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INPEXの小田原治氏。同社を退社し、自然系クレジット評価のスタートアップ企業に転身。みずほ時代以来、一貫して「環境金融」分野の最前線で活躍(RIEF)

2025-01-01 18:29:37

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 みずほフィナンシャルグループから転じて、エネルギー大手INPEXで気候・環境対応等を担当してきた小田原治さんが、同社を退社、自然保全系のカーボンクレジット評価を担うスタートアップ企業に移った。小田原さんは、みずほ時代には、エクエーター原則に同行が日本初で参加する原動力となり、その後のメガバンクの同原則署名を先導したわが国の環境金融分野の「第一世代」として知られる。INPEXでも天然ガス開発等に伴う自然保全と地域住民への配慮等で尽力してきた。新たな職場は、若い世代が中心のスタートアップ企業で、同氏の経験とネットワークが生かされそうだ。

 

 小田原さんにとっての3つ目の職場は、「サステナクラフト社」(東京)。2021年に立ち上がった自然保全系のカーボンクレジットの評価事業等を担うスタートアップ企業だ。同社の特徴は、熱帯雨林等の自然生態系を全体的にとらえる衛星リモートセンシングの技術を軸に、因果推論技術等を組み合わせて、クレジット価値の評価を担う点にあるという。

 

 脱炭素化が本格化する中で、クレジットの存在感が高まっているが、特に自然系クレジットの「確からしさ」の評価は大きな課題といえる。同社は、データサイエンスやアルゴリズム開発等の専門家と、自然生態系の専門家らでチームを構成(約半数は外国籍)し、グローバル視点で、削減価値の高い自然系クレジットの見極めを目指すという。すでに複数の大手企業と連携している。

 

 小田原さんは、これまでメガバンクと、エネルギー企業のそれぞれで、環境価値と経済価値をつなげて評価する視点での仕事に取り組んできた。それらの経験を踏まえ、新しい職場では、先鋭的な専門家集団の一員として同社のクレジットの評価ビジネスを、日本企業につなぐ役割を担うことになりそうだ。

 

 新たな職場はCEO以下、十数人という小所帯(ほぼ半数が外国籍)。同社が目指すクレジット評価の「確からしさ」の向上は、脱炭素社会への移行成否のカギを握るともいえる。その意味では、金融とエネルギーの両分野で最前線に立ってきた小田原さんにとって、今回の再転身は、ある意味で、同氏の環境金融視点でのビジネス人生の「集大成」ともいえそうだ。

 

 小田原さんは、みずほ銀行(旧みずほコーポレート銀行 : 2013年にみずほ銀行に変更)のグローバルストラクチャードファイナンス営業部所属時代に環境金融分野への関心を高めた。特に、2003年に国際的な主要銀行が中心になって、プロジェクトファイナンスでのESG配慮を自主的に実践する「エクエーター原則」を設立した際、みずほが日本の銀行として同原則に最初に署名するうえで大きな役割を果たした。

 

 同氏は、「エクエーターバンク」になった、みずほの融資案件での環境配慮向上を進めるとともに、同原則の国内での普及にも力を注いだ。さらに、同原則を主導したシティバンク等の担当者らで構成する「エクエータークラブ」に参加、環境金融を主導する米欧の金融人とのネットワークを構築した。

 

 その後、2011年になって、銀行からエネルギー開発のINPEXに転じ、周囲を驚かせた。まだ脱炭素課題が、ビジネスの主要課題になる前だった。INPEXは、海外での天然ガス等の開発事業が中心で、まさにエクエーター原則の評価対象となる事業者側だ。小田原さんは、融資先の環境負荷を精査する立場から、融資を受ける側で、それも環境負荷の大きいエネルギー企業の環境配慮を、どう構築するかという難しくかつ重要な役回りを選んだことになる。https://rief-jp.org/?p=152510&preview=true

 

 INPEX時代の小田原さんは、同社が海外で展開する複数の開発事業に伴う環境配慮、対応策を展開するために、現地調査等で海外の現場にも何度も足を運び、現地住民らの声にも耳を傾ける等の地道な活動を実践した。そうした小田原さんの取り組みの成果は、INPEXの開発事業に対する現地での信頼醸成の一端を築いたともいえる。

 

 常に環境金融分野の最前線に立ってきた小田原さんだが、「忙中閑あり」を実践する格好で、INPEX時代には、低音の声を活かして朗読のアナウンサー資格をとり、また周囲を驚かせた。今回の転職の直前にも、農林水産省の「森林インストラクター資格」を取得するという多芸ぶりも発揮している。「森林インストラクター」は新会社での自然保全系クレジット評価にもプラスになりそうだ。引き続きの活躍を期待したい。

                           (藤井良広)