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日本最大のCO2排出企業「JERA」も、経産省「モデル事業」としてトランジションボンド発行へ。老朽LNG火力の廃止等6事業の資金調達。USC等の石炭火力は2030年代以降も温存(RIEF)

2022-02-18 08:41:14

JERAキャプチャ

 

 国内最大のCO2排出企業であるJERA(東京電力と中部電力の火力発電部門の統合体)は、3月上旬にトランジションボンドを発行すると発表した。同社は日本のCO2排出量の4割を占める典型的な「ブラウン企業」だが、トランジションボンドで調達した資金で、2050年ネットゼロに向かうという。だが、公表した計画では2030年でも石炭火力を主力の発電源とする前提で、「トランジション・ウォッシュ」の批判が出そうだ。

 

 (写真は、愛知県にある国内最大の石炭火力発電であるJERAの碧南火力発電所。アンモニア混焼実験を行う予定)

 

 同社のトランジションボンド発行に対しては、経済産業省が先にトランジションボンド発行を宣言した東京ガスとともに、「トランジションボンドのモデル事業」として認定した。両社には補助金が配布されるが補助金額は公表していない。両社の認定は同省の審査委員会(座長:伊藤邦雄・一橋大学CFO教育センター長)が決定した。https://rief-jp.org/ct4/122491

 

 JERAの現時点での公表では、「3月上旬の条件決定を予定」とするだけで発行額や期間等は明記していない。ただ、資金使途先の事業は、①五井火力発電所(LNG) の既存発電設備の撤去②知多火力発電所(LNG)の既存発電設備の撤去③碧南火力発電所4号機(100万kW級石炭火力)でのアンモニア20%混焼の実証研究④事業用火力発電所でのアンモニア高混焼化技術確立の実機実証研究⑤アンモニア専焼バーナを活用した火力発電所での高混焼実機 実証⑥大規模水素サプライチェーン構築に係る水素混焼発電の技術検証、の6事業をあげている。

 

JERAのロードマップ
JERAの「ゼロエミッション2050・ロードマップ」

 

 同社が策定した「ゼロエミッション2050 日本版ロードマップ」では、洋上風力を中心とした再エネ事業と、「ゼロエミッション火力」をネットゼロの二本柱としている。このうち、トランジションの焦点となる「ゼロエミッション火力」の対象には①非効率石炭火力停廃止②アンモニア混焼③水素混焼、の3分野をあげ、30年と50年のロードマップを示している。

 

 トランジションボンドの対象6事業は、この3分野をカバーしているが、①については石炭火力ではなく、老朽化したLNG火力の廃止に充当するとしている。LNG火力は石炭火力よりCO2排出量は半分ほど少ないとされるが、JERAの火力転換方針は、CO2排出量より、設備の老朽度で判断するようだ。

 

 ボンドの発行期間は2030年までの10年前後と想定される。したがって、ボンドの投資家は、30年までに予定する事業がどれだけトランジションに貢献するかに関心を持つとみられる。ロードマップでは、①は2030年までに超臨界圧発電(SC)以下を全台低廃止としている。だが、今回のボンドの資金使途先には石炭火力は含まれていない。

 

 将来発行するトランジションボンドで、「非効率石炭火力」の停廃止事業を対象とするのかもしれない。その場合でも、停廃止対象となる石炭火力には、LNG火力よりもCO2排出量が2倍近く多いとされる超々臨界圧発電(USC)は含めないとしていることから、JERAの保有資産には「座礁資産」が残ることになる。

 

JERA003キャプチャ

 

 JERAの発表資料では、その点についての明確な説明はされていない。石炭火力からガス火力への転換を限定したうえで、USCについては、CCSや混焼等の技術開発の将来の進展に期待して、それらの活用によってCO2排出量をゼロに持っていく考えかもしれない。そうだとすると、トランジション期間中の技術リスクの存在は投資家にとって見過ごせない点と思われる。30年までの同社保有火力発電からのCO2排出量の原単位は国全体の火力平均から20%減にとどめる。

 

 アンモニア混焼は今回のボンドの資金使途対象にもなっている。30年までに実証から本格運用へ移行を目指す。ただし、混焼率は30年代前半で20%止まりの見通しだ。これだと、対象石炭火力からのCO2排出量は最大でも混焼分の20%の削減率にとどまる。40年代には発電所のリプレースに伴い専焼化に移行するとしているが、20%混焼を一気に100%に引き上げる手段等は明記していない。

 

 水素混焼も今回の資金使途先に加えられているが、30年までは「技術的課題の解決」に充て、本格運用は30年代に入ってからとしている。50年までを見渡しても明確な水素の混焼率を示していない。水素についても「技術リスク」は30年だけでなく50年にかけて残る。

 

 こうしたJERAのトランジションフレームワークと、ボンドの資金使途については、ESG評価機関のDNVビジネス・アシュアランス・ジャパンは市場等のガイドラインに照らして適格認定を付与している。同社は東京ガス等も含め、日本でのトランジションファイナンスのセカンド・オピニオン付与業務を「独占的」に手掛けている。

 

 ただ、セカンドオピニオンには法的な責任はなく、かつ市場の基準に合致していることを確認するだけで、トランジションの成否の保証を付与するものでもない。その点は、あくまでも投資家が判断することになる。

 

 経産省も今回のモデル事業について、「トランジション・ファイナンスの金融商品(債券、貸出)としてのリスクは一切評価の対象としていない。調達、取得、売却、保有等を行う者(投資家)はその責任で行うもので、経産省は何ら責任を負うものではない」としている。

 

 東京ガスとJERAのトランジションボンドを「適正」と評価した審査委員会は、伊藤座長のほか、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループリーダー・主席研究員、関根泰・早稲田大学理工学術院教授、高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授、松橋隆治・東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻教授の5人で構成されている。

https://www.jera.co.jp/corporate/ir/esgfinance/transition

https://www.jera.co.jp/static/files/corporate/esgfinance/transition/jera_transition_framework_202202.pdf

https://www.meti.go.jp/press/2021/02/20220214001/20220214001.html