HOME |黒田日銀総裁「気候変動は中長期的に金融システムを不安定にさせ得る」とし、気候変動対応への取り組みを強調。「気候連携ハブ」立ち上げ。21年度の考査で金融機関の気候対応を点検(RIEF) |

黒田日銀総裁「気候変動は中長期的に金融システムを不安定にさせ得る」とし、気候変動対応への取り組みを強調。「気候連携ハブ」立ち上げ。21年度の考査で金融機関の気候対応を点検(RIEF)

2021-03-26 12:00:59

kuroda002キャプチャ

 

 日銀の黒田東彦総裁は25日、中央銀行としての気候関連リスクへの取り組みについて講演、「気候変動が中長期的に金融システムを不安定化させうる点を踏まえ、中央銀行が取り組むべき重要課題との認識が世界的に広く共有されつつある」と指摘、日銀として気候変動対応に力を入れる姿勢を示した。すでに行内に組織横断的な会議体「気候連携ハブ」を立ち上げたほか、2021年度の日銀考査では金融機関の気候変動リスクへの認識や取り組みを考査事項に組み入れるとしている。

 

 黒田総裁は同日、日銀が開いた「気候関連金融リスクに関する 国際リサーチ・ワークショップ」で講演した。総裁は「気候変動は中長期的に実体経済や金融システムに大きな影響をも たらすことから、中央銀行の政策運営にも重要な影響を与える。 中央銀行としても、必要な対応を考えていく」と、気候変動を金融政策運営の一環として取り組む姿勢を強調した。

 

 そのうえで、「政策運営の基本となる経済・物価の情勢判断において、気候変動や政府の政策対応の影響を踏まえて行っていく必要がある」との認識を示し、政府の「ネットゼロ」政策と連携する考えを示した。

 

 日銀として気候変動に取り組む際の基本視点として、次の3点を指摘した。第一は「課題の多さや大きさは、この問題への取り組みを遅らせる理由とはならず、むしろ中央銀行は、そうした課題の克服に向けて、他の関係者と協力し、フォワード・ルッキングに着実に歩みを進めていかなければいけない」。

 

 第二点は、「中央銀行が気候変動に対応する行動は、そのマンデート(責務)に沿う必要があり、特に気候関連金融リスクへの対応では、金融システムの安定確保の責務に沿うべき」とした。第三点は、「気候関連金融リスクに対応する具体的な措置は、我々が持つ知見やエビデンスに基づいて最適な手段を選択する」とした。

 

 このうち第二の「金融システムの安定に資する視点」に関連して、気候関連での金融市場の動きを踏まえ、「開示や商品設計、取引慣行整備などの取り組みを通じて、金融資産の価格に気候変動リスクが的確に反映されるようになれば、金融機関が気候関連金融リスクを適切にコントロールしやすくなる」と指摘、気候関連情報開示の促進と価格付けを支持する姿勢を示した。

 

 ただ、金融市場の資金を気候対策等に誘導するサステナブルフ ァイナンスを日銀として政策的に支援するかどうかについては、「中央銀行のマン デートや金融政策手段の市場中立性との関係などの論点について一層の検討を重ねていく」と述べるにとどまった。

 

 気候関連リスクを評価するストレステストについても、「リスク顕現化までの時間軸が非常に長いことなど、シナリオを設定するに当たって、様々な難しさを伴う。気候関連金融リスクの計測に用いるデータが不十分等、実務的な課題は多い」と指摘、気候関連のストレステストは、「現状の金融経済ショックに対するストレステストとは異なる目的や性格のもの」と位置付けた。

 

  一方で、主要国の中央銀行の気候変動対応の取り組みは急速に進んでいる。英国の中央銀行イングランド銀行(BOE)は、政府の指示を受け、金融政策のマンデートに現行のインフレ抑制とともに、カーボンネットゼロ政策への対応を含めるとして、企業の資金繰り支援で実施する社債購入プログラム(CBPP)に際して社債発行企業の気候評価の手法開発に乗り出している。http://rief-jp.org/ct4/112244?ctid=71

 

 また米連邦準備制度理事会(FRB)は気候変動が個々の金融機関の経営に及ぼすマイクロプルーデンス政策と、金融システムの安定に及ぼす影響を評価・分析するマクロプルーデンス政策に対応する二つの委員会を立ち上げ、気候関連リスクへの対応を本格化させている。http://rief-jp.org/ct4/112260?ctid=71

 

 今回の日銀総裁の発言は、こうした主要国の中央銀行の動きに後れをとらないよう、ようやく一歩を踏み出すことを内外に公言した形でもある。

https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2021/data/ko210325a.pdf