MS&ADインシュアランス。保険会社のScope3排出量である「financed emissions」を、2030年度に37%削減の中間目標設定。国内損保大手で同目標の設定は同社が初めて（RIEF）
2023-11-27 11:49:39
MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスは、グループ全体でのネットゼロ移行を進めるため、保険引受先への投融資に伴う温室効果ガス（GHG）排出量を、2030 年までに37%削減（2019年度比）とする中間目標を設定した。保険引受先の排出量は「associated emissions」として保険会社の主要なScope3排出量だが、今回の同社の目標設定は引受先への投融資に伴う「financed emissions」として設定した形だ。損保大手3社で、Scoe3排出量削減の目標を示したのはMS&ADが初めて。
同社によると、Scope3排出量の把握については、収入保険料を基に選定した国内主要取引先（約3300社）への投融資に伴うGHG排出量として算定した。削減目標の37%減は、日本政府の国が決定する温暖化対策貢献（NDC）の2030年度総排出量と2019年度の同総排出量の確報値から算出した。
目標算定のベースとした保険引き受け先企業への投融資に伴う2024年度のGHG排出量（CO2e）は、株式投資から214万4000㌧、債券投資から158万9000㌧、企業向け融資から24万7000㌧。株投資に伴う取引先企業の排出量がもっとも多い。Scope3把握に際して、同社が2022年7月から今年6月までの1年間に対話した投融資先企業は361社にのぼる。
Scope3排出量の削減については、顧客企業との対話を通じて、企業側のGHG削減における課題を共有するとして、エンゲージメントを強化する方針を示している。それら顧客企業側の排出削減の課題を踏まえて、課題解決に資するソリューションを提案し、削減を促す。
Scope3以外の、同社自体の営業活動や光熱費の使用等に伴うScope1～2の排出量も含めた2030年度の削減目標は21年度に定めた50%（2019年度比）削減をそのまま踏襲する。現状のScope1～3の排出削減量は26.9%減（2019年度比）。したがって、同社の全GHG排出量に占めるScope3排出量は過半以上のシェアを占めていることになる。2050年度にはScope1～3を合わせてネットゼロ目標を掲げている。
目標額算定に際して、保険引き受け先と投融資先は重複する面と、別個の面があるが、それらの区分は示していない。ただ、算定に際して、「収入保険料を元に選定した主要取引先のGHG排出量」としていることから、保険引き受け先の引き受け量に基づくScope3排出量（associated emissions）というよりも、投融資に伴う排出量（financed emissions）ということになるようだ。
金融機関の金融取引に伴う取引先でのGHG排出量については、グローバルな金融機関で構成する「金融機関向け炭素会計パートナーシップ（PCAF）」が、保険・再保険業における引受業務先の排出量について「associated emissions」として基準を示している。「financed emissions」は銀行や保険会社の融資に伴う融資先企業の排出量であり、株・債券の引き受け先の排出量（facilitated emissions）とも区分される。
同社はScope3削減目標の達成に加えて、自社のScope2排出量削減のため再エネ導入率を2030年度に60%にまで引き上げる（50年度には100％）ほか、社会の脱炭素化、循環型経済に資する保険商品の販売増大による保険料増収率を2025年度には年平均18%とする等の目標も立てている。
他の損保大手では、東京海上ホールディングスは、自社のGHG排出量（Scope1～2）について、2030年度中間目標として60%削減（2015年度比）やGHG排出量の多い取引先約200社を対象としたエンゲージメントの深化を目標としている。だが、financed emissionsやassociated emissionsの開示はしていない。SOMPOホールディングスは、「2050年までに、保険引受・投融資・事業活動を通じてネットゼロを達成」の目標を設定するが、financed emissions等の数値目標は示していない。
Research Institute for Environmental Finance