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ANAホールディングス、2050年度ネットゼロに向けたトランジション戦略。資金調達はトランジションボンドではなく、グリーンボンドで。日航と違い鮮明に(RIEF)

2022-08-01 16:19:48

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 ANAホールディングスは1日、2050年度のカーボンニュートラル実現に向けたトランジション戦略を公表した。同戦略では、持続可能な航空機燃料(SAF)利用による低炭素化等を進め、戦略実現の資金調達はグリーンボンドで実施するとしている。航空業界では日本航空(JAL)が3月にトランジション戦略としてトランジションボンドを発行したが、ボンドが準拠する基準の違いは投資家の信頼感に微妙に影響しそうだ。

 

 ANAによると、設定したトランジション戦略は、①運航上の改善・航空機の技術革新②SAFの活用等の航空機燃料の低炭素化③排出権取引制度の活用④ネガティブエミッション技術の活用、の4つの戦略的アプローチを進めていくとしている。

 

 このうち主要な削減対策となるSAFの導入については、2030年までに消費燃料の10%以上をSAFに置き換え、50年にはほぼ全量を低炭素化する。SAFを安定的に調達するため、国内でのSAFの生産量拡大、価格低減、サプライチェーン整備等を官民連携で進めるとしている。

 

ANAのトランジション戦略
ANAのトランジション戦略

 

 運航・航空機等の技術革新では、航空交通システムの改革を進め、エアバス社やボーイング社等との連携による次世代低炭素機材の導入を目指す。「排出権取引制度」は、政府が想定するグリーントランスフォーメーション(GX)政策による自主的排出量取引を指すとみられるが、同制度の活用は短中期間のみの一時的措置と位置付け、50年度までに同制度に依存せず、実質ゼロを目指すとしている。

 

 こうしたアプローチを重ねて、2050年度の排出量について、何も対策を取らない場合に想定される排出量の70%をSAF等の航空燃料の転換で、20%を運航上の改善等の技術革新で、残りの10%を「排出権取引」とネガティブエミッション技術の活用で、削減するとの展望を示している。

 

 これらの各アプローチを実現していくうえで必要となる資金をグリーンボンドで調達するため、グリーンボンドフレームワークを設定した。同フレームワークはICMAが制定するグリーンボンド(GBP)に適合するもので、今後、市場の金利情勢等をみながら、今年度中にトランジション戦略としてのグリーンボンドを発行する予定だ。

 

 航空業界のビジネスを脱炭素化するためのESG債による資金調達としては、JALが3月に、トランジションボンド5年債を100億円発行している。JALによると、日本の経済産業省が作成した「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」に適合するモデル事業として選定されたとしている。同指針はICMAの「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック2020」を参考にしてはいるが、基本的には法的基準ではなく、日本国内だけでしか通用しない行政指導。https://rief-jp.org/ct4/122126

 

 このため、JALのトランジションボンドにセカンドオピニオンを付したSustainalytics社は、経産省の「指針」だけでなく、ICMAの「ハンドブック」等への適合評価をしたうえで、「同社のトランジション戦略は、特に短期・中期において、パリ協定の 2°C シナリオとは整合しない見込みである(その点は、市場の期待に合致するものではない)」と指摘している。

 

 JALが発行した債券は5年債で「短期・中期債」であり、その資金使途とするエアバスA350、ボーイング787の導入費用も、それらの機材は現在、市場で導入されているもので、次世代低炭素機材とはいえない。「2℃シナリオ」と一致せず、資金使途も現行の機材を対象とする債券を『トランジション』と名付けて、投資家に販売したとの見方もできる。

 

 国内航空業界のトランジション資金調達で、JALは国内の経産省基準を重視し、ANAは国際的に通用するICMAのGBPへの準拠を重視する形となった。ANAは経産省が進めるGX戦略の排出量取引についても「一時的措置」と位置付け、あくまでも国際的に通用する市場ベースでの排出削減を進めてネットゼロを実現するとしている。

 

https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20220801-3.pdf

https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20220801-3-1.pdf

(注)2022年8月2日午後7時40分に一部修正しました。