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韓国で海外石炭火力発電事業への公的ファイナンス禁止の議員立法案、国会に提出。「例外措置なし」。日本の石炭輸出規制の改正を踏まえ、「日本より進んだ措置」を目指す(RIEF)

2020-07-31 18:51:10

coal001キャプチャ

 

 韓国の国会に、石炭火力発電の海外輸出を全面禁止する法案が提出された。日本政府は先に示したインフラシステム輸出戦略改定の中で、石炭火力は例外条項を付して原則禁止の方針を打ち出した。これに対して、韓国の議員立法案は、行政方針ではなく、法規制であることに加え、韓国輸出入銀行によるファイナンスも含め、例外なしでの禁止としている。グリーンニューディールを宣言している文在寅政権の対応が問われる形だ。

 

 議員法案立法の形で提案された法案は4本。4月に再選された文政権がグリーンニューディールを宣言したことを受けた形だ。民主党の禹元植(Woo Won-shik)議員や、李明博政権下で外交通商相を務めた金星煥(Kim Sung-hwan)議員らが法案作成にかかわっている。

 

 法案は、これまでアジア等での石炭火力発電事業に大きくかかわってきた韓国電力公社(Kepco)、韓国輸出入銀行、韓国開発銀行、韓国貿易保険公社の各公的機関による海外向け石炭火力事業への投資を「例外なく(without Exceptions)」禁止することを定めるとしている。

 

韓国電力公社(Kepco)
韓国電力公社(Kepco)

 

 金星煥議員は「世界中の国々が、気候変動問題に対処するため、石炭事業の縮小・停止を優先して進めている。そうした中で、韓国の公的金融機関が石炭事業へのファイナンスを自ら宣言しないならば、議会が法律を改正して、そうした投資を停止させるべきだ」と指摘している。

 

 禹元植議員は、輸出入銀行法の改正案を提出した。同氏は「OECD諸国の中で、日本と韓国だけが、海外での石炭事業に対して公的なファイナンスを提供している。韓国は、各国が気候変動との闘いに奮闘している中で、そうした活動を無視する国際的な『気候悪党(climate villain)』に擬せられている」とした。同議員の論旨によれば、日本も「気候悪党」ということになる。

 

 いずれも議員立法の提案なので、法案が成立するかどうかは現時点では不明。だが、法案の内容は、文政権が宣言したグリーンニューディール政策に合致することは間違いない。法案には環境問題等を重視する超党派の与野党議員の賛同も見込まれており、文政権の対応が問われる形となっている。

 

 こうした政治状況を踏まえて禹議員は「グリーンニューディールを推進するならば、海外向け石炭輸出の禁止は当然の道だ。そうすることによって、韓国は『気候悪党』の汚名を晴らすことができる」と強調している。

 

 同時に各議員は、日本の石炭火力輸出政策よりも強力な内容にすることで、日韓の差を明確にしたいとの思惑もあるようだ。日本政府は7月9日、「インフラシステム輸出戦略」(改訂版)を公表し、石炭火力の途上国向け輸出について、「原則停止、条件付き容認」の新方針を示した。

 

 容認する例外として、①途上国側が、エネルギー安全保障や経済性の理由で、当面石炭火力を選択せざるを得ない国から要請があった場合②超々臨界圧石炭火力(USC)以上の環境性能の発電所の導入支援に限定して認める、との内容だ。https://rief-jp.org/ct5/104568?ctid=71

 

 韓国の議員立法はこうした容認条件を一切排除する点に力を入れている。かつ日本のように行政方針ではなく、法規制という明確な内容である点で、成立すれば、日本に対して政策力での「差」を付けることが可能になる。

 

日韓協調の石炭輸出事業となるか、日本だけか。ベトナムのブンアン2事業
日韓協調の石炭輸出事業となるか、日本単独化するか。ベトナムのブンアン2事業

 

 今回の韓国の石炭輸出禁止法案の行方は、日韓の政策比較だけではなく、具体的なプロジェクトへの影響も想定されている。法案は基本的に、すでに稼働している事業は阻止対象には含めない。しかし計画中の案件には影響が及ぶ。

 

 この点で、わが国の三菱商事が主導してベトナムで進めているブンアン2発電所事業への影響が指摘されている。同事業では、香港の電力会社CLPが撤退を決めており、その権益をKEPCOが引き受ける方向となっている。だが、同事業は韓国では「計画段階」とみなされ、法案が成立すると規制対象になる可能性が指摘されている。https://rief-jp.org/ct8/103691

 

 KEPCOは現在、ブンアン2事業の予備的調査を急いでいるとされる。その背景には、今回のような事情も影響しているとみられる。仮に韓国の法律が成立し、KEPCO等がブンアン2事業に参画できないとなると、同事業は日本の官民だけが推進する「純粋日の丸石炭火力事業」になる。そうなると、世界中の目が「気候悪党」の日本に注がれることになりかねない。

 

https://www.eco-business.com/news/south-korea-proposes-ban-on-overseas-coal-financing/?utm_content=buffer50a22&utm_medium=social&utm_source=facebook&utm_campaign=buffer