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日立製作所の英原発輸出事業で、リスク対策費用を日本の税金で負担へ。「おんぶに抱っこ」の原発輸出(RIEF)

2018-05-30 14:07:57

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 各紙の報道によると、日立製作所が英国で進める原子力発電所の新設計画で、計画が予定通りに進まなかった場合のリスク対策費を、日英両国政府が拠出する方向で検討しているという。リスク対策費用は総額4500億円。事業者の日立のほかに、日英両国政府がそれぞれ1500億円ずつ拠出するという。民間事業者の海外事業リスクを税金でカバーする政府判断はどのような法的根拠に基づくのだろうか。

 

 日本経済新聞などの報道によると、日立製作所は28日の臨時取締役会で、原発の新設計画について英政府と協議を継続する方針を確認。そのうえで、6月上旬にも英政府との間で計画継続を確認する覚書を交わす考えという。英政府は覚書を結んだ後、事業計画を英議会で説明するとみられる。

 

 日立の原発輸出問題では、日本の東京電力福島第一原発事故以降に増大した安全対策費用の分担が焦点となってきた。安全対策費用を強化した結果、総事業費は3兆円規模に膨らだことで、英政府側が日立への直接融資と、英金融機関による融資で約2兆円を負担、残りの約1兆円分について、日立、英政府と現地企業、日本の政府系金融機関等が、それぞれ3等分して負担する方向で調整している。

 

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 今回のリスク対策費は、それに加えて、3者が新たに1500億円ずつを拠出する見通しという。リスク対策費用は、原発建設工事が計画通り進まない場合に生じる損失分への対応とされる。しかし、工事計画の進行リスクは本来、事業会社が通常のリスクとして負うべきもの。民間事業である日立の海外原発計画において、日本政府が税金で補填しなければならない法的根拠は何なのだろうか。原発による電気の使用は、日本の消費者ではなく、英国の消費者が享受する。

 

 結局、報道では、新たなリスク対策費用は、「工事遅延リスク」としているが、実態は3兆円の事業費増大分をさらに下支えする費用でしかないように思える。同原発で発電した電力の買取り価格については、英政府は世論の反発を受けて、引き上げに難色を示しているとされる。日立が要求する水準と英政府の買取り価格との差は約2割あるとされ、その穴埋めも必要とされる。

 

時期権団蓮会長に就任する日立の中西社長。英メディアには「日立のリーダーは、もっとマネーを、と要求している」と説明されている
次期経団連会長に就任する日立の中西社長。英メディアには「日立のリーダーは、もっとマネーを、と要求している」と説明されている

 

 新規原発建設による税負担という点では、英国でも今回の原発建設で、英国の全世帯の電気料金負担額が一律、年3ポンド(約430円)の上昇になるとの試算が出ている。英国沿岸に多数建設されている洋上風力発電のコストよりも高い、と環境NGOらは反発している。

 

 未解決の最大の課題が、原子力損害賠償責任の軽減・免除だ。英国の制度では事故時に原発事業者が一定の有限責任を負うことが原則だ。これに対して日本では事業者に原則、無限責任を求めている。このため福島事故で東電が巨額の賠償責任を負い、政府が東電への融資という形で、つじつまを合わせている。英国で事故が起きた場合、そうした政府支援が行われるかは不透明なままだ。

 

 日立の英原発輸出については、一時、撤退論も浮上した。しかし、同社はすでに計画に約2000億円の資金を投じており、計画撤退となると現地企業への賠償等で損害額が膨らむとみられる。採算性に疑問を残しながら、「引くに引けない」状況で、英政府の支援が限られるとすると、日本政府の支援(税金)をあてに前進あるのみ、ということかもしれない。しかしそれだと、東芝の二の舞になるリスクもある。