HOME2. 保険 |日本企業のESG情報開示は「十分か」の質問に、企業は36%が肯定。投資家は3%だけと、大きなギャップ。行政のESG政策については、ともに複線化(重複)防止を要請。生保協会調査(RIEF) |

日本企業のESG情報開示は「十分か」の質問に、企業は36%が肯定。投資家は3%だけと、大きなギャップ。行政のESG政策については、ともに複線化(重複)防止を要請。生保協会調査(RIEF)

2022-04-21 00:44:19

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  「日本企業のESG情報開示は十分か」という問いに、企業の36%は「イエス」と回答する一方で、機関投資家の回答は3%だけだったことが生命保険協会の調査でわかった。TCFD提言に基づく気候変動関連情報の開示・活用を実施している機関は、企業、投資家ともに約3割だが、カーボンニュートラル(ネットゼロ)目標の設定は企業で35%、投資家はわずか9%。この点でもギャップが大きい。ESG促進での行政への期待では 「ガイドライン等の複線化防止」等、行政間の連携不足の解消を求めている。

 

 調査は、生保協会が毎年実施しているアンケート調査で、株式市場活性化と持続可能な社会の実現を目指している。2021年は、企業(上場企業1200社)、投資家(生命保険会社等の機関投資家202社)を対象に実施した(回答率:上場企業483社(40%)、投資家483社(50%))。

 

 このうち、ESG取組の情報開示については、企業の36%は開示が十分と認識している一方、十分と認識する投資家は3%しかおらず、認 識のギャップが明確だ。開示に後ろ向きな「あまり開示していない」「開示していない」の回答の合計は、企業では13%だが、投資家は20%に達する。企業の「やっている感」と、投資家の、「使えない感」が浮き彫りになったとも読める。

 

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 企業と投資家の対話のきっかけや充実のために、投資家が企業に期待する点では、基本となる「ESG等の非財務情報開示」が47%と最も多い。まずはESG情報の開示をもっと積極的にしてもらいたい、との声だ。次いで、「取締役会の実効性確保(G)」「業績の分析・経営陣の見解」「マテリアリティの特定」等が40%前後となっている。

 

 そうしたESG情報の開示のための手段でも、企業と投資家では、微妙な違いがある。企業の大半(86%)はホームページ(HP)の活用をあげたが、投資家の「HP」評価は44%と半分ほど。投資家はむしろ「統合報告書」を65%が、「有価証券報告書」を約40%が望ましいと回答。明確な文書化を求める意見が多いことがわかった。

 

 TCFD提言に基づく気候変動関連情報の開示・活用で、定性分析だけでなく定量分析(シナリオ分析)まで実施しているのは、企業が12%、投資家11%と約1割どまり。定性分析のみの開示の各22%を合わせると、ともに約3割が取り組み実施の分類に入る。一方で、「まだ開示に取り組んでいない」「開示予定がない」という回答は、企業で22%、投資家43%と、かなりの割合がある。

 

 特に投資家の回答では、「TCFDに基づく情報開示を活用する予定がない」が19%、「TCFDをよく知らない」5%等と、投資先の気候関連情報を把握したうえで自らも開示する責務があることを認識していないところが少なくないことがわかった。この点は、温室効果ガス削減に向けたカーボンニュートラル目標等でも同様で、2050年目標と30年目標を両方設定している企業は35%、いずれかの目標を設定しているところにまで広げると52%と過半数を超えるが、投資家のほうは、50年・30年の両目標設定は9%、いずれかの設定に広げても20%にしかならない。79%の投資家が、ネットゼロも中間目標も設定していない。

 

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 アンケートは行政のESG政策、気候変動政策への取り組みについても、企業と投資家に聞いている。両分野の推進に際して、「行政に対し期待すること」の回答では、「情報開示のサポート」が企業で49%、投資家で78%とそれぞれ最も多かった。これに次ぐのが、「ガイドライン等の複線化防止に向けた対応」「関連政策の立案における省庁間の連携強化」の各項目だ。

 

 この点は、環境省がグリーンボンドガイドライン、金融庁がソーシャルボンドガイドライン、経済産業省がクライメート・トランジション・ファイナンスと、省庁の所管分野の縦割りに応じてESG債のガイドラインづくりを仕分けしている霞が関官庁の実情が、企業、投資家双方の回答の念頭にあると思われる。「トランジション」については、3省庁が共同で基本方針を出した体裁をとっているが、実態は経産省の領域になっている。

 

 欧米で進む気候情報、ESG情報開示の法的義務化に関しては、金融庁と経産省が微妙な綱引きをしているとされる。それ以外にも、環境、経産、金融の3省庁だけでも、多様な「ガイダンス」「ガイドライン」を乱発している。しかも、これらのガイダンス等は、欧米の民間団体の任意の基準をコピーし、そのうえに不用とも思える手続き等を書き加えて日本版としている例も多い。アンケートでの「複線化防止」「省庁間の連携強化」を求める回答は、そうした「役所の都合による『使えない政策』」を、いい加減に排してもらいたいということのようだ。

 

 企業、投資家に共通する「行政に期待すること」としては、「再エネを中心とするエネルギー政策の提示」 「具体的なロードマップの策定」 「再エネ拡大を可 能とするインフラの整備」等をあげている。

 

 ESGのSの分野でも、認識ギャップが見えた。日本でも「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定されるなど、企業・投資家での人権取組みの水準は、 急速に高まりを見せているが、アンケートからは国連等が求める「人権デューディリジェンスの実施」「救済メカニズムの構築」について、「すでに実行している」と 回答した企業は、それぞれ22%、11%と低位に留まっている。

https://www.seiho.or.jp/info/news/2022/pdf/20220415_4-1.pdf