HOME |金融庁、国内ESG投信分析で、資産運用会社のESG専門人材の不足や情報開示の不備等を指摘。同庁自身もESG政策の専門人材乏しく、開示ルールも示さず、「わが身省みず」の指摘も(RIEF) |

金融庁、国内ESG投信分析で、資産運用会社のESG専門人材の不足や情報開示の不備等を指摘。同庁自身もESG政策の専門人材乏しく、開示ルールも示さず、「わが身省みず」の指摘も(RIEF)

2022-04-26 22:46:42

FSA003スクリーンショット 2022-04-26 223011

 

 金融庁は25日、国内のESG関連の37社の投資信託を対象とした分析を公表した。その中でESG投資推進の専門人材を抱えていない資産運用会社が38%もあったと指摘。多くのESG投信では目論見書等でのESG要素の考慮等の記載が抽象的として、投資家の判断に資する情報開示を求めた。ただ、金融庁自体、ESGの専門人材はほとんど抱えておらず、ESG投信の情報開示ルールも定めておらず、「金融庁、お前こそ」の声も聞こえる。

 

 (上図は、国内でのESG投信の設定推移)

 

 調査は昨年10月時点でESG投信を提供する37社とその投信225本を対象に実施した。2021年の新規設定本数はアクティブ、パッシブ合わせて96件で前年(41件)より2.34倍と伸びた。償還期限では10年以下の期間の投信が全体の37%であることから、「中長期的な視点が求められるESG投信なので、償還期限の設定が短いものについては、合理的な理由を説明する必要がある」と指摘している。

 

FSA002スクリーンショット 2022-04-26 222855

 

 この点は確かに、各投信が回答すべき点だろうが、政府の2030年温室効果ガス排出量46%削減を担保する政策がほとんど出ていない中で、10年を超すESG投信を設定するリスクを避けているとの見方もできる。

 

 各社の組織体制では、一部の資産運用会社で、ESG投資推進の部署を設置した場合でも全員が他部署との兼務、そもそも専門部署・チームが無い、 ESG専門人材はいないなど、「ESG投資を実施するための実効的な体制整備が必要な例が見られた」と指摘。 ESG担当の専門人材がゼロの企業が14社(38%)、「1~4人」が12社(32%)で、両方を合わせると7割の企業が専門人材無しか、ごくわずかな人数で回していることがわかった。

 

FSA001スクリーンショット 2022-04-26 222745

 

 金融庁は「ESG投資を実施するための実効的な体制整備が必要」と指摘した。この点も、その通りだが、金融庁自体、「90%以上の時間をESG関連業務に費やす専任スタッフ(金融庁による専門人材の定義)」を何人抱えているのだろうか。民間企業からの出向者に依存していたり、他省庁との兼務等で「ESG行政」を回しているのではないだろうか。「率先垂範」してもらいたいものだ。

 

 投信の情報開示についても金融庁は「苦言」を示している。①一部の運用会社は、自社のESG投資に対する 基本的な考え方や取組状況等をレポート等に開示していない②多くのESG投信では目論見書での運用面でのESG要素の考慮方法の記載が抽象的③月報や運用報告書での運用状況や投資銘柄の評価は、精々、組入上位10銘柄のESG取組みを簡潔に記載する程度、等を列挙。

 

 そのうえで、「顧客が投資商品の内容を正しく理解し、他の商品と比較するなどして適切な投資判断を行えるよう、運用プロセスの実態に即し一貫性のある形で、適切な情報提供や開示を積極的に進めるべき」と指導方針を示した。

 

 ただ、ここでも「訓示」を垂れる金融行政の足元に疑問がわく。EUはESG投信等の開示ルールを定めた法規制(サステナブルファイナンス開示規則=SFDR)で、政策主導でルールを示している。だが、金融庁は同様の権限を持つにもかかわらず、開示ルールを民間に示していない。本分析でも、各社の取り組みの不備な点は「説明が抽象的」「理解困難」等と例示するが、では「何が具体的な説明」で、どう書けば理解容易になるか、といった「模範解答」は示していない。

 

 金融庁の発表文を紹介したメディアの中には、「同庁は5月にも、適切な組織体制や情報開示など、運用会社に求める7項目をまとめて『名ばかりESG投信』への監視を強める」と報じたところもある。が、自らを省みず、訓示を垂れるばかりでは、金融庁自体が「名ばかりESG行政」との「汚名」を当分、受けそうだ。

                           (藤井良広)

https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20220425/02.pdf