2021年のグローバルなカーボンクレジット取引額、過去最高の7600億ユーロ。日本円で約100兆円。EU-ETSのクレジット価格は年間2.6倍の上昇。自主的クレジット市場も拡大へ（RIEF）
2022-02-01 17:35:32
2021年のグローバルなカーボンクレジットの取引価値が前年比164%の急増で過去最高の7600億ユーロ（8510億㌦＝約98兆8000億円）になった。日本円換算では100兆円に迫ったことになる。現在、世界のカーボン取引の中心である欧州排出権取引市場（EU-ETS）でのカーボン（EUA）価格が一時、90ユーロを付けるなど、年初来2.6倍も上昇したことが、取引価格増大の最大要因だ。
カーボンクレジットの市場調査は英調査会社のRefinitivが実施した。EU-ETSのクレジット取引総量は世界全体の約90％を占める6850億ユーロに達した。EUA先物価格は、年初は33.76ユーロだった。だが、年末の12月8日には一時90.76ユーロを付け、終値も89．09ユーロと最高値を記録。年間の上昇率は2.63倍だった。
EUAクレジット価格上昇の要因は複数ある。最も大きかったのは。天然ガス価格の上昇に伴い、ガス火力の操業に伴うCO2排出量をクレジットでカバーする需要が増大したことが大きい。政策的には、EUが2030年温室効果ガス排出量の55%削減で合意したことも、中長期的なクレジット需要増大につながった。
市場アナリストは、今年2022年も、ガス価格等の高値張り付きが続き、クレジット価格の高値は続くとみている。EUA先物の価格は、年末にいったん下落した後、年初とともに回復し、90ユーロを目指す動きとなっている。100ユーロ台乗せも近いとみられている。
米国の州レベルの排出権取引市場でもクレジット取引が活発だった。カリフォルニア州を含む西部気候イニシアティブ（the Western Climate Initiative : WCI）と、ニューヨーク州等東部10州が共同で電力を対象に展開する地域温室効果ガスイニシアティブ（Regional Greenhouse Gas Initiative：RGGI）とを合わせた取引量は前年比6％増。取引価格は前年比70%増の490億ユーロだった。
昨年7月から電力を対象とした全国版の排出権取引市場（C-ETS）を稼働させた中国では、年末までの約5カ月半の間で、約1億7900万㌧のCO2排出許容枠が取引された。中国生態環境部の公表では取引成約額は58億200人民元（約1044億円）だった。中国のETS市場は、対象は電力事業に絞って排出枠をグランドファザリングルールで無償割り当てしており、排出削減度が低いことから、取引量自体も欧米に比べて「穏当なレベル」でスタートした。
EUから離脱した英国も、独自の排出権取引制度を稼働させた。英国はEU加盟時代から排出権取引を実施、ロンドン市場には取引事業者もいる。英国単独の排出権取引（UK-ETS）ではクレジット（UKA）について最低価格のフロアを1㌧当たり25ユーロと設定、EU-ETSのEUA価格との裁定が働く形で取引が進んだ。年間の取引額は230億ユーロとなった。このほか、ニュージーランド、韓国等でも取引が続いた。
石炭火力もガス火力も、稼働に伴って排出する温室効果ガス排出量をカバーするため、カーボンクレジットを調達しなければならない。クレジット価格の上昇は、これら化石燃料発電にとって高コスト負担になるが、昨年のエネルギー価格の上昇で、石炭火力事業者も、高コストのクレジットを調達しても、エネルギー価格高騰の影響で収益が上がる状況が続いた。
一方、ETSとは別に、民間の自主的なカーボンクレジット（VCM）の取引も、企業のネットゼロ目標の設定等の影響を受けて、活発に取引が進んだ。森林保全や生態系保全等によるオフセットクレジットや、省エネ活動等からのクレジット等が含まれる。年間の取引総額は昨年11月時点で10億㌦を超え、年間を通しても強い需要に支えられた。
Refinitivでは、VCM市場は22年も引き続き、グローバルに取引拡大の方向に展開していくとみている。VCMクレジットについてはこれまではクレジット創出事業者と主要な需要企業との相対ベースでの取引が主導的だった。だが、シンガポール、東京、米国等では、こうした取引をスクリーンを使ったマーケットメーカー方式で取引できるようにする取り組みが進んでいる。
($1 = 0.8936 euros)
Research Institute for Environmental Finance