀行は今年、サステナブル投資に関する中立的な情報分析を提供するバーチャル研究機関の「MUFGファースト・センティア サステナブル投資研究所」を設立した。その所長は、MSCIやMoody’s等でESGリサーチやインフラファイナンス等を担当してきたヴェリーナ・カラジョヴァ(Velina Karadzhova)さん。すでに第一弾の研究成果として、マイクロプラスチック汚染に関するレポートを公表しており、「日本の投資業界が産業界の『ESG Journey』を進めるうえで、少しでも貢献したい」としている。

 

 同研究所は三菱UFJ信託傘下の資産運用会社、ファースト・センティア・インベスターズ(FSI)と協働で今年5月に設立した。従来の日本の金融機関の研究所と異なるのは、物理的なオフィスはどこにもないバーチャル研究機関である点だ。

 

 厳密には、FSIの当初からの活動拠点であるオーストラリアの金融当局の監督下にある形だが、活動自体はFSIの一サイトでしかない。研究スタッフも、テーマごとに日英豪等の各拠点の投資チームから専門家を随時、兼任で集める方式をとるため、専任の所属者は所長のカラジョヴァさん一人。

 

 もう一つの特徴は、研究所自体、三菱UFJ信託からも、FSIからも独立して運営される点だ。企業直属の研究所はどうしても当該企業の影響を反映した活動が中心になりがち。これに対して、同研究所は、リサーチ情報の中立性を軸に据え、外部有識者によるアドバイザリー・ボードや運営委員会等のガバナンス体制を整備。独立性を担保している。研究成果は、Webサイト等を通じて全世界の投資家に発信する。

 

 新型コロナウイルスの影響もあるが、カラジョヴァさん自身、「残念ながら、日本にはまだ行ったことがない」。ロンドンのロンドンスクールオブエコノミクス&ポリティカルサイエンス(LSE)で会計学を専攻。監査法人のPwCを皮切りに、Moody’sやMSCIのロンドン拠点でESGやサステナビリティ分野の調査分析を重ねてきた才媛だ。

 

 日本の金融機関の“バーチャル研究所”の所長に応募した理由について、カラジョヴァさんは「FSIも三菱UFJ信託も、多くの投資チームを抱える。だが、この研究所はそれらのチームから独立しており、調査トピックスを自ら選定し、より広い投資家の視点と関連性を踏まえて検討することができる。この点に興味を持った」と述べている。

 

 研究所のバーチャル性と独立性――。ESGを軸に多様に展開するサステナビリティの世界を捉えるには、この枠組みは意外とフィットするかもしれない。今後の運営方針は、「サステナブルな領域の中でも特にまだ十分な研究がされていないテーマを中心に研究を進めたい。我々が対象とするテーマに、多くの人々を巻き込んで、さらなる議論や関心を集め、それらの問題解決に一歩でも近づきたい」。

 

 カラジョヴァさんにサステナブルファイナンスの現在の評価と今後の展開についても聞いた。

 

 「社会全体でサステナブルファイナスへの関心が高まっていることは、大変勇気づけられる。投資家や政策当局の目が、社会全体にとって差し迫った問題に、より注意が向けられることにつながる。すぐに解決は難しくても、長期的には社会、環境、そして投資の成果にも大きな影響を与える可能性がある」

 

「一方で、潜在的な悪影響は長期的なものが多いが、投資の意思決定は短期からせいぜい中期的な時間軸になり、タイミングが必ずしも一致しない問題がある。このため政策当局や投資家の反応は遅れがちになる。ただ最近は投資の決定がパフォーマンスのみから、より広いポジティブな影響も考慮する方向にシフトしており、心強い」

 

 コロナ禍は依然、続くため、カラジョヴァさんが日本の研究スタッフと対面で議論する機会のメドは立っていない。しかし、「この研究プロジェクトの一環として、ぜひ、近いうちに日本を訪れ、日本の文化や歴史等も学びたい」と語る。すべてがバーチャルというわけにはいかないのも確かだ。

                   (藤井良広)

https://www.mufg-firstsentier-sustainability.jp/

https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/210511_1.pdf