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資生堂、同社初のサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)200億円発行。SPTは2026年にScope1+2ゼロ、女性管理職比率40%。いずれも達成容易な「甘い」レベル(RIEF)

2022-12-07 15:09:23

shiseidoキャプチャ

 資生堂が同社初のサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)を200億円の規模で8日に発行する。資金調達を受けて同社のサステナビリティ価値を向上させるサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)は、①温室効果ガス(GHG)のScope1+2排出量を2026年にゼロ②国内の女性管理職比率を同年までに40%に引き上げーーの2指標を設定した。ただ、①はカーボンクレジットの導入を前提とし、②はこれまでの同社の改善状況では来年にも達成できそうで、「甘い」目標といえる。

 同社によると、SLBは期間5年、金利は年0.450%。資金使途は、一般事業用途に充当される。設定した重要業績指標(KPI)は、CO2排出量(Scope1+Scope2)と女性管理職比率。それらの改善目標となるSPT1を、2026年までにScope1+2でのカーボンニュートラル、 SPT2は、2026年1月1日までに国内女性管理職比率40%、と設定した。

 同社のこれまでのScope1+2の排出量は、2021年が6万5481㌧(前年比9.6%減)、20年の前年比8.0%減、19年3.1%減から比べると、削減ペースは徐々に上がっている。だが、今後、二ケタの削減率になっても26年までにゼロに到着するのは、まず無理。同社自体、SPT1について「排出権購入含む」と注記しており、クレジット頼みであることを隠さない。

 もう一つのSPT2の女性管理職比率の40%達成は、女性顧客が多い同社だけに、よりマテリアル(重要)な指標だ。だがこちらの比率は2022年1月時点で37.3%と、目標の40%に、あと2.7%の伸びで、届くレベルに迫っている。前年比伸び率は7.1%増で、同年並みの伸び率が23年も続くと、3年後の26年まで待たなくても、23年中には達成してしまう計算だ。

 SLBではSPTを達成できない場合は、一種のペナルティとして、投資家に約束した利払いを引き上げる「Step up」条項か、あるいは、目標通り達成した場合に、金利を優遇して引き下げる「Step down」条項を盛り込むケースが多い。いずれもSLB投資家に対する約束事となる。

 ところが、資生堂のSLBは、①いずれのSPTsも未達の場合は社債発行額の0.1%相当額を②どちらかが未達の場合は、同0.05%を、環境保全活 動や女性活躍推進、ジェンダー平等を目的とする非営利団体や国際機関等に寄付するという「寄付型」を選択している。これは同社の社会貢献にはなるが、SPT達成を支援しようとして同社に投資する投資家へのリターンにはならない。「寄付型SLB」は日本に特徴的で、社会貢献とSLBの意味合いを混同した取り組みとして、その「異質さ」をこれまでも指摘してきた。https://rief-jp.org/blog/123709?ctid=33

 ただ、実際には、同社のSPT自体が「甘い」ので、資生堂は余裕をもって両SPTを達成できそうだ。したがって、未達のペナルティを払う必要もないことになる。同社は、自らの企業使命として「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」を掲げている。その決意を踏まえ、SLBについても「2030年に向けて『美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現』を目指し、ブランドや各地域事業、コーポレート機能・組織で連携し、事業活動を通じてサステナビリティアクションを加速していく」と意義を強調している。

 「美の力」を活用するとするならば、SPTはScope3も含め、クレジットの使用には限度を設けて、本業での削減をサプライチェーンも含めて促進し、女性管理職比率に加えて女性役員比率の4割達成、等の「野心的」な目標を打ち立ててこそ、「BEAUTY INNOVATIONS」と胸を張れるのではないか。

  SLBの主幹事は、大和証券、みずほ証券、野村證券の3社。ストラクチャリング・エージェントは、大和とみずほが務めた。セカンドオピニオンは日本格付研究所(JCR)が付与した。

https://corp.shiseido.com/jp/ir/issue/slb/pdf/framework2022.pdf

https://www.jcr.co.jp/download/2dd59f5573a9b987bfb77724cda4ba23a71110bf32a1ad77fc/22d0956_v02.pdf