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米最大の非上場石炭会社「マレー・エネルギー」倒産。ロバート・マレー会長はトランプ大統領の支援者。トランプ政権の石炭優遇策引き出すも、シェール・再エネとの市場競争に勝てず(RIEF)

2019-10-31 23:19:01

MUrray1キャプチャ

 

  トランプ大統領の支援者で、米最大の非上場石炭会社マレー・エネルギー社(オハイオ州)が、経営不振のため連邦破産法11条を申請した。創業者で会長兼CEOのロバート・マレー氏は、オバマ前政権による石炭火力発電規制のクリーンパワープラン(CPP)法停止をトランプ政権に進言、成功したが、国内のシェール油・ガス開発や再生エネルギー発電の進展で、石炭火力発電は価格競争力を喪失、市場の力に負けた形となった。

 

 (写真は、「最後の石炭王」になった(?)ロバート・マレー氏)

 

 マレー社は、米ウェストバージニア、アラバマ、イリノイなどの6州で13の炭鉱を操業中。海外でもコロンビア、南アフリカで操業している。年間生産量は5300万㌧(2018年)。米国では非上場石炭企業として1位、上場企業を含めても第3位というトップ石炭鉱業。従業員は5500人。

 

 債務額は27億㌦(約3000億円)と年金債務が80億㌦(約8600億円)に上る。同社は10月初めから銀行団と買い入れの返済猶予の交渉を続けてきたが、最終的に資金繰りに行き詰まった。再建プロセスに入り、同社は新会社「Murray NewCo」に移管される。マレー氏は、会長にはとどまるがCEOには、前CFOのRobert Moore氏が就任する。

 

マレー・エネルギー社の本社(オハイオ州)
マレー・エネルギー社の本社(オハイオ州)

 

 マレー氏は、「破産法申請は簡単な決定ではなかった。だが、会社が資金の流動性を確保し、もっともいい状態を維持するためには必要な措置だ。マレー社と関連会社の従業員と顧客にとって望ましいうえに、会社の長期的成功にも望ましい」との声明を出した。

 

 米石炭産業は、2000年代後半をピークに生産が減少、2016年には最大企業のPeabody社が倒産するなど、倒産・閉山が相次いでいる。その中で、マレー社は、2016年の大統領選でトランプ氏が勝利するや、オバマ前政権が打ち出した石炭火力発電所を州法で規制するクリーンパワープラン(CPP)法の停止のほか、米環境保護庁(EPA)の石炭産業への規制緩和・廃止等を強力に働きかけ、政治的成果を得てきた。

 

 しかし、法規制の停止や緩和だけでは、石炭鉱業が昔のように息を吹き返すには不十分だった。エネルギー市場には新たなライバルが相次いで浮上し、その競争力が極めて強力であったからだ。

 

石炭への発電需要の変化
石炭への発電需要の変化

 

 太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギー発電は、ここ数年、急速にコスト低下が進み、またシェール油・ガスも、同様に低価格の競争力を身につけて台頭。米国内のエネルギー価格だけでなく、グローバルなエネルギー市場の流れを変える力となっている。

 

 また2017年には、同社のユタ州のCrandall Canyon鉱山で、9人の鉱山従業員と救助隊員が死亡する事故が発生。安全対策を怠ったとして、当局から罰金を科せられたほか、すべての鉱山の安全対策強化を命じられ、追加コスト負担が増加、経営に影響したとみられる。

 

 さすがのトランプ大統領も米経済の原動力である市場の競争力を阻んで、マレー社を支えることまではできなかったことになる。マレー社の破綻は、トランプ政権のエネルギー政策の“失敗”を意味することでもある。EPAの規制の180度転換や、スタッフ削減等も、マレー氏が大統領に進言した結果とされる。

 

 米非営利シンクタンクの「Institute for Energy Economics and Financial Analysis(IEFFA)」の代表役員のSandy Buchanan氏は「マレー氏は米国で最後の『石炭オプティミスト』だった。彼は人生を石炭鉱業に捧げたといえる。石炭維持のためにあらゆることを試みたが、今回の破産法申請はそうしたすべての結果でもある」と指摘している。

 

Chart: Coal's Diminishing Role in the Power Sector

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 マレー社の破綻と、マレー氏の事実上の経営からの退陣は、トランプ大統領の再選の行方にも影響を及ぼしそうだ。マレー氏はトランプ氏が大統領選挙に出陣した際、最大の寄付者だった。大統領就任式だけでも、30万㌦(約3200万円)を寄付している。

 

 今年の夏も、再選を目指すトランプ氏の各州でのファンドレイジング委員会が200万㌦を集めたが、その多くが個人献金で、マレー氏はマレー社の従業員や取引先、サプライヤー等に働きかけて、集金力を発揮したという。マレー社の「Corporate PAC」も16万㌦を、マレー氏自身も28万4000㌦を寄付している。同氏は共和党にも21万3000㌦を寄付している。

 

 こうしたマレー社とマレー氏自身を軸とする集金システムが頓挫するほか、同社の破たんは、トランプ政権のエネルギー政策の失敗を明確にした。強引な石炭産業回帰策のツケがブーメランのようにトランプ大統領に戻ってきそうだ。

 

http://murrayenergycorp.com/