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欧州委員会。EU製造業の競争力強化で「産業加速化法(IAA)」案。脱炭素技術を軸に、エネルギー集約産業の脱炭素化、EVバリューチェーン強化等。「EU製(Made in EU)」承認も(RIEF)

2026-03-05 00:23:21

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  EU欧州委員会は4日、EUの製造業の競争力を強化する「産業加速化法(Industrial Accelerator Act  : IAA)」案を公表した。同法案は、製造業の脱炭素、クリーン化の技術開発に力を入れ、エネルギー集約型産業の脱炭素化、電気自動車(EV)バリューチェーン、サプライチェーンのレジリエンス確保に必要なネットゼロ技術の開発等を支援する。開発された技術・製品には「EU製(Made in EU)」の承認を与える。中国製品を念頭に、相互主義に基づきEU企業に市場開放を提供する国の企業には「EU製」と同等の待遇を与えるとしている。同法に基づく公的支援等により、EUのGDPに占める製造業比率を2024年の14.3%から2035年には20%に引き上げ、欧州産業のレジリエンス、競争力、経済的安全保障を強化するとしている。

 

 同法案はEU加盟国全体に適用するRegulation案とする。法案は一昨年(2024年)9月に公表されたドラギ報告書に基づき、EU企業の競争力強化をうたっている。IAAは公共調達および公的支援制度に基づき、対象を絞った比例的な「EU製」および/または低炭素要件を導入する。

 

 主な対象産業は、鉄鋼、セメント、アルミニウム、自動車、ネットゼロ技術などの選定された戦略的産業に適用する。同時に、化学品などの他のエネルギー集約型分野にも適切に拡大可能な枠組みを確立するとしている。これにより欧州産業の生産能力とクリーン化が強化され、欧州製クリーン技術・製品への需要が促進される、としている。

 

法案の原点は「ドラギレポート」㊧はドラギ氏、㊨はフォンデアライエン欧州委員長
法案の原点は「ドラギレポート」㊧はドラギ氏、㊨はフォンデアライエン欧州委員長

 

 公的支援による製造コスト低下や、公的調達の拡大による需要創出に加えて、製造プロジェクトの迅速化・簡素化のため、加盟国に対して、国ごとに単一デジタル許可プロセスの構築を義務付ける。サステナブルファイナンスのオムニバス法で取り入れた簡素化措置だ。また各国に、クリーン製造プロジェクトクラスターの創出を促進する「産業加速区域(IAA)」を導入する。

 

 これにより、例えば、自動車・建設用鋼材には低炭素要件が導入され、公共調達やその他の公的介入の対象となる建設用セメントや自動車・建設用アルミニウムには「EU製」要件と低炭素要件が適用される。別途、ネットゼロ技術については、特定の公共調達手続き、入札、支援制度の対象となる場合、バッテリー、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)、太陽光発電、ヒートポンプ、風力、電解装置、原子力技術に「EU製」要件を導入する。EVとその部品についても「EU製」規定を導入する。

 

 法案は「EU製」認定の基準についても、一定の域内の生産比率を満たした製品・素材のみが補助の対象となることを明記している。EVについては金額ベースで部品の70%、低炭素アルミニウムは25%、同セメントは5%等の域内調達比率の数値基準が盛り込まれる。

 

 法案は、こうした「EU製」要件の導入について、不公正な国際競争の激化や戦略的分野における非EU供給業者への依存度増大を背景に、EU域内の付加価値創出を拡大し、産業基盤を強化することを目的とするもの、としている。EUはこれまで、脱炭素化政策の一つの柱としてガソリン車からEVへの転換政策を打ち出してきたが、欧州車によるEV開発が中国車等に大幅な遅れをとり、市場政策だけでなく、脱炭素化政策も修正を余儀なくされた。

 

 IAAでは、こうした「失敗」の経験を踏まえて、EUのネットゼロ技術力の開発・強化を加速化させる一方で、例えば、中国製EV等について、EU市場から「力」で排除するのではなく、相互主義による相手国市場の同等程度の市場開放策と、EU企業へのIAAによる公的支援による競争力強化策の組合せで、非EU企業のEU市場への投資継続を確保しつつ、EU企業の競争力を高める政策を展開する形をとる。EU市場への参入が継続的に認められる非EU国の企業は、EU原産品と同等の待遇の恩恵を受けることになる。

 

 こうした相互主義措置の対象になるのは、EUが自由貿易地域または関税同盟を確立する協定を締結したパートナー、あるいは政府調達協定の締約国であり、かつ当該協定に基づきEUに義務が存在する場合等としている。したがって中国企業だけでなく、日本や英国など友好国の企業による事業も一部対象となる。その他の公的介入(特に公的スキームやオークション)については、EUと自由貿易協定または関税同盟を結んでいるパートナーはIAAの適用対象となり得る。

 

 また、EV、電池、太陽光、重要原材料の各分野で、世界の生産能力の40%以上を保有する国(中国等)に本拠を置く企業による1億ユーロ(約180億円)超のEUへの直接投資については、技術・知識移転および現地調達要件の遵守を通じ、EU域内で高品質な雇用創出、イノベーション・成長の促進、実質的価値の創出を必須として認める。その投資要件としては、EU資本の過半数保有、技術移転、EUバリューチェーンへの統合、雇用創出(欧州人雇用比率50%以上)等を設定する。これらの措置はEUの既存のFDI審査枠組みを補完するものと位置付けている。

 

 欧州委では、IAAが本格稼働した際の経済効果として、次のように見通している。同法によって、EUへの多大な付加価値と高品質な雇用が創出されるとし、低炭素需要対策だけで、2030年までに鉄鋼、アルミニウム、セメント産業で6億ユーロ超、自動車バリューチェーン全体で最大105億ユーロの追加価値が生み出される。さらに、バッテリープロジェクトで8万5000件、太陽光発電製造で5万8000件を含む数万の雇用を創出されるとともに、鉄鋼、アルミ、セメント産業がクリーン生産へ移行する過程で既存雇用を保護できるとしている。

 

 非EUの外国企業による投資に課される欧州人雇用比率等によって、地域雇用機会を創出するとともに、EU全体の製造業生産能力を強化できるとしている。ただ、欧州委では「欧州企業に技術を開放していないと判断すれば市場アクセスを拒否する」と指摘しており、市場開放の相互主義認定がカギになる。またデジタル化された許可手続きにより、EUの全製造業で最大2億4,000万ユーロの行政コスト削減が見込まれる。

 

 脱炭素化・クリーン化効果としては、エネルギー集約型産業(鉄鋼、アルミ、セメント)、電池、自動車部品分野で合計3,058万㌧のCO2削減が見込まれる。許可手続きの効率化は脱炭素化プロジェクトの加速を促し、EUの温室効果ガス(GHG)総排出量の22.5%を占める当該セクターの排出削減ペースを加速させる。

                          (藤井良広)

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_26_515

https://single-market-economy.ec.europa.eu/publications/industrial-accelerator-act_en