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中国のEV市場拡大に急ブレーキ。政府の補助金政策の「失敗」に加え、コロナウイルス感染問題や米国との対立等での消費低迷で、販売目標の達成が遠ざかる(各紙)

2020-05-19 00:45:26

EV11キャプチャ

 

  各紙の報道によると、中国の電気自動車(EV)の拡大に急ブレーキがかかっているという。原因の一つは、昨年、政府がメーカーへの販売補助金を減らしたことで販売が急低下、同年の販売は4%減と初のマイナス成長になった。そこへ新型コロナウイルス感染の拡大の影響が重なっているため、今年のEV需要の回復は全く見込めない状況のようだ。

 

 日本経済新聞等が報じた。中国政府は、2025年にEV新車の販売を年間700万台に乗せることを目指してきた。だが、19年の新エネルギー車(EVとプラグインハイブリッド車などの合計)の販売台数は、18年比で4%減の120万台と初めて前年実績を割り込むなど、低迷しており、現時点で、目標達成の見通しは大きく遠のいている。

 

 このため政府は今年3月に急きょ、年内に終了予定だったEV補助金を2年間延長して、消費刺激を目指す方向を打ち出した。だが、コロナの影響による景気減速と、米国との対立激化による将来不安の増大が暗雲となって覆いかぶさっている。同紙は「中国のEV戦略は大きな見直しを余儀なくされる」と指摘している。

 

各社が競ってEVを市場に送り出してきた
各社が競ってEVを市場に送り出してきた

 

 中国政府は中国を世界最大のEV市場にすることを目指して、内外のメーカーを競合わせてきた。広大な可能性を秘める中国市場に参入してくる外資メーカ―を受け入れる一方で、補助金を最大の推進力として、これまでに1兆円を超える資金を中国メーカー等に投じてきた。メーカー同士の販売競争でEV価格の引き下げを奨励、市場の拡大につなげる戦略を推進してきた。

 

 補助金の「アメ」だけではなく、2017年には、各自動車メーカーに、中国市場での販売全体の1割前後をEVとすることを義務付ける「NEV規制」を導入した。メーカーが自らEVシフトすることを義務付ける「ムチ」の政策だ。同政策は当初、18年実施を目指したが、外資メーカーの反発によって、19年にずらした。ただ補助金削減の影響の方が大きく、昨年の販売では、大半のメーカーがNEV規制の基準を達成できなかった。「アメ」と「ムチ」の政策の複合効果は空振りになった形だ。

 

  政策の空回りにもかかわらず、昨春には、新エネ車の販売を25年に700万台を目安に引き上げる強気の目標を設定した。700万台の販売は、現下の中国の新車販売全体の25%前後に相当する。中国経済は昨年、初のマイナス成長になっており、こうした強気のEV目標を達成するには、今後、毎年40%近くの成長の持続が必要だ。しかし海外市場もコロナ感染拡大で冷え込んでいる。いかに習近平指導部が厳命したとしても、現状は達成不可能な情勢になっている。

 

NIOの新EVモデル
上海蔚来汽車(NIO)の新EVモデル

 

 EV市場拡大の急減速は企業経営も直撃している。中国政府の推進策に乗って設立された新興EVメーカーの多くが、軒並み苦戦しているのだ。中国では15年ごろから政府補助金を当て込んだEV起業が相次ぎ、少なくとも60社程度の新興EVメーカーが創業した。

 

 中国EV最大手の一角の比亜迪(BYD)が3月末に発表した19年12月期決算で、純利益は42%減の16億元(約240億円)と大きく落ち込んだ。BYDは利益急減の理由を「政府補助金の減少が採算悪化につながった」と説明した。さらにコロナ感染の影響が全土に広がった1~3月期には一段と業績が悪化、純利益は前年同期比で85%も減った。BYDと並ぶEV大手の北京汽車集団も同様だ。

 

 新興EVメーカーの代表格の上海蔚来汽車(NIO)は18年、米ニューヨーク市場に上場した。だが、上場直後にEVの発火事故が相次ぎ、販売が低迷。19年夏には1000人規模の人員削減を余儀なくされた。中国EVのユニコーン(時価総額10億㌦以上の未上場企業)の有力企業である威馬汽車や拜騰(バイトン)も19年後半からリストラを続けている。

 

BYDのコンパクトなEV
充電ステーションで充電中のBYDのEV

 

 外資メーカーも振り回されている。米テスラは今春、一部車種の値上げに踏み切った。だが政府が突如、補助金の延長策を打ち出したため、値上げ発表のわずか数日後に、補助金受給を目指して、30万元を超える車両販売価格を緊急値下げした。消費者も混乱した。

 

 EV市場のグローバルなけん引役である中国に息切れが生じると、他国にも影響が及ぶ。EUは2050年のカーボンニュートラルを実現するため、欧州グリーンディール(EGD)を掲げ、加盟各国間でEV普及を競い合っている。コロナ対策後の「グリーンリカバリー」政策でも、EVは主要課題の一つだ。だが、依然、高い販売コストが最大の普及のネックだ。EV量産のカギを握る中国メーカーが“失速”すると、グローバルな影響も少なくない。

 

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO59254550Y0A510C2FFJ000?type=my#AAAUAgAAMA