HOME |途上国の対外債務と気候対策の実施を交換する「債務気候スワップ(DCS)」は、先進国からの贈与援助等より効果的。国際通貨基金(IMF)が分析公表(RIEF) |

途上国の対外債務と気候対策の実施を交換する「債務気候スワップ(DCS)」は、先進国からの贈与援助等より効果的。国際通貨基金(IMF)が分析公表(RIEF)

2022-08-19 15:52:23

Berizキャプチャ

 

  国際通貨基金(IMF)は、途上国が抱える対外債務を気候関連投資とスワップする「債務気候スワップ(Debt-for-climate swaps : DCS)」の有効性を分析を公表した。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)では先進国から途上国への資金供給が定められているが、十分な資金の流れに至っておらず、途上国の気候対応を進めるために、同スワップの有効性を分析した。その結果、DCSは政府開発援助(ODA)等による途上国向けの条件付き贈与等に比べ、幅広い貸し手に便益が渡るほか、気候対策を最優先できるメリットがあると指摘している。

 

 (写真は、ベリーズのグレート・ブルー・ホール)

 

 IMFの分析は、IMFのMarcos Chamon、Vimal Thakoor、Jeromin Zettelmeyerの各氏と、オランダ外務省のErik Klok氏による共同執筆の「Debt-to-climate swaps : Analysis, Design, and Implementation」と題するワーキングペーパー。

 

 途上国が抱える対外債務を、自然保護や気候変動対策への取り組みと交換する債務自然保護スワップ(DNS)は、1987年に米国の自然保護団体「コンサベーションインターナショナル(TNC)」がボリビア政府との間で結んだ協定が最初とされる。その後、2000年代には米政府が同スワップを使って、中南米の累積債務の解消を進めた。

 

 2015年には、インド洋のセイシェル共和国が抱える債務2160万㌦を、同国とTNCが、割引価格で購入し、民間フィロンソロピー団体等の資金や借入金等に置き換えるスワップを実践した。同国政府は新たな借り入れに際して、同国の水資源を30%保全することや生物多様性地域を15%確保する等の目標を設定した。その結果、同国の水資源保全は当初の0.04%から目標とする30%に向けて進捗しているという。

 

 2021年には中米のベリーズで、ベリーズ政府とTNC、さらに米開発金融機関(USDFC)が連携してスワップの枠組みを作った。まず、民間銀行保有の同国の国債(額面5億5300万㌦)を、額面の55%で買い入れる。買い入れ資金は、TNCの子会社が発行したブルーボンドによる調達資金。ベリーズはTNCから同資金をローンで借り入れ、資金の一部を同国周辺の豊かな海洋保全に回すスワップを行った。海洋保全に毎年420万㌦を充当し、2026年には海洋保護区を現状の16%から30%に引き上げる目標だ。

 

 IMFではこうしたDNSの事例を分析したうえで、同方式を気候変動対策の適応策等に活用することで、自然保全効果と同様の気候対策効果が見込まれるとしている。気候対策を対象としたスワップ(DCS)の場合、何よりも気候対策を途上国が取り組む「最優先の取り組み事項(de facto senior)」と位置付けることができる。

 

 この点で、先進国が一般的にODAで用いる条件付き無償資金譲渡等に比べて、政策効果が見え易いことがあげられる。また対象となる気候対策の効果は、借り手以外の幅広い社会層に便益(気候関連)を供給できる点もあげている。債務スワップを了承する金融機関にとっても、気候対策への貢献を評価し易い。

 

 途上国側のニーズも高まっている、南米コロンビアで今月初めに大統領に就任したグスタボ・ペトロ氏は、就任演説で、同国に属するアマゾン地帯の森林と先住民族を守るため、同国でのDNS導入を提案した。同国の今年の債務額は過去最高の見通しで、外部債務はGDPのほぼ半分にも達している。財政健全化対策と、アマゾンの保全の課題を同時解決することの提案だ。https://rief-jp.org/ct12/127405?ctid=71

 

  DNSやDCSの場合、債務を割引価格で手放す債権銀行の理解と、そうした債務を購入する資金を供給するNGOやフィランソロピー団体等の対応、そして当該国が気候対策・自然保護対策を目標通りに着実に実行できるかどうかが、問われる。TNCのように、全体をアレンジする機関の活動がカギになる。

https://www.imf.org/en/Publications/WP/Issues/2022/08/11/Debt-for-Climate-Swaps-Analysis-Design-and-Implementation-522184