HOME |温暖化の影響、2016年のグローバルな経済的損失1290億㌦。貧困国の損失大きく。65歳以上高齢者の高温ストレス年間1億2500万人。熱帯伝染病拡散の危険も増大。英医学チーム報告(RIEF) |

温暖化の影響、2016年のグローバルな経済的損失1290億㌦。貧困国の損失大きく。65歳以上高齢者の高温ストレス年間1億2500万人。熱帯伝染病拡散の危険も増大。英医学チーム報告(RIEF)

2017-11-03 21:36:05

 

  英医学チームのThe Lancet Countdown は、地球温暖化によるグローバルな異常気象増大による健康被害などの経済的損失が2016年には1290億㌦(約14兆6000億円)に達したとの推計を公表した。同報告は今後も、気候変動によって干ばつや暴風雨、洪水が増加していることから、損失額はさらに増加するだろうと警告している。

 

 報告書は、英医学誌ランセット(The Lancet)に掲載された。24の学術機関と世界保健機関(WHO)、世界気象機関(WMO)を含む政府間組織の専門家らがまとめた。調査対象は、①気候変動の影響・被災・脆弱性②適応計画と健康回復③回避行動と健康のコベネフィット④経済と金融⑤公的・政治的エンゲージメント――の5分野で、40の主要指標に基づいて評価分析した。

 

  報告書を共同代表の形でまとめたWHOのAnthony Costello教授は「気候変動はすでに起きており、世界中の数百万人の健康にすでに影響を与えている。温暖化は、今世紀における人類の健康に最も危険な現象だ」と指摘した。

 

 2016年に世界全体で発生した気候変動による自然災害は797件で、2010年から46%も増加。経済損失額はフィンランドの国家予算に相当する1290億㌦に達した。損失は各国に平均的に発生しているのではない。

 

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 貧困国では異常気象による昨年の損失額が2010年から3倍に増え、先進国よりも国内総生産(GDP)に占める割合が大きくなっている。さらに貧困国では保険制度の未整備で、損失額の99%は保険対象外になっているという。温暖化で「貧者はますます貧しくなる」というのが実態だ。

 

 主な分析によると、65歳以上の高齢者で異常な高温の被害を受けた人は、2000年から2016年の間に世界全体で年間1億2500万人の増加となっている。医師によると、高齢者は特に高温によって健康を害し易いと警告している。異常高温はストレスを高め、心臓負担を高め、持病に心臓病を持つ人や腎臓病の病状を悪化させる、としている。

 

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 高齢者の弱体化だけでなく、労働能力への影響も顕在化している。同じ2000年~2016年にかけて、グローバルな農業従事者の労働能力は高温の影響で5.3%減少している。野外で労働する農業従事者にとって、頻繁に異常高温が起きることで、労働作業ができなくなる事態が増えているためだ。

 

 また温暖化の広がりで、熱帯地帯に限られていたデング熱などの伝染病を媒介する蚊の生息範囲が拡大することで、デング熱の伝染が、1950年と比較すると、9.5%増加していることもわかった。報告書はもし各国政府や国際機関が、過去のHIV/AIDSやエボラ熱、ジカ熱等の経験を踏まえて迅速な対応をとらなければ、人類はさらなるコストを払わねばならないだろう、と警告している。

 

 化石燃料燃焼による温暖化の進展とともに、ばいじんなどの大気汚染の増加で、脳卒中や心臓病、肺がん、慢性、急性の両呼吸疾患等が増加する。大気汚染が原因による早死は、東南アジアだけで2015年だけで190万人を超えた。

 

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 温暖化の最大の原因で、健康被害の原因になっている石炭燃焼は1990年以降、急増し続けた。エネルギーに占める石炭の割合は、2013年には最大の石炭消費国中国で、第一次エネルギーの85.43%を占めた。ただ、中国を含め、13年をピークとしてグローバルな石炭消費は低下傾向に入って入る。15年の中国の比率は81.9%とまだ高いが、米国は15.3%、欧州17.18%で、いずれも90年の半分に下がっている。

 

 報告書のもう一人の共同代表である前国連気候変動代表でパリ協定締結を主導したChristiana Figueres氏は、「これまで科学者たちが気候変動の負の側面を指摘してきたが、今やわれわれの医者たちが、気候変動が健康に影響を引き起こしていると語っている」と述べ、迅速な温暖化対策の必要性を呼びかけている。

 

http://thelancet.com/climate-and-health?dgcid=etoc-edschoice_email_Nov4