HOME |日本航空、初のトランジションボンド、3月中に2本計200億円発行。資金使途は市場で運用中の航空機購入費用に。セカンド・オピニオンは「パリ協定の2℃シナリオと整合せず」と指摘(RIEF) |

日本航空、初のトランジションボンド、3月中に2本計200億円発行。資金使途は市場で運用中の航空機購入費用に。セカンド・オピニオンは「パリ協定の2℃シナリオと整合せず」と指摘(RIEF)

2022-02-04 00:56:45

JALキャプチャ

 

 日本航空(JAL)は3日、同社初のトランジションボンドを3月中にも、2本合計200億円分を発行すると発表した。資金使途は、省燃費性能の高い最新鋭機材(エアバスA350、ボーイング787)の購入費に充当するとしている。同社は、従来機より燃料効率向上でCO2排出量を15~25%削減できる、としている。すでに同社はこれらの機材を内外路線で運航させており、それらのリファイナンスに活用するとみられる。ただ、ESG評価会社のサステナビリティクス社は「JALのトランジション戦略は、特に短期・中期において、パリ協定の2°Cシナリオとは整合しない見込み」とのセカンド・オピニオンを付与した。(本記事は末尾に更新情報を入れています)

 

 JALは発表で、「航空業界として世界初となるトランジションボンドの発行」としている。だが、現在、世界のESG債市場では、トランジションボンドは定着しておらず、他の航空会社もトランジションボンドでの資金調達を主要な手段とは見なしていないのが実態だ。今回、JALがボンド発行に際して「準拠」したとする経済産業省等による「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」は、法的な基準ではなく、日本国内だけでしか通用しない行政指導の方針だ。

 

 JALによると、発行するのは5年債と10年債の2本でいずれも発行額は100億円。合計200億円。資金使途としてエアバスA350とボーイング787という省エネ性能の高い機種の購入をあげている。A350は2015年から、787は2011年から、すでに世界の航空会社で通常のファインナンスで調達・運用されている機材である。使用燃料も化石燃料由来のジェット燃料を使っている。

 

 こうしたことから、経産省の「基本指針」のほか、ICMAの「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」等への適合状況を精査してセカンド・オピニオンを付与したサステナリティクスは、同機材について「短期的には化石燃料由来のジェット燃料によって運航されるため、トランジションに関わる資金使途と考える。そのような支出が適格になるには、航空業界の脱炭素に向けた信頼性のある軌道に合致する形でのCO2排出原単位引き下げに資するその他のコミットメントや活動の有無が条件となる」と指摘している。

 

 つまり、同機材の購入だけでは「脱炭素には適格ではない」とし、バイオ燃料由来等の持続可能な航空燃料(SAF)の調達や運航効率の改善策を条件とする必要性を指摘している。そのうえで、「同社のトランジション戦略は、特に短期・中期において、 Transition Pathway Initiative(TPI)がIEAのモデルに依拠して導 入したベンチマーク(High Efficiencyシナリオ)と比較すると、 パリ協定の 2°C シナリオとは整合しない見込み」とした。

 

 ここで、「排出削減の短期・中期目標」としているのは、今回発行する5年債、10年債の償還期間に合致するとみられる。サステナリティクスは、TPIの ベンチマークでパリ協定の2°Cシナリオと合致するには、JALのCO2排出原単位は2025年度で約30%、2030年度で45%の改善が必要と指摘。一方で、JALがBAUシナリオとの対比で示した同効率性の改善目標は2025年度で約6%、2030年度で20%であり、いずれもTPI のベンチマークを大きく下回り、2℃シナリオと合致しない、としている。

 

 サステイナリティクスは、こう指摘したうえで、JAL が参照する ICAOやIATAによる最新の検討資料やATAGのレポ ート等は長期的な目標を設定する上では許容できるシナリオだとして、JALの脱炭素化の目標と経路は、短期・中期ではパリ協 定の2°Cシナリオとは整合しないが、長期的なネット・ゼロエミッション目標まで踏まえると、同社の事業オペレーシ ョンの低炭素・脱炭素化に繋がるポジティブな効果をもたらすと考える、とした。

 

 ただ、JALが今回発行するとするボンドは、2050年のネットゼロの長期的目標を対象とした長期債ではなく、5年債、10年債であり、まさに2℃シナリオと合致しない「短期・中期目標」を視野に置いた債券である。サステナリティクスは、JALの長期目標をシナリオに合致するとしながらも、今回発行するボンドは合致しないと、説明しているようにも読める。

 

 TPIモデルはトランジション評価の市場ベースのベンチマークとして国際的に認知されている。そのシナリオに比して、JALのトランジション戦略は「水準以下」との評価を示されたことになる。サステナリティクスも「その点は、市場の期待に合致するものではない」としている。「市場の期待」とは、トランジションに対する投資家の期待と読めるので、国内の投資家がこのセカンド・オピニオンを踏まえて、どう投資判断を下すか、注目される。

 

 同ボンドのストラクチャリングエージェントは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券と大和証券、共同主幹事は、両社のほか、みずほ証券、BofA証券、野村證券が名を連ねている。

 

 JALは発行に際して、「SAFについては、脱炭素社会の実現を目指すステークホルダーとともにCO2排出量実質ゼロを目指していく。一方、航空機については、現在の技術では、電気や水素など、化石燃料を代替できる航空機は開発途上。そのため、将来の新技術の活用までの移行期間として、現有技術において最善の手段である最新鋭の省燃費航空機への更新を進めることが、航空会社が最も優先すべきトランジションに向けた取り組み。以上の理由から、今回の起債に際して、『省燃費機材への更新』を資金使途とするトランジションボンドの発行を選択した」と説明している。

 

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(注)JALはその後、債券市場環境の悪化から、トランジションボンドの発行について、10年債を取りやめ、5年債100億円だけを3月1日に発行した。https://www.jal.com/ja/sustainability/transitionbond/

 

https://press.jal.co.jp/ja/release/202202/006508.html

https://mstar-sustops-cdn-mainwebsite-s3.s3.amazonaws.com/docs/default-source/spos/japan-airlines-co.-ltd.-transition-bond-framework-second-party-opinion-(2022)-japanese3d1d96cc-b48c-419a-bc95-7a7bcd270e7c.pdf?sfvrsn=c124cf42_1