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内外で成長する私募インフラファンド。収益安定性や流動性に課題、インフラの耐用期間とファンドの運用期間の”ミスマッチ”も指摘。日銀レポートが分析・指摘(RIEF)

2022-02-18 23:01:06

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  発電所や道路等のインフラ整備のための資金需要の高まりで、私募形式のインフラファンドがグローバルに増大しているが、これらのファンドは長期運用でないため、収益の安定性や流動性等の面で課題がある、とのレポートを日銀が公表した。インフラファンドは、投資家から安定的なキャッシュフローと分散投資効果、インフレヘッジ等の観点から人気が高まり、グローバル残高は8000億㌦を超えている。だが、レポートはインフラの耐用期間の長さとファンドの運用期間の”ミスマッチ”も指摘している。

 

 (写真は、パシフィコ・エナジーが開発した宮城県の古川メガソーラー=本記事と直接の関係はありません。イメージです)

 

 レポートは日銀金融機構局の直野未悠氏、渡邊真一郎氏の分析による。https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2022/data/rev22j02.pdf

 

 レポートによると、インフラファンドには①私募形式でクローズドエンド型②私募形式でオープンエンド型③上場ファンド、3種類があり、中心は①の私募形式・クローズドエンド(途中解約を認めない)方式。日本でも、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が約5700億円の投資残高があるなど、機関投資家等の主要投資資産の一つとして定着しているとしている。

 

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 インフラファンド市場が増大しているのは、グローバルにインフラ資金需給に変化が生じているためという。新興国等では、急速な人口増加・ 都市化の流れに公的なインフラ整備が追いつかず、先進国でも、既存インフラの老朽化による修繕 や再整備の必要性が高まっているが、財政事情から公的資金でのインフラ整備が遅れている。その分、民間資金への期待が高まる状況にある。

 

 民間のインフラファンドには、利用者からの料金収入が得られるインフラ資産が多く組み込まれるほか、行政からの一定の補助 金も収益源に期待できる場合もある。このため、機関投資家にとって長期安定のキャッシュフローを生む投資資産とみなされている。ただ、比較的規制緩和が進み、利用者からの需要や利用価格が変動しやすいインフレ資産は相対的に収益の安定性が低くなるとし、発電設備などのエネルギ ーインフラが、そうした収益変動リスクの高い資産の例にあげている。

 

 イ ンフラ資産固有のリスクとしては、行政の規制の影響を色濃く受ける点を指摘している。法制度の改正などでインフ ラを取り巻く社会的環境が変化すると、インフラ資産の収益性にとって変動リスクとなる。こうしたリスクは、特に政情が不安定な新興国や、政権交代が起こるタイミングで大きくなりやすい。現在、ミャンマーのインフラ事業に進出した日本企業等が、昨年2月の軍事ク―データ―以降に事業継続リスクにさらされているのがその事例ともいえる。

 

 行政の規制変化等以外でも、インフラの開発・運営に影響を与える要因として、近隣住民との社会的摩擦(開発案件への反対運動など)も指摘している。実際に、アジア諸国等では、日本企業が進めてきた石炭火力発電事業等が、現地の住民やNGOの反対を受けて、計画の見直しや稼働の遅れ等が生じている。

 

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 レポートはインフラとインフラファンドの資金の流れの「ミスマッチ」も指摘している。インフラ資産は耐用期間が長く、実用段階に入ると安定したキャッシュフローを生み出す。これに対して、現状のインフラファンドは、案件発掘に時間を要し、エグ ジット(ファンドによる案件売却)時期もある程度決まるなど、運用期間はフ ァンド設定から10年程度となっている。このため、インフラ資産の安定したキャッシュフローが、ファンドの安定収益に直結しない形になっている可能性がある分析としている。

 

 インフラ資産の運用には、専門的なノウハウが必要なケースが多いため、エグジット先は別のインフラ ファンドや、インフラへ直接投資を行う一部の機関投資家等に限られるほか、案件規模が大きいこともあり、プライベートエクイティや不動産などの他の投資資産に比べて、流動性が低いとしている。

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2022/data/rev22j02.pdf