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日本生命の朝日社長。年頭あいさつで昨年の銀行の内部情報の持ち出し事件に触れるも、経営責任、具体的な組織改革には触れず。ガバナンス機能不全で、不祥事再発の懸念残る(RIEF)

2026-01-07 15:35:12

nisseiキャプチャ

 

 企業各社の経営トップは、年頭のあいさつを公表する中で、三菱UFJ銀行への出向者が銀行の内部情報を恒常的に無断で持ち出し、自社の事業活動に活用していた問題が発覚した日本生命保険では、社長の朝日智司氏が全役員・職員向けあいさつの中で同問題に言及した。朝日氏は「このような事案を発生させたことを重く受け止め、再発防止策を全社一丸となって推進し」「組織風土の変革を意識した取組を通じて、誰もが安心して前向きに働ける、風通しの良い職場環境と企業風土を築いてまいりましょう」と述べた。会社一丸を強調する一方で、経営責任については言及しなかった。

 

 日本生命が公表した朝日社長の年頭挨拶は5日付で、「全役員・職員に向けのメッセージ」としている。同社のサイトで公表されたのはメッセージの要旨。

 

 それによると、同氏は2025年の同社の業績評価として、「本社グループの上半期業績は、保険料等収入・基礎利益ともに前年同期を上回り、増収・増益の好決算を確保した。さらに、顧客数は計画達成ペースで推移し、国内保険元受各社に、(2024年に買収した)ニチイグループを含む日生グループ全体で大幅な増加を実現した」等のプラス面の成果をあげた。

 

朝日智司日生社長
朝日智司日生社長

 

 それを受ける形で、「ただし」として、「こうした積極的な戦略の推進には、お客様・社会からの確かな信頼が不可欠」と述べ、昨年、同社本社と子会社のニッセイウェルス生命保険において、銀行への出向社員が、出向先の内部情報を無断で自社に持ち帰っていたことが判明した点に言及。

 

 「『本社から銀行への出向者による不適切な手段での情報取得事案』が発覚した。このような事案を発生させたことを重く受け止め、再発防止策を全社一丸となって推進し、顧客(お客様)からの信頼回復に努めることが重要」と指摘。そのうえで「本事案を契機とした組織風土の変革を意識した取組を通じて、誰もが安心して前向きに働ける、風通しの良い職場環境と企業風土をともに築いてまいりましょう」とした。

 

 同社出向者による「不適切な手段での情報取得事案」は、昨年7月に発覚したもので、三菱UFJ銀行に出向していた日生社員が、銀行の「業績評価基準」「他社商品改定情報」などをスマホで撮影し、LINEなどで日生社内に送信し、同社の本社社員と共有。営業活動等に利用していたという内容だ。

 

 子会社のニッセイウェルス生保でも、三井住友銀行、みずほ銀行への出向社員が同様の行動をしていたことが明らかになり、その結果、2019年5月~2025年2月の約6年間で、三菱UFJ銀行等の3メガバンクのほか、地銀等を含め合計7金融機関から持ち出した銀行の内部情報は合計約600件とされる。出向は、銀行が保険商品を窓口販売するうえで日生社員が支援する名目で行われていた。

 

 日生側の発表では、銀行の個人情報の持ち出しはしておらず、組織的な指示をしたものでもないとしている。本社、および子会社の出向社員が長年にわたって出向先の内部情報を無断で持ち出していたことについては、組織的な指示ではなく「組織の風土」に問題があったとして、今回の年頭あいさつでも「組織風土の変革を意識した取組を通じて、誰もが安心して前向きに働ける、風通しの良い職場環境と企業風土をともに築いていこう」と役職員に呼びかけた。

 

 年頭あいさつでの説明は、昨年に不祥事が発覚した時以来の同社の説明と同様で、経営責任については一切触れていない。出向者が出向先企業の情報を無断で持ち出して自社の営業活動等に活用することが「組織風土」によるものだとすれば、その営業活動による業績の好調ぶりについて、社長自らが年頭の所管でまず胸を張るのは、いかがなものかと思われる。だが、同社の「組織風土」ではそうした点での違和感はないのだろう。

 

 不祥事の発覚からほぼ半年が経過するが、同氏が強調する「組織風土の変革」の内容について、保険契約者が納得するような改革の説明はないように思われる。一般的な株式会社の場合、こうした不祥事が発覚した場合の経営責任については、株主総会等で株主から問われ、具体的な改革案の提示が求められることになる。だが、同社の企業形態は保険会社にだけ認められている相互会社。株主がおらず、保険契約者一人ひとりが「社員」との位置づけで会社を構成し、意思決定機関は契約者で構成する「総代会」による形をとる。

 

  保険契約者の一人ひとりが「社員」となって、会社の運営に参加する、というと、極めて民主的な組織のように映る。だが、日生のように契約者数が約1500万人にも達する組織の場合「一人の契約者の声」が経営に反映されるのはまず無理。契約者の代表で組織する総代会も、総代の任命自体は当該生保会社が行うため、経営に批判的な契約者は総代には選ばない等が常態化しており、総代会の機能不全が指摘されて久しい。

 

 こうした現状を踏まえれば、朝日社長が年頭あいさつで述べた「誰もが安心して前向きに働ける、風通しの良い職場環境と企業風土」への変革は、同社の「現在の経営陣を含む役職員にとっての職場環境と企業風土の維持」を優先しようと言っているようにも聞こえる。そしてそうした現状の風土が不祥事の温床となったといえる。

 

 生保業界の中でも、第一生命保険や、太陽生命と大同生命で構成するT&Dホールディングスのように、相互会社の経営から脱して、株式会社への転換を実践したところもある。生保トップ企業の日生が前代未聞の不祥事を起こしながらその対応に「不透明さ」を払拭しきれないのは、相互会社故のガバナンスの機能不全が要因の一つと思われるのに、長く相互会社の中で過ごしてきた朝日氏を含む同社の経営陣が、実質的なステークホルダー不在の相互会社の構造の問題点に気づけていないためではないか。

 

 同社にとって今、求められているのは「組織風土の変革」というあいまいな言葉で、不祥事の主因をぼかすのではなく、生保業界に共通して求められている「組織構造の改革」に、正面から取り組む経営の責任を実践できるかどうかだろう。

                          (藤井良広)

https://www.nissay.co.jp/kaisha/news/20260105.html