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経団連、米証券取引委員会(SEC)「気候変動開示」にコメント。「自主的開示」を主張、「監査導入」も反対。米国主導のTCFD、IFRS財団の取り組みによる義務化の方向を理解せず(RIEF)

2021-06-14 22:13:07

keidanrenキャプチャ

 

 日本経団連は13日、米証券取引委員会(SEC)が募集している気候変動情報開示に関するコメントを公表した。SECはバイデン米大統領の指示を受け、義務的な気候情報開示のフレームワークづくりを目指している。経団連は①IFRS財団の国際サステナビリティ基準化を支持、米国もIFRSによることを要請②法的開示より自主的開示の優先③監査・外部保証の拙速な導入は避けるべきーー等としている。

 

 経団連のコメントは、SECのコンサルテーションに沿った意見表明。コメントでは、基本的にIFRSが進める国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の取り組みを支持し、TCFDの原則主義の自主的開示を求める形だ。だが、すでにIFRSはTCFDを取り込んで、義務的開示を求める方向を明らかにしている。監査・外部保証も導入し、財務会計の国際会計基準審議会(IASB)と並列させる方向にある。http://rief-jp.org/ct5/114453?ctid=71

 

 今回のコメントは、こうした事実や方向感を踏まえているとは思えない内容だ。経団連が評価するTCFD提言を勧告したTCFD自体、米国のマイケル・ブルームバーグ氏が座長で、実際の取りまとめの軸は元SEC委員長のメアリー・シャピロ氏だったことが知られている。シャピロ氏は2010年にSECとして初の気候開示ガイダンスをまとめており、SEC自体がTCFDの生みの親と言っても過言ではない。

 

 またIFRSのISSB構想自体、米国が支援して進められている。EU、英国等もISSBの気候・サステナビリティの開示フレームワークを前提として、各地域・国ベースの開示ルールを設定、整合化を図ろうとしている。IFRSの基準だけですべての非財務要因を網羅できないことから、国別の開示ルールの設定を急いでいるのだ。SECの今回の対応もそうした一環と位置付けるべきだろう。

 

 むしろ日本も、SECやEU、英国を見倣って、企業会計審議会等でIFRSのフレームワークと整合する気候・サステナビリティ情報開示の国内基準の位置づけに早急に取り組むよう、金融庁や経産省に要請するのが、今、経団連に求められる役割のはずだ。https://rief-jp.org/ct4/110458

 

 経団連は「SECが開示基準やガイダンスを作る、ないしは推奨する場合には、開示内容の一貫性及び比較可能性の向上等のために、国際的な基準・既存の枠組みと平仄を合わせるべき」と指摘している。この指摘はその通りだろう。しかし、SEC等は早い段階から国別基準を作るのではなく、TCFD、IFRS等の国際基準作りそのものにコミットしてきた。

 

 こうした米国等の動きは、「外」で作られた国際基準に身を合わせて自国の基準を作るのではなく、国際基準そのものの作成に自ら取り組み、それと整合した自国基準を整備するという流れだ。ところが日本は従来から、海外の基準をコピーしながら、日本企業用に緩めの「日本版」を仕立て上げることを「基準作り」と位置付けてきた。経団連はこうした日本の過去の「安易な自国版」づくりを戒めているのかもしれない。

 

 気候・サステナビリティ情報開示を自主的開示にとどめるという主張も、すでに英国での主要7カ国(G7)首脳会議のコミュニケにおいて、「TCFDのフレームワークに沿った義務的な気候情報開示の支持」がうたわれた。IFRSのISSBが目指しているのは、まさにこうした義務的情報開示である。経団連のコメントはG7サミット開催中に公表されたが、経団連自体、G7のコミュニケに「義務的情報開示」が盛り込まれることを知らなかったことになる。http://rief-jp.org/ct8/114893?ctid=71

http://rief-jp.org/ct8/115178?ctid=71

 

 経団連は「気候変動開示に対する監査や外部保証の手続きについては国際的なコンセンサスが得られておらず、その担い手についてもこれからの議論と考える」として、監査・外部保証の導入を避けるよう提案している。これも、世の中の動きを見ていない発言といえる。https://rief-jp.org/ct4/109072

 

 すでに世界の主要な監査法人は気候・サステナビリティ情報開示の義務化に向けて着実に準備を進めている。米国のサステナビリティ会計基準機構(SASB)が国際統合報告評議会(IIRC)と合併して設立した「Value Reporting Foundation(VRF)」はその一例だ。主要監査法人が主導してきたIIRCと、ブルームバーグ氏主導のSASBの統合の最大の目的は、非財務情報の監査・保証業務とみられている。http://rief-jp.org/ct6/115054

 

 日本を代表する産業団体の経団連のコメントとしては、いかにもアウトオブデータ(Out-of-date)で、コメントを受け取ったSECの担当者も首を傾げるのではないか。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/054.html

 

                          (藤井良広)